10話 魔力とお風呂とお手伝い
「では、今日は魔力を与えよう。今から君に、魔力を流し入れる。魔力があるとできること、それは身体能力の底上げだ。上手く使うと電車より速く走れるようになり、自分より重いものを持てるようになる。では、近くに来てくれ。」
言われた通りに近付く。それにしても、電車より速く走れるって、楽しそうだなぁ・・・・。敬明先輩の目の前に立つと、胸の辺りに手を置かれた。
「はい。」
「痛っうぅ・・・・。」
痛い痛い痛い・・・・胸が焼ける!痛い、熱い、息が出来ない苦しい・・・・。
「今日はこれで終わろう。大丈夫、その痛みはすぐに治まる。今日は・・・・ふむん、和音と寝るのか?そうか、分かった。では、和音、あとは頼んだぞ。」
敬明先輩の声が遠ざかる。痛い。苦しい・・・・。
気が付くと、目の前に和音ちゃんの顔があった。
「えっと・・・・。」
『あ、気が付いた?胸はもう痛くない?』
ようやく、私が膝枕されていることに気付いた。少し、恥ずかしいけど、なんだか安心する。
「うん、もう、痛くないよ。ええと、今何時?」
『えーと、今、8時くらいかな。』
「え、30分も膝枕してるの?お、重くない?」
『ええ、大丈夫よ。むしろ軽いくらい。それより、ごめんね、敬明がちゃんと説明せずにやって。びっくりしたでしょ。』
「うん。でも、大丈夫。」
『あ、そろそろ上に戻ろっか。』
「あ、うん。」
あ、膝枕・・・・。
『ふふ、膝枕くらい、またいつでもしてあげるわよ。』
「あう・・・・。」
リビングに着くと、そこには誰もいなかった。どうやら、各々の仕事部屋に居るようだ。
『えーとね、作っておいたプリンが冷蔵庫にあるから、取ってくるね。』
「え!手作りプリン!?すごいね!」
『そう?ありがとう。えーと、飲み物は何がいい?紅茶?コーヒー?ジュース?』
「えーと、じゃあ、紅茶で。」
『わかった。じゃあ、座って待っててね。』
プリンは、フワフワとした食感でとても美味しかった。
「おいしい!ん~幸せ~。」
『そんなに喜んでもらえて嬉しいわ。』
「だって、美味しいんだもん。」
『かわいいなぁ・・・・。』
「ふぇっ!?」
い、いま、わたし、かわいいって、かわいいって言われた!?
「か、かわいいなんて、そんな、和音ちゃんの方がかわいいし!」
『ふえっ!?』
「・・・・。」
『・・・・。』
気恥ずかしくなって、和音ちゃんから目を離して絶品プリンを黙々と食べた。
食べ終わり、落ち着いてきたので、2人でみんなにプリンを届けてきた。あまり目を合わせることはなかったけど。
『えっと、お風呂、一緒に入ろ?』
「えっ、あっ、う、うん。」
『あっ、いやその、シャンプーとか、タオルとか、分からないだろうからって・・・・。』
「う、うん。」
びっくりした・・・・。うぅ、でも和音ちゃんと一緒にお風呂・・・・。
『あ、えと、タオル、巻いてはいろっか。』
「う、うんそうだね。」
流石に裸を見せるのは恥ずかしいからね・・・・。よかった・・・・。
お風呂の浴槽は人1人がゆったりと入れるくらいの大きさだったけど、洗う場所はとても広かった。
『えっと、これがシャンプーで、これがリンス、こっちがボディソープね。洗顔は、これでいいかな。じゃあ、先洗ってて。』
和音ちゃんはかけ湯をして浴槽に入った。
頭と顔を洗って、体を洗おうと、スポンジを泡立てていると、和音ちゃんが浴槽から出てきた。
「どうしたの?」
『え、えっと、背中、洗わせてくれる?』
「あ、うん、いいよ、ありがとう。」
和音ちゃんにスポンジを渡して背中を向けると、和音ちゃんが優しく洗い始めた。
「んっ。」
スポンジが止まってしまった。
「あ、いや、気持ちよくって。続けて、くれる?」
またスポンジが動き出す。
「んっ、そうそう、気持ちいいよ。」
やがて、洗い終わり、スポンジが返された。前の方とかを洗ってシャワーで流す。その間和音ちゃんは後ろの方でぼぅっとしていた。何か変なところでもあるのかな。
泡をすべて流したことを確認して、和音ちゃんに一声かけてから浴槽に入る。
「ふう、気持ちいい・・・・。」
少しして、和音ちゃんが体を洗おうとしていた。
「あ、お返しに背中洗うよ。」
和音ちゃんはこちらを向かず、そのままの姿勢でゆっくりと頷いた。
浴槽から出て、スポンジを受け取り、背中を優しく洗う。すると、和音ちゃんがビクンと震えた。
「あ、ごめん、痛かった?」
和音ちゃんが首を横に振った。
「えっと、続けるよ。」
和音ちゃんは首を縦に振った。
和音ちゃんの小さな背中はすぐに洗い終わり、スポンジを返した。きれいな背中だなぁ・・・・。
お風呂から上がり、持ってきていたパジャマに着替えると、リビングで、ゆっくりしようということになった。
「あ、牛乳?ありがとう。」
『うん、まあ私も飲むから。それより、何かして遊ぶ?』
「いや、ごめん、もう眠くなってきちゃった。」
『そう。じゃあ、私の部屋に行こっか。』
「うん・・・・。」
牛乳を飲み終え、台所にコップを置いて、2階の和音ちゃんの部屋へ向かう。
「そういえば、優ちゃんと穂高ちゃんは?」
『あの2人は先生達と寝るみたいよ。先生達のベットは大きいからね。』
「そっか。ふわぁ・・・・。」
『ふふ、本当に眠いのね。ほら着いたよ。』
ピンクのドアに和音と書かれた札の掛かった部屋へと入る。ベッドに一直線に向かって、そのまま倒れこむように横になった。
「おやすみ・・・・。」
とってもおいしいカレーライスとサラダを食べた後、私は先生方に呼ばれた。
「今日から手伝ってくれるのは君だよね。」
「あ、はい。よろしくお願いいたします。」
「じゃあ、仕事は私たちの部屋だから、着いてきてくれ。」
「はい。」
先生方に付いて2階に上がってすぐの部屋に入る。所々に紙屑は落ちていたが、埃は無く、清潔そうな部屋だった。部屋には、大人が4人くらいは寝れそうな大きなベッド、パソコンとコピー機が1台ずつ置かれた机が2つ。そして本や漫画、アニメ、映画などが詰まった本棚が、壁一面にあった。
「さて、座るところは・・・・ベッドくらいしかないか。まあ、好きなところに座ってくれ。」
「あ、はい。」
とりあえず、ベッドに腰を下ろす。
「とりあえず、君に手伝ってもらうことだが、書類の整理整頓と、お茶汲みくらいだ。まあ、暇な時はそこの本でも読んでるといい。」
「そうね。まあ、難しいことは無いから、気楽にするといいわよ。」
「わかりました。頑張ります。」
そうして、先生方はパソコンを起動して操作し始めた。
「すまない、ブラックのコーヒーを。」
「私は・・・・あ、分からないわよね。付いていくわ。」
「はい、わかりました。」
「んもぉ、固い!この家の中は敬語禁止ね!」
「いえ、ですが・・・・。」
「禁止よ!」
「は、あ、うん、わかったわ。」
うう、先生なのに・・・・。
「代所の、ここ。ここに紅茶とコーヒーのティーバッグがあるから、これで入れるの。とくにこだわりはないから、適当で良いわよ。カップはこれね。」
「うん、わかった。」
ふーん、こんな家でもティーバッグなんだ。まあ、ティーバッグじゃなかったら手伝えるかわかんないけど。えーと、ポットはあれかな。
「まあ、できるわよね。あなたは何飲むの?」
「あ、えーと、甘めのコーヒーにしようと思いま・・・・思うわ。」
「うん、わかったわ。えーと、砂糖とミルクはこれを使って。」
「は、う、うん。」
敬語使わないの、慣れないなぁ・・・・。
やがて全てのカップにいれ終え、上に戻った。
先生方の部屋に戻ると、私用の机が用意されていた。ピンクでハート型の可愛らしい机ね。乃木先生のものかしら。
「すまない、私が昔使っていた机で、所々汚れているが、これを使ってくれ。クッションと座椅子、どっちがいい?」
「えっ、これ、藤田先生の机なんですか!?」
「ああ。そうだが・・・・?」
「あ、いえ、なんでも。えーと、クッションでいいで・・・・あー、いいよ。」
また敬語を使ってしまい、乃木先生にじとーっと睨まれてしまった。
「まあ、咄嗟に出たのは今後直していこうね。」
「う、うん。」
「はは。じゃあそれ、もらってもいいかな。」
「あ、うん、どうぞ。」
「ありがとう。」
「ありがとうね。」
それぞれの机のコースターにそれぞれの飲み物を置いていく。
「よし、では始めるか。あ、今はまとめる書類もないから、本を読むなり、暇を潰していてくれ。」
「うん。」
紙屑をゴミ箱に入れてから、本棚の本を取った。うーん、小説は・・・・難しそうね。とりあえず、漫画を適当に読もうかしら。あら、このシリーズ、穂高ちゃんの家にあったわね。えーと、女の子同士の恋愛、ね。私はあまり興味無いのだけれど、穂高ちゃんは好きだったわね。必死に隠そうとしてたけど、別に気味悪がらないのにね。人の趣味なんて、とやかく言うもんじゃないわ。
お読みいただき、ありがとうございま
した。
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