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1話 入学式


今日は待ちに待った中学校の入学式!近いからって入試がある学校にしたせいで勉強が大変だったけど、優ちゃんのおかげで頑張れたんだ。


「さゆりー、そろそろ時間よ。」

「はーい、お母さん、行ってきまーす。」

「いってらっしゃい。」


玄関の扉を開けると、家の前に優ちゃんと穂高ちゃんが待ってくれていた。


「おっ、きたきた、おっはよーさゆりちゃん!」

「おはよー穂高ちゃん、優ちゃん!」

「おさよう、さゆりちゃん。じゃあ、行こうか。」

「うんっ!」


そして、()()()()()優ちゃんと腕を組んだ。


「ここにキマシタワーを・・・・。」

「どうしたの穂高ちゃん、早く行こう?」

「あっ、うん。」


私達はこれから何度も歩くことになる道を歩んでいった。





学校までもう少し、といったところで、俯いてぼうっと突っ立っている小学校低学年くらいの背の女の子が1人でいるのが見えた。


「迷子、かな?」

「そのようね。どうする?」

「私、行ってくる!」


私は小走りに女の子に近づいて、なるべく優しく話しかけた。


「ねえ、君、どうしたの?大丈夫?」


すると女の子はこちらに顔を上げて、私の目を見た。


(この子・・・・すっごくかわいい!!)


腰まで届くとても長い黒髪をした女の子だった。私はあまりのかわいさに、すこし放心してしまっていて、男の人が近づいてくるのに気付かなかった。


「おや、和音、こんなところにいたのか。探したじゃないか。ああ、すまない。ん?君、和音を気遣ってくれたのか。ありがとう。名前を教えてくれないか、あとで礼がしたい。君?大丈夫か?」

「えっあっいえ、はい、大丈夫です。えと、名前ですか?私は上白石(かみしらいし) さゆり、といいます。えと、お礼なんて・・・・。」


突然の声に少し驚くも、ちゃんと対応できた。


「いや、礼はさせてもらおう。ふむ、いい子だね。じゃあ、和音と仲良くしてやってくれ。君も新入生なのだろう?」

「は、はい、そうです。」

「では、すまない、急いでいてな。また会おう。」


と、男の人は少女と学校の方へ歩いていった。


「あ、名前・・・・。」

「どうだった?みんなで行ったら怖がるかと思って行かなかったけど、近くにお兄さんがいたみたいだね。よかったよ。」

「さゆりちゃん、なにか話してたみたいだったけど、大丈夫だった?」

「あ、うん、大丈夫大丈夫!それより、ここから走って行こっ!」


私は優ちゃんの腕を取って駆け出す。


「あ、ちょっと、こけるから引っ張らないで!」






何事もなく入学式は終わり、1年生は体育館から校舎の教室へ移動していった。受験をして入学するような学校だからか、あまり私語をする人も少なかく、静かに歩いていた。

校舎に入り、しばらくしたところで1年生の教室にたどり着いた。


「それにしても、3人とも同じ1組でよかったね。」

「そうだね!」

「席はどうなるかな?早く確認したいね!」


教室には、もう半分以上の人がいた。友達と話している人、席でのんびりしている人、それぞれ思い思いの過ごし方をしていた。出席番号順だから、優ちゃんは女子の前の方・・・・あの列かな?ドアの方から3列目のところを前から順番に見ていく・・・・六角、若葉、幼方(うぶかた)、上白石・・・・って!


「優ちゃん、席前後だよ!やったね!」


私は感情のままに優ちゃんに抱きついた。


「ちょっと、はしゃぎすぎよ。」

「あ、ごめん。」

「あっ、私、さゆりちゃんの隣だ。」

「え?本当?すごいね!」

「みんな近くてよかったわね!でも疲れてきたし、とりあえず座ろう?」


私達が座った瞬間、ドアが開き、身長の高い、黒い髪をポニーテールにした、美人な、でもどこかくたびれた女性が入ってきた。どうやら、みんなが座るのを見計らっていたようだ。


「はーい、みんな自分の席に着いたわね?ここ、1-1の担任の、乃木 優理よ、よろしくね。」


と言いながら黒板に<乃木のぎ 優理(ゆうり)>と書いた。


「では、初めての授業を、始めます。きりーつ、きをつけ、れーい、お願いします。」


「「「お願いします」」」


「はい、じゃあまずは、自己紹介やろうか、私からね。名前は乃木 優理、さっき言ったわね。好きなものは・・・・あーかわいいもの、ね。じゃあ、次は、1番の加古君、よろしくね。」

「は、はい、えと、僕の名前は・・・・。」


一人一人と自己紹介をしていく・・・・。やがて私の前の優ちゃんの番になった。


「ホラーが好き、ね私は苦手だから、羨ましいわ。えーと次、幼方さん。」

「はい。私は幼方 優理といいます。好きなものは友達と服を見ることです。よろしくお願いします。」

「友達・・・・ふむ、あ、こほん。いい友達なのね。じゃあ次、上白石さん。」


ついに私の番になった。少し緊張してるけど、ちゃんとしないとね。


「はいっ!私は上白石 さゆりです!好きなものは、ぬいぐるみとか、かわいいものです。あ、あと、体動かすのも好きです!よろしくお願いします!」

「元気ね、いいわぁ・・・・最近起きるのも辛くて・・・・あ、いや、ゴホン、さて次、神無月さん。」


はあ、緊張して、ちょっと疲れたなぁ・・・・。でも、ちゃんと聞かないとね。


「かっこいいものが好きなのね、いいと思うわ。次、籠谷さん。」

「はい。私、籠谷(こもりや) 穂高(ほだか)です。好きなものはゆ・・・・いえ、2人の友達です。」

「ほう・・・・私と同じ匂いがするわ・・・・。あ、次、金剛さん。」


ふわぁ、なんだか眠くなってきちゃった・・・・んー起きなきゃ・・・・。


「次、水無月さん。ああ、前に出て来てもらえる?」


ん?前に?何かあるのかな。・・・・って!


「あなたはあの朝の!」


私は思わず立ち上がってしまった。先生の隣に立っていたのは、入学式の前に会った、あのかわいい女の子だったからだ。


「えーと、上白石さん?座ってくれる?」

「あ、えと、すみません。」


私は恥ずかしくて俯きながら座った。

朝はよく見ていなかったが、少女は髪が長く目の下まで前髪が届いていて、目は隠れていた。そして、顔は全くの無表情だった。

少女は上着のポケットから紙を取り出し、広げて先生に渡した。


「はい、水無月さんは声が出せないので、私が代わりに読みます。ええと、彼女の名前は水無月(みなづき) 和音(かずね)。好きなものは特にないです。よろしくお願いします。いや、特にないって・・・・。」


少女は紙をさっと取ってお辞儀をして席に戻っていった。


「えーと、まあ、彼女、話には筆談で応じるから、みんな、仲良くしてあげてね。えーと、次、向井さん。」


自己紹介は続くが、私の頭は小学生と思っていた少女との再会や少女が話せないことでいっぱいいっぱいだった。




「さゆりちゃん、何ぼーっとしてるの?はやく後ろの人に渡してあげて、困ってるよ。」

「ん、あっごめん、えーと、はい、神無月さん、ごめんね。」

「あ、いえ、大丈夫です・・・・はい。」


どうやら自己紹介のあと、先生の話があったけど、それも終わって、今は配りものをしているようだ。うわぁ多いなぁ・・・・。


「はい、これで最後です。配り終わったら各自解散にするから、先に挨拶だけしましょうか。きりーつ、きをつけ、れーい、さようなら。」


「「「さようなら」」」


そうして、先生は最後の教材を配る。私の列にも配られ、私も後ろの神無月さんに渡す。そして私は教材をカバンに入れながらも、水無月さんが気になって彼女の方を見た。彼女はちょうど後ろの人に渡すところだった。彼女は渡し終えると、てきぱきとカバンに教材を入れていき、カバンを机の横にかけた。しかし、そこから立つ素振りもなくじっと座っていた。


「はーい、そろそろ先生も職員室に戻るわ。書類が貯まってて・・・・。用事があれば隣のクラスの先生に言ってね。」


それだけ言うと、先生は早足で教室を出ていった。


「さゆりちゃん、私達もそろそろ帰ろっか。それとも、何か用事でもある?」

「ん?優ちゃんが無いなら私も無いと思うけど。」

「それもそうだね。でも、穂高ちゃんがまだ・・・・。」

「いえいえお2人さん、私も片付けたから帰れるよ!」

「よし、帰ろう。」


私は教室を出るときにチラリと水無月さんを横目で見てみた。彼女は変わらず座ったままだった。彼女のことも気になるけど、今日は帰ろう。



お読みいただき、ありがとうございました。

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