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いたん  作者: 陽炎
5/10

宿題

 

 セミが鳴く。

 あたりを見渡すと、稲は青々とし風に揺れている。


 あぜ道を歩くと、田んぼの周りには柵?が立ててある。ポールが立ててあり、なにかの線だろうか、人が入らないように、とポール間を通しているようにみえる。


 父方の家で田植えの手伝いとしたとき、こんなのあったけ?っと思い返しつつ近付くと、


「 あっ、それには触れないでね、死んじゃうから 」


と、立て札に指をさす青葉。


「 感電注意 」


 なるほど、電気柵ね。たしか近くに『 イノシシ注意 』の看板をみたな。




 しばらく歩くと目的地である青葉宅に着く。




 いまはお盆だ。お盆といえば勝手なイメージだが、みなが家族、親戚の方と過ごす時間だと思っている。

 自分の周りの人も、ほとんどが帰省しているが、外せない用事で残っている者がいたり、または自分みたいに訳ありで帰省せずに残る者もいたりする。


「 改めて聞くけど、あがっていいの? 」


「 だいじょうぶ、おかあさんたちは親戚の家にあいさつに行ってるから。それに、ひまなのよね、夏休みって 」


「 まぁ、そうだろうな。運動部でない限り、時間を持て余すだろうな 」


と柴田がぼやく。


 たしかにやることがないと、ひまだよな。




 青葉姉妹とは、駅近くの本屋で会った。

 後ろから声を掛けられたときは、冷や汗をかき、思わず距離をとってしまった。

 その反応に『え~、なんでそんなに引くの』と、ム~と渋い顔をして迫られたが、視線を逸らし頬をかきつつ苦笑いで誤魔化した。ごめんね、つい。


 そして、道中では自主練帰りの柴田と遭遇し、いまに至る。


「 けど、偶然会うってあるんだね 」


「 だな。っていっても自分は週一に…… 、いや何を言おうとしたんだっけ? 」


「 なんだ、早くも暑さにやられたか? 」


 ふふっと笑う青葉姉妹。


 人に頼んでいながら、危うく自爆するところだった。バイトのことを。


 ふぅ~、と息をはいているとこで、アイスコーヒーが自分のまえに置かれる。ありがたい。


 一口飲んでいるところで、青葉妹が


「 そういえば、みなさんって尊敬する人物でもいいんですけど、誰かのように生きたいって思える人はいますか? 」


と話題を振る。


「 ふふっ、いま珠里は夏休みの宿題に追われてるのよ 」


と青葉姉から補足が入る。


 そういえば、夏休みの宿題ってあったな~と思い返す。

 ほかの高校は分からないが、自分たちの高校は宿題がないので、のびのびと過ごせている。


「 ちなみにお姉ちゃん曰く、おかあさんとおとうさんらしいです。普段の行いからは、そうは見えないけど…… 」


 それに反応して、「 なんだとぉ~ 」と青葉姉が青葉妹にのしかかり、じゃれあう。ほんと仲がいい姉妹だな、と思う。それを微笑ましく見つつ


「 俺もそうだな。…… けど、野球をいまも続けてきている身としては、その道の人を尊敬しているかな 」


と答える柴田。


「 木戸さんは? 」


と問い掛ける珠里。


 自分はそうだな…… 、両親もそうだ。自分をいつも気に掛け、心配してくれている。それに対し感謝もしている。

 けど……もっと…、こう、なりたいと思える人は明確に自分の胸中にあって、


「 話しは逸れるけど、宮沢賢治って知ってる? 」


「 そりゃ、有名だろ。ほら、小学校のころだっけ。たしか国語の時間で『 銀河鉄道の夜 』を読み上げていたのを思い出すな 」


 柴田の回答に、それを肯定するかのように頷く青葉姉妹。


「 その賢治が『 雨ニモマケズ 』って詩を書き残しているんだけど、自分はそのうたわれている人物になりたいかな 」


「 どういった内容だっけか?たしか学校でも習ったんだけど…… 」


と腕を組み、聞いてくる柴田。


「 内容としては、自分がいる境遇がどんなにもつらく、罵倒を浴びせられ、こころ苦しい状況でも、いらつきを人にあてず、むしろ人に尽くそうとする人をうたったものかな 」


「 たしか、賢治自身が『そうなりたい』で締めくくってるんでしたよね 」


「 そっ、実際のモデルもいるしね 」


 青葉妹は覚えているみたいだ。習って、日が浅いというのもあると思うが。


「 木戸くんは、なんでそうなりたいと思うの? 」


 首を傾げる、青葉姉。


「 うーん、自分が思い描く人生観って、自分自身を最高に作ることだと思ってるんだよね…… 」


「 作るっていうのは、なにをだ? 」


「 作るっていうのは、人格・品性といった内面を最高によく作るということ。

 イメージとして彫刻家が作品をつくるのに、木にノミをあてて削るように、自分自身の内面を削り、作る感じ。


 自分自身を完全に作り上げたと思えるゴールが、ちょうど、そのうたわれている人ということかな 」



 そのあと雑談がしばらく続き、お開きとなった。


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