日常2
「 よう 」
うしろから声を掛けられる。
「 ん、なんか用か? 」
「 この後、ひまだろ。いっしょにあそびに行かないか? 」
『 今日は、部活休みだからよ 』っと、自分を誘う柴田。
「 あいにく、これから部活 」
その返答に対し心底呆れた様子で
「 いや、おまえ、あれ、帰宅部だろ 」
この学校は基本、全員が部活に入ることとされている。
それは人との協調性を育むことと、いましか作れない青春の思い出のためだ、と一部の教師は熱弁しているようなのだが…… 。
幸いなことに自分の担任教師は、ある程度自分に対し理解をしてくれており、部活への参加は必ずしもしなくて済むように取り図ってくれた。
ただ周りからの目もあるため、部を一度つくり、そこへ入部するように自分を促した。
新設された部の趣旨は、「たのしい学校生活を過ごすにはどうするべきか」であり、これを成すのに各個人でこれを考え、過ごすことになる。
集まり、話し合うのは週に一度。
話し合いも「一週間を過ごしてどうだったか、より楽しく過ごすにはどうしたらよいか」という具合だ。
ちなみに、いままでの話し合いの内容は似通っていて、いまでは形式だけ繕っている状態、いわば、ただの顔合わせの場になっている。
そういう経緯もあり、周りからは帰宅部という、不名誉極まりない名で呼ばれるようになってしまった。
というよりも新設時もそうだが、よくこれで周りの先生方は納得したな、と疑問はあったが、それは先生の手腕によるものが大きかったのだろうと推測し、自己完結する。
「 さぁて…… 」
組んだ手を前に伸ばす。
「 わるいな、また誘ってくれ。行ってくるわ 」
バッグを背負い廊下に出る。
***
この学校では、屋上は開放されている。
天気の悪い日以外は昼休みと放課後に、大抵ここに来る。
不思議なことに、ここには、人は来ない。
なんでだろうな、と思考を巡らしつつ、いつもの決まった位置で荷を下ろす。
譜面台をたて、楽譜をおき、ヴァイオリンを構え、いつものように一人演奏する。
風のない日、暖かな陽射しと、グランドから聞こえる部活動に励む声、そして、丘に建てられている校舎の屋上から、あたりを見渡せる景色。
心地よさに浸りながら、いつも通り2、3曲弾いていたところで、『ギィぃ』と、音を拾う。
「「 あっ 」」
視線と視線がぶつかり、気まずい空気が漂う。
お互い軽い会釈をし、相手は『 なにも見なかった 』そういうようにドアノブを引いていった。
まぁ、気にしても仕方がないので続けて演奏することにする。
名前はたしか……。
顔は見覚えあるので、自分のクラスメイトであることは分かるのだが、うーん。
***
家庭教師のバイトは比較的いいと思っている。
自分が学んできたものをそのまま活かすことができる上、時給もある程度高いからだ。
「 木戸さん、ここ教えてください 」
いまは、受け持っている生徒の部屋で授業をしている。
時給以外にも移動費も支給されるため、自転車で移動すれば、それを浮かせることもできる。そこも気に入っている。
「 木戸さん、一度休憩にしましょう 」
1階より、その生徒の母親の声が部屋に届く。それを受け、小休憩するため1階のリビングへ生徒とともに足を運ぶ。
「「 あっ 」」
一瞬すべてが止まったような錯覚に陥った。
先に動いたのは相手だ。
何かを思い出したかのように、手のひらにポンっと軽く拳を載せ、
「 珠里の先生って、木戸君だったんだね 」
掛けてきた言葉でフリーズが解け、
「 えぇ…… 」
そして、ようやく思い出した。名前を……。
まさか、こうも続けて会うとは。
それよりも、相手も自分のこと、一瞬分かってなかったな…… 。
「 青葉さんの妹さんだったんですね 」
「 そうだよ。それより、うちの学校ってアルバイトは禁止だよね? 」
やはり、それを聞いてきたか。返答に頭を悩ませるが、適当な言葉が見つからない。
「 まあ、事情があってのことだと思うから無理して答えなくていいよ。木戸君が先生になってから珠里の成績も良くなってるって聞くしね 」
そういって妹さんへ視線を振る。その視線に対し珠里が相槌を打つ。
その返答に、詮索されないことにありがたいと思いつつ答える。
「 ありがとう。このことなんだけど、担任の松岡先生からは許可はもらっていて、例外扱いしてもらってるんだよね。あまり公に言ってほしくないんだけど、お願いできるかな 」
それに対し笑みを浮かべつつ
「 もちろんだよ。ただ、そうだね …… 、口止め料として一つお願い事を聞いて欲しいんだけど 」
うーん、なんで女子が男子に『 ものを頼む 』、いや『 狡い 』の間違いか、なんでこうも様になるんだろうな。
容姿が整ってると、なおさら、そう思う。
はぁ~、と心底うなだれ、両手をあげ、降参の意を示す。
***
お願いごとはこれだ。
「 昨日は何を演奏していたの? 」
口元に軽く手をあて、なんて答えようかなと一瞬悩んだ末、
「 マイナーな楽曲だよ 」
―― ぼかすことにした。
「 へぇ~、なんて曲? 」
「 ごめん、ド忘れした 」
「 ふっ、なにそれ 」
笑いつつも訝しんだ目を向けてくる。
「 まぁいいよ、それよりヴァイオリン弾くんだから、部活は軽音部になるのかな? 」
「 いや、入ってないよ 」
「 …… ふーん。 …… じゃあ、ヴァイオリンは趣味で? 」
「 そうだね。趣味もそうだけど、あるグルー …… プ、に入っていて。 …… 練習しているのは今度そのグループで披露する場があるからだよ 」
歯切れの悪い回答に、ジト目を向けてくる青葉。
「 へぇ~、どこでやるの? 」
「 まぁ、そのうち教えるよ 」
この雰囲気だと根掘り葉掘り聞かれそうだ、という天啓を受け、そそくさと屋上の出口へ向かう。
去り際に何か聞こえたかもしれないが、きっと気のせいだろう…… 。