第七話:小屋
「取り乱してしまってすみませんでした……」
タクシーの助手席に座る玲央奈が顔を赤らめ言った。
空賊娘を撤退させた後、すぐに陸子のタクシーがやってきて合流した。そして絵梨佳は玲央奈に今回の事件について話したのであった。玲央奈は納得し、伊瑠香と軽く自己紹介をした後に、五人は管理人の小屋に向かっていた。
「気にしないの。元はと言えば私に責任があるんだし」
タクシーはガタガタと揺れながら森を進んでいく。森の中は人が通れるように簡易な道が敷かれているが、車が通るには適していない。
「り、陸子……。歩いても行けるのに無理しなくても」
「何をおっしゃいますか!この運転人形・陸子に運転できない場所なんて…殆どありません!」
バウンドし、樹をかすり、そしてフロントガラスにひびが入りつつも陸子はタクシーを操り、数分で管理人の小屋に到着したのであった。
「さ、着きましたよ皆さん!」
爽やかな笑顔とは対照的に絵梨佳達はげっそりとしていた。
「き、気持ち悪いよ…」
「よ、酔った。生まれて初めて酔った」
車を降り、新鮮な空気を吸う四人。とその時、小屋の扉がバンと開いた。
「騒々しいわね、一体何事?」
そこには、緑の薄いシャツに茶色の皮ベストを着こんだ金髪の少女がいた。
管理人形・樹里である。
「あっ、久しぶりですね樹里!」
陸子が片手を上げ挨拶する。
「んげっ!車で着たのあんた?」
嫌そうな顔で陸子を見る。
「ええ、恋姫様から連絡来てるでしょ?待たせるの悪いと思って急いで来たんですよ」
そう言って陸子は絵梨佳達を指す。
「聞いてるわよ。しかしまあ大所帯で来たわね。仲のいいファミリーだこと」
そう言って伊瑠香に近寄る。
「初めまして、可愛らしいお嬢さん。私は管理人形・樹里、この森の管理をしているわ」
差し出された手を伊瑠香はぎゅっと握る。
「伊瑠香。空想人形・伊瑠香」
「宜しくね伊瑠香ちゃん。さて、確か帽子だったわよね。取ってくるわ」
樹里はそう言うと小屋に戻っていった。
「絵梨佳…」
急に伊瑠香が絵梨佳の方に向いた。
「ん、何?」
「ファミリーって?」
不思議そうに伊瑠香は絵梨佳達を見た。
「ああ、私達っていつもこの面子でいることが多いのよ。だから家族、ファミリーって呼ばれてるの」
「家族……」
「そう、家族よ」
ふと伊瑠香が悲しい表情を見せる。
「どうしたの?」
伊瑠香は無言で首を振った。絵梨佳が気になり聞こうとしたが、それは樹里の登場により阻まれた。
「これかな?」
小屋から出てきた樹里は手に持っているのは海賊帽である。
「あ!それじゃないの伊瑠香?」
大きく目立つドクロマークが印象的な海賊帽だ。誰がどこからみても海賊帽である。伊瑠香は嬉しそうに微笑んで受け取る。
「よかったね、伊瑠香ちゃん」
玲央奈は嬉しそうに微笑む。
「あー、なんだかすんなりミッション終了ですか。まあ現実はこんなものですね」
しかし彼女を見ると、伊瑠香は浮かない顔のまま、帽子を見つめている。
「どうしたの?」
絵梨佳が問い掛ける。それと同時に伊瑠香は帽子を無言で落とした。
「違う……。これ…偽物」
「え!」
一同が驚き、伊瑠香を見る。
「ドクロ、こんなに怖くないもん」
そして伊瑠香は樹里に詰め寄る。
「ほかには!?」
「な、ないわ。今日の落とし物はそれだけよ」
「!」
「おかしいわね。普通海賊帽子なんて森に落ちてるわけないし」
恋々は海賊帽子を拾い、じっと観察する。すると海賊帽の中に一枚の紙が張り付けられていたているのが目に入った。
「ねえ、これ何かな?」
恋々が紙を剥がし、みんなに見せる。
伊瑠香が一番に反応し、続けて皆が反応する。
『東端の岬にて待つ』
小さな紙に綺麗な字でそう書かれていたのであった。