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人形(ひとかた)~伊瑠香の帽子~  作者: なんこつとりで
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第五話:恋々


「絵梨佳!」

千畳の間からでた瞬間、目の前から小柄な着物を着た少女が絵梨佳に向かって飛び込んできた。

「わっ!」

その少女を絵梨佳は驚きながらも抱き止める。恋姫と同じく綺麗な長い黒髪がふわっと広がった。

「今日も元気ね恋々」

飛びついてきた少女の頭を、絵梨佳は優しく撫でる。この花札屋敷の住人であり、恋姫の妹である少女、花札人形・恋々である。

「うん!絵梨佳、遊びに来てくれたんだよね。遊ぼ、遊ぼ!」

かまってくれる事を望んでいる子犬のような顔で絵梨佳の身体を揺する。恋々は絵梨佳の一番の親友である。昔から多忙な恋姫の変わりに面倒を見てきたのか、恋々は本当の姉のように絵梨佳に接するようになった。それは今でも変わらず、恋々は絵梨佳にべったりである。

「ごめんなさいね恋々。今日は遊びに来たんじゃないの」

絵梨佳はすまなさそうに答える。その途端、恋々が不満の声をあげる。

「――昨日、クエストは全部終わらしたって言ったのに」

「急にクエストが入ったのよ。この娘のね」

そう言って絵梨佳はこれまた背後に隠れていた伊瑠香を前に出させる。出された伊瑠香は顔を真っ赤にしながら軽く一礼した。

「誰?」

 不満顔を隠さぬまま恋々は伊瑠香に聞く。

「伊瑠香………」

「ふうん。どんなクエストを頼んだの?」

「この娘の帽子を探すクエストよ」

「へえ、探し物のクエストなんだ。じゃあ、私も付いて行ってもいいよね?」

突然同行したいと頼んでくる恋々に絵梨佳はため息を付く。

「恋々、これは遊びじゃないのよ」

「そんなのわかってるもん!お手伝いしたいだけだもん!」

 うー、うーとうなりながら抗議する恋々。

「前から言ってるけどあんたには恋姫様の補佐があるでしょ!そんなにお手伝いしたいのなら恋姫様に言ってあげるわよ」

「いや!記録編集なんて飽きたの!私はもっとアクティブな仕事をしたいの!」

人形にしては珍しく飽きるという感情を持つ恋々。さらに我がままという人間特有の感情も持つため恋姫は手を焼いてる。

「恋々いい加減にしないと――」

「怒るわよ、ですね」

「そうそう、怒っちゃう………」


絵梨佳は言葉を止める。聞いた事のある声が前方から聞こえたからだ。視線を恋々から長い廊下の前方に移すと、そこには見たことのある少女が立っていた。

赤と白のストライプのバンダナに袖なしのセーラー服が特徴な少女。

「あら、また会ったわね」

そこにいたのは先ほど部屋を訪れた少女、恵莉であった。手には通常よりも大きめのパチンコが握られてる。

「ええ、一時間と三十分ぶりですね絵梨佳さん」

彼女は笑顔であった。恐いくらいに眩しい笑顔である。

「あなたも恋姫様に面会?やめときなさいよ。ここの庭を掘っても出てくるのは恋々のタイムカプセルぐらいよ」

「――冗談はそこまでにしてもらえますか絵梨佳さん?」

その瞬間、恵莉の口から冷たい一言が放たれた。恋々はわけがわからないと言った感じで恵莉を見て、伊瑠香は絵梨佳の背後に身を隠している。

「私言いましたよね?伊瑠香様を知ってますかと」

恵莉のパチンコを握る手が震えている。

「ええ」

「ではなぜ絵梨佳さんと伊瑠香様が一緒にいるのでしょうか?まさかここで偶然あったとは言いませんよね?」

「ええ、昨日私が拾ったのよ」

その言葉に恵莉は顔を下げウエストポーチから大きな銀玉を取り出しパチンコにセットする。

「そうですか。なぜあの時私に教えなかったのですか?」

「怪しい人物は簡単に信用できないからね」

「――何が目的ですか?伊瑠香様を誘拐したままどこに連れ去ろうと?」

「人聞きが悪いわね。私はこの娘と一緒に探し物をしてるだけ。それにこの行為は彼女も望んでるわ」

その言葉に伊瑠香は絵梨佳の裾をぎゅっと強く握る。

「嘘付かないで下さい。さ、伊瑠香様帰りましょ。皆さん心配してますよ」

顔を上げた恵莉は眼に少し涙をためたまま片手を差し出し伊瑠香に向ける。しかし伊瑠香はちらりと恵莉を見たもののすぐに嫌々首を振りぎゅっと絵梨佳に再びしがみつく。

「な、なぜ!なぜです伊瑠香様!?」

「―――絵梨佳と一緒に探すの」

「ま、こういうことだから帰りなさいな。仕事の邪魔だから」

その瞬間、何かが絵梨佳の頬を掠め、背後の襖にめり込む。

「ふーん、いきなり攻撃なんて危ないわね」

「い、今のは警告です!次は当てます!」

「ねえねえ絵梨佳、この人、敵なの?」

今にも泣きそうな恵莉を指差して恋々が聞いてきた。

「人形を指差しちゃだめよ恋々。まあそうね。仕事の邪魔をしてるから敵ね」

「じゃあアレを倒したら連れてってくれる?」

恋々の言葉に絵梨佳は少し考え結論を出す。

「いいわよ。あなたの実力ならいけるんじゃないかしら?」

「うん、わかった」

そう言って恋々は一歩前に出る。


「な、なめないで下さいよ!私だって『空繰遊戯団』の一員なんですから!どいてください!」

目の前に現れたのが小さいひ弱そうな人形だったのか、恵莉は少しイライラしながら再び銀玉をセットする。

「ふーん、人形を見かけで判断するなんて馬鹿なの?」

恋々は懐から数枚の花札を取り出し両手に持つ。

「そんなカードで私が倒せるとでも?」

「花札だって立派な武器になるの!」

花札が恋々の両手から放たれる。花札は左右弧を描き、恵莉に襲い掛かる。

「へ?」

次の瞬間、複数の小さい爆発が恵莉の周りで起こる。

「!」

爆発による攻撃を受け恵莉は転倒する。

「チャンス!」

その隙を狙い恋々は一気に間合いを詰め、跳躍しのしかかる。

「キャッ!」

恵莉の目が恋々の目と重なる。恵莉が見た彼女の目は獲物しか見えてない猛獣の目であった。恵莉の身体に悪寒が走る。

「ふふふ、絵梨佳の邪魔する奴は許さないんだから」

恵莉の首を恋々は両腕で掴み締め付ける。

「がっ!」

ミシミシと音を立てる恵莉の首。恵莉は両腕を振り回して抵抗しようとするが力が入らず、痙攣していた。

「じゃあしばらくの間、お休みなさい」

そして二十秒の短い時が経ち、カチッという音と共に恵莉は力を失い、動かなくなった。

「戦闘終了!私の勝ちね」

そう言って恋々は立ち上がり絵梨佳の元に戻った。

「お疲れ恋々」

絵梨佳が頭を撫でると恋々は嬉しそうに目を細めた。

「何事ですか!?」

その時、騒ぎを聞き付けたのか雅と陸子、そして数人の着物人形が駆け付けてきた。

「ああ、雅さん。侵入者ですよ」

絵梨佳が気絶している恵莉を指差す。人形にはいくつか弱点が存在し、その位置は人間と似ている。その部分にダメージが蓄積され、一定以上になったとき人形は機能を一時的に停止してしまう。

「あらら、それはご苦労様です。しかしなぜこの屋敷に?」

「さあ、お宝探しで迷い込んだんじゃないんですか?」

絵梨佳は軽く嘘を付き、再び恋々の頭を撫でる。

「陸子、悪いけどまたタクシー出してくれる?」

「いいですよ。次はどこですか?」

「東の森にお願い」

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