プロローグ
心地好い夜風に当たりながら、青春人形である絵梨佳は道を歩いていた。酒が体内を巡っている彼女は上機嫌であった。
「~♪~~♪~♪」
酔うと鼻歌を歌うのが彼女の癖だ。曲は人間が歌う昔のロック。
背中まで伸びた綺麗な黒髪が夜風に揺れ、白いセーラー服も揺れていた。
辺りは静かである。街と学園を結ぶ道は自然が残っていた。いつもならバスを利用するのだが、あいにく最終バスは既に発車してしまい、タクシーを拾おうと思ったが、知り合いの運転人形・陸子はオフ。ついてないと感じながらもたまにはいいかと夜道を歩いている。だからだろうか。彼女と遭遇することが出来たのは。
「~♪~♪~……あら?」
二番のサビを中断した絵梨佳。道の端に何かが横たわっていたのがうっすらと目に入ったからだ。
近づくにつれ、絵梨佳はそれが仰向けに倒れている人形と分かる。
背は低く、あどけなさが残る顔。艶やかな栗色の髪が地面に絨毯を引いていた。服は身につけてなく下着姿である。
「えっと……寝てるわね?」
一瞬、気絶してると思ったが、少女の気持ちよさそうな寝顔を見て、絵梨佳はその可能性を消した。
「学園の子?だとしたら放っておくわけにはいかないわね」
人形に風邪という概念はないが、見つけてしまった以上無視するのも後味が悪い。
「ということでもしもーし、起きろー」
絵梨佳はしゃがみ、半裸少女の肩を揺さ振る。
「ん……」
しかし爆睡してるのか半裸少女は起きる気配がない。
「おーい、こんなところで寝たら怖いお姉さんに襲われちゃうわよ。私じゃないけど」
しかし半裸少女は身を捩るだけで目を覚まさない。
「しぶといわね。まあ、学園の子なら寮に入れたって文句は言われないでしょ」
絵梨佳はひょいと半裸少女を抱き上げる。片手を後頭部に、もう片手を太股に。いわゆるお姫様抱っこだ。
「軽すぎるわ……」
重みをあまり感じない。あまり力のない絵梨佳でも楽々と持ち上げられる。
「それじゃあ行きましょうか」
絵梨佳はそう言って暗い夜道を歩くのであった。