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出会い

作者: 嵩志麻雄貴

読みにくい文脈があると思いますが、すみません。

是非、読んでみてください。

 僕の名前は草野元気。今年の春に東京のT大学に入学した、ピカピカの一回生だ。高校の友人のほとんどは地元の企業に就職した。進学した友人も何人かはいるが、みんな隣県ばかりだ。そんなことで僕は、同級生の進路先の中で最も遠い東京に一人で生活することになった。

 修学旅行で二度東京へ行ったことはあるが、いざ一人で住むとなると何だか怖い。なんせ、僕は生まれも育ちも田舎で都会に出ていく機会が何一つなかったので、都会に対する抗体が全くなかった。

 入学式後に僕は運良く、向田心治君という友達ができた。人間関係を築くのに慎重な僕にしてはかなり珍しい。どうして仲良くなったかというと、最初は向田君から声を掛けてくれたからだ。話しているうちにお互いがアニメ好きということが分かった。それを機に僕は向田君にかなり心を開いた。

 そして時が過ぎ、入学してから一か月が経とうとした頃、僕は向田君に「アニメのコスプレイベントに行かないかい?」と誘われた。僕はそれまで、コスプレイベントに興味はあったが、会場までがとても遠くて行けなかった。しかし今回、向田君が誘ってくれたうえに東京でのイベントということだったので、僕は二つ返事でOKした。

 そしてイベントの日が来た。僕と向田君は同じアニメの中に登場する好きなキャラにコスプレした。

 「草野君とても似合ってるよ」

 向田君が褒めてくれた。僕も「向田君こそ似合ってるよ」と褒めた。

 その時、向田君が

 「あっち見て、メインヒロインがいるよ」

 と指差した。

 僕はその方向を見た。確かに僕たちがコスプレしているアニメのメインヒロインにコスプレしている身長が高くとても美人な女性がいた。

 「話に行かない?」

 向田君が提案した。でも僕は、

 「えー、別にいいよ」

 と断った。

 「何言ってんだよ、こんなの滅多にないチャンスだぞ」

 と向田君が嬉しそうに言っているのを見て僕は

 「確かにこれはビッグチャンスかも」

 と思ってしまった。

 「すみません、今いいですか?」

 向田君があの美人の女性に声を掛けた。

 その女性は遠くから見ていても綺麗なのに、近くで見るとさらに綺麗だった。

 「メインヒロインですよね?」

 と僕が聞くとその女性は笑顔で

 「はい!そうです」

 と答えてくれた。

 「このアニメ好きなんですか?」

 向田くんが質問すると

 「私、一番好きなんです!」

 と嬉しそうに答えてくれた。

 同じアニメが好きということで、僕たちはその女性との会話がかなり弾んだ。気を許してくれたのか女性の方から「お二人の名前はなんて言うのですか?」と質問してくれた。

 「僕が草野元気と言います」

 「向田心治と言います」

 二人で自己紹介をした。

 「名前はなんて言うんですか?」

 と僕が質問すると

 「私は薬師丸香織と言います」

 と女性は言った。

 僕は素直に「素敵な人だなぁ」と思った。

 この日、僕たちは香織さんと連絡を交換して帰宅した。

 

 帰宅後僕はすぐに香織さんにお礼の連絡を送った。すると、すぐに香織さんの方から返事が返ってきた。その文面は

 「今日はありがとうございました!とても楽しかったです!また、もしよろしければ、二人きりで会うことはできますか?」

 というものだった。

 僕は正直驚いた。まさか向こうからお誘いの返事が来るとは思わなかったからだ。

 僕は「喜んで!」と返事をした。

 

 一週間が過ぎ、香織さんと二人きりで会う日がやって来た。

 待ち合わせ場所の喫茶店に先にやって来たのは僕の方だった。遅れてくること五分後、香織さんがやって来た。香織さんは僕の方を見るなり、軽く会釈をした後、小走りでこちらに来た。

 「遅れて、ごめんなさい」

 香織さんは口を開くなり謝った。

「いえいえ!謝らなくていいですよ。まだ待ち合わせ時間まで十分あるんですから!」と僕は言った。

 「元気君って優しいですね!」

 そう香織さんが褒めてくれた。僕は何だか照れくさくなった。

 「ありがとうございます。ところで香織さんって、喫茶店が好きなんですか?」

 「私、喫茶店巡りも趣味なんですよ!なんか心が落ち着いて、現実を忘れられるんです。ここ、私の一番のお気に入りの店なんですよ。もしかしてこういう店、嫌いでしたか?」

 香織さんは不安そうに言った。

 「そんなことないですよ!」

 僕は香織さんの不安を打ち消すように肯定した後に

 「むしろ逆です。一度こういうお店に来てみたかったのですよ。逆にうれしいです」

 と僕が言うと、香織さんがまた

 「優しいですね!」

 と言ってくれた。何度言われてもやっぱり照れくさい。

 照れくさいのには理由があると思う。おそらく僕は心の何処かで香織さんに惚れているのだろう。心が今、無性に痒くて痒くてしょうがない。コスプレイベントで会った時は、全くこんなことはなかった。しかし今、どうしても痒い。コスプレとのギャップだろうか?それとも想像以上に素敵な人だったからだろうか?どちらにしても僕は今、香織さんのことで頭がいっぱいだった。

 「元気君?ちょっと、元気君?」

 香織さんが僕を呼んでいる声で我に返った。

 「ごめんなさい。ちょっとボーっとしちゃってました」

 全くの嘘ではないことを言った。

 「もし良かったら、敬語以外で話しませんか?」

 香織さんの方から提案があった。

 「そうですね。そうしましょう!」

 僕は少しテンションが上がってしまった。正直に嬉しかった。

 「ところでなんだけど、悩みあるの?」

 香織さんから突然訊かれた。

 僕は一瞬戸惑ってしまった。香織さんに先ほどから、恋をしてしまったということが、バレてしまったのかと思った。でもさすがに、それはないだろうと自分の中で完結した。そこでもう一つの悩みを打ち明けた。その悩み事も結局は香織さん関係だったのだが。

 「僕、最近四・五日前くらいから不眠症になっちゃって」

 「そうなんだ。大丈夫?」

 心配顔で心配してくれた。

 「うん。今のところは大丈夫。でもこのままずっと不眠症だったらどうしよう?」

 僕はつい弱音を言ってしまった。

 すると香織さんが鞄の中から何かを探し始めた。

 「あった!」

 香織さんはそう言うと、続けて言った。

 「これの香りを嗅ぐと気持ちがとっても落ち着くし、よく眠れるようになるよ!」

 と白い紙袋を渡してくれた。

 「これ、何?」

 僕は香織さんに訊いた。

 「開けてみて!」

 香織さんが笑顔で言った。

 言われた通り僕は、白い紙に何重にも包まれた袋を開けた。

 「えっ!」

 僕は声を出してしまった。香織さんの顔を見ると満面の笑みを浮かべていた。

 「驚いた?」

 香織さんはそう言った。

 「これって、葉っぱ?」

 僕は、まさに今見ているものが正しいのかどうかを確認した。

 「うん!葉っぱって言うよりハーブだよ!」

 香織さんは何事もないように言った。

 「これまずくないの?」

 怪訝そうな表情を浮かべていたであろう僕は、香織さんに小声で訊いた。

 「うん。全然問題ないよ。普通に嗅ぐのもいいし、火であぶるのもいいよ。なんってたって、鼻から入ってくるスーッと気持ちのいい爽快感が口から抜けてくの!しかも、嫌なこととかも忘れられるよ!」

 香織さんは、微笑みながら言われた。

 

 「今日はいろいろとあったので、とても疲れた」と家に帰宅すると同時思った。今日、香織さんから渡されたあの葉っぱ、本当にそんな効果があるのだろうか?と思いながら布団の中に入った。

 一時間後、まだ眠れない。「はあ。今日も眠れないや」と僕は夜中に溜息をついた。この日も布団に入ってから二時間後にようやく夢の世界に引きずり込まれた。

 次の日、大学の授業もようやく本格的にスタートした。

 「草間君どう?」

 「う〜ん」

 「大変そうだね」

 「うん!」

 と僕は向田君に数学の助けを求めた。

 「これ、基礎中の基礎だからね、ちゃんと理解できるよう教えるよ」

 「ありがとう!この恩はきっと返すよ」

 僕は向田君に約束をした。

 「ところで、目のくま大丈夫?」

 「うん。なんか最近ずっと不眠症でさー。」

 「いろいろと大変そうだね」

 「うーん」

 「さっきから『うーん』とか、『うん』ばかりだよ」

 「うん。なんとなく僕も気づいてる」

 「じゃあ、今日はもうお開きで。草間君、今日一日家でゆっくり休んでたらきっと、不眠症治るよ」

 向田君がそう言ってくれた。

 その後、僕はずっと家でゴロゴロしていた。気づけばもう二十四時前だった。しかし、眠れない。

 その時だった、僕は香織さんがくれた葉っぱを思い出した。「使ってはいけない」と考えていても、もう香織さんが言っていて言葉のみが唯一の助けだった。

 僕は藁にもすがる気持ちでついに、あの葉っぱを使ってしまった。

 かなり気持ちがいい。この爽快感、「今までに味わったことのない」と思うくらいスーッと鼻の中を通り抜けていった。確かに香織さんが言っていたように気持ちが落ち着いてきた。しかも今なら、何事にも集中して取り組むことができそうな気がした。スーパーマンになったような気持ちだ。癖になる。

 その後も数日間僕はその葉っぱを夜になると吸った。やっぱり気持ちがいい。吸い始めてからここ数日すこぶる体調が良くなってきている。それに不眠症も改善されてきている。

 しかし、物には終わりがくる。

 最後の一枚を僕はゆっくり、ゆっくりと最後まで香りを堪能した。やっぱり気持ちがいい。この日も快眠することができた。

 「おはよう」と向田君を見つけた僕は手を振った。

 「おはよう。なんか最近明るいね!」と向田君が質問した。

 「そう?いつも通りだと思うよ」

 「そうかなぁ?草間君明るいよ」

 「あー、もしかすると!不眠症治ったからかな」

 「治ったの?何したら治ったの?」

 「えーとね、実は、香織さんから気持ち良くなる葉っぱをもらったんだ!」

 「えっ?香織さんから?うん?はっぱ?」

 向田君が不思議そうに言った。

 「うん。そうだよ」

 「それってまずいやつだよ」

 「!?そうなの?だって香織さん、ハーブって言ってたし大丈夫でしょ?」

 「マズイよ!それ危険ドラッグだよ。早くそんなのやめなよ」

 正義感に満ちた表情で向田君が力強く言った。

 「そうなんだ。てっきり香織さんの言葉を信じちゃってた。もうやめるよ」

 「約束だよ!絶対だよ!」

 「うん。約束する」

 僕は宣言した。


 帰宅後、僕は大学の課題を終わらせた。とても疲れた。「もう寝よう」と布団の中に入った。疲れているはずなのになかなか眠れない。僕はつい考えてしまった。「あの葉っぱが欲しい」と。

 この時僕は初めて気が付いた。これが禁断症状なのかと。

 大学の生活ガイダンスの中で似たような話を見た。その話の男性も「欲しい欲しいと考え出してしまい、また薬物に手を出してしまった」そのことを思い出し僕はうなだれてしまった。

 翌日僕は「欲しい」という気持ちに勝てず香織さんに連絡をした。香織さんからは「今日の夜なら渡せるよ」と返事がきた。僕は迷いなく「お願い」と返事をした。

 時間になったので僕は待ち合わせ場所の公園へと行った。すでに香織さんは居た。

 「遅れてごめん」と僕が謝ると

 「全然大丈夫。はいっ!これ」

 彼女は紙袋を渡してくれた。

 「ありがとう。これ本当にいいね!」と僕が言うと香織さんは、

 「また、なくなったらいつでも言ってね」

 と言い残し足早に帰って行った。

 もらったその日から吸い始めた。「やっぱりいい。この爽快感が」と思いながら僕は最後まで吸い続けた。

 日に日に枚数が増えっていった。そうなるとすぐになってしまう。そして香織さんからまたもらう。その繰り返しの日々が半年間続いたある日、香織さんの方から連絡があった。

 「今度うちに遊びに来ない?」

 僕は正直迷った。この頃僕と向田君の仲はもうほぼ断絶状態だった。

 理由は葉っぱだ。

 まだ絶っていないと知った向田君が愛想を尽かしたといったところだ。

 もうこれ以上人間関係を壊したくないと思っていた僕は、これを最後に香織とはもう会わないでおこうと天に向かって決心した。

 そしてその日が来た。

 香織さんの部屋はとてもきれいだった。

 「そこに座ってて」

 と促された。

 僕はゆっくりと息を吐いた。それが見えたのか香織さんが「元気君大丈夫」と言った。

 僕は「今だ!」と思い、ついに言った。 

 「危険ドラックは良くないよ!もうやめようよ」

 しかし香織さんは不思議そうに僕を見ていた。そして一言言った。

 「何言ってるの?」

 僕は焦った。この人は正常じゃないと。

 「何って!あの葉っぱだよ!香織さんはハーブって言って僕に渡してくれてたけど、本当は脱法ハーブなんだろ。違うか。今は危険ドラッグか。何にせよこれは違法だよ!もうやめようよ。こんなこと。僕も一緒に辞めるからさ」

 僕は必死で説得した。

 しかし彼女は僕を見るなり

 「何言ってんの!元気君考えすぎだよ」

 と笑いながら言った。

 「香織さん!じゃあ証拠出してよ。危険ドラックじゃないっていう証拠を」

 そう僕が言うと彼女は

 「うん!いいよ」

 と言いながらどこかへ行ってしまった。すぐに香織さんは戻ってきた。手には見覚えのある葉っぱが。

 「それだよ。もうそんなの捨てなよ」 

 僕は興奮気味に言った。

 香織さんは笑いながら、「だから、違うって」と言った。続けて「ほら、これ見て!」と僕にある紙を渡した。

 それを見るなり僕は、一気に体中から血の気が引いたような感覚に襲われた。紙にはこう書かれていた。

 「紀元前のころからメソポタミアやエジプトなどで薬用として使われている植物です。主な利用方法は内服薬や外用薬、防虫、防腐、芳香があります。しかし本商品は芳香がメインのものです。効能は次の通りです。風邪、不眠症、ストレスなどです。使用上の注意点は次の通りです。妊娠中の方や高血圧、糖尿病のなどに疾患がある方は一度お医者様に相談の上ご使用ください。商品名、ペパーミント。原産国地、地中海沿岸」

 と。

僕は言葉が出なくなった。何から考えたらいいのかが、整理がつかない。同時にすごく焦っている。

 「元気君大丈夫?すごい汗かいているし、顔も赤いよ。もし風邪だったら、これ、あげる。効果抜群だから!」

 香織さんは微笑みながら白い袋に入った、ハーブを渡してくれた。

 そう、あの時のように。














読んでいただき、ありがとうございます。

これからも作品を投稿していきますので、その際は、是非読んでみてください。

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