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4ページ:旅立ち


 「これが服か。かなりの性能だな」


 シュラは、用意されていた服を着ていた。用意されていたのは黒いウェットスーツみたいなもので、結構肌触りも良く、シュラは満足していた。

 他にも服は当然用意されていた。ピッタリとした黒いズボンに、黒いベルト。黒に蒼で装飾が施された半袖のジャケットに、黒いブーツ。 用意されていた服全てが黒で全身真っ黒になってしまったが、シュラが鏡に映った姿を見る限り、不思議と違和感はなかった。

 これらの服には、もう既に滅んでいる種の古龍(エンシェント・ドラゴン)や、同じく絶滅している種の素材を沢山使って作られていた。おまけにキュリアスが術式を出来る限り詰め込んだ為、とんでもない代物となっていた。

 この服一式の名は、<シェーム・バチル>シュラは満足そうに頷き、別の引き出しを開ける。そこには、黒い木で出来た箱が入っていた。シュラはそれを取りだし、蓋を開ける。中には、黒い鞘に納まった一つのナイフが仕舞われていた。

 シュラはそのナイフを持ち上げ、鞘から引き抜く。ナイフの形状は長さ30cm程の長さの中途半端な片刃の直刀。柄は黒色、鍔は金色で、鍔には澄んだ蒼色の球体が埋め込まれていた。刀身は柄や鞘とは真逆の純白で、刻み込まれた何らかの文字が蒼の輝きを放っている。

 シュラはそれを見てある事に気づく。


 (これは………やっぱり、ヒヒイロカネ。あのカプセルと同じ素材か。しかもこれは………)


 そう、それだけではない。これはただの武器ではなく、古代魔道具(アーティファクト)だった。そのナイフは深い古めかしさと、鋭い真新しさの両方を同時にシュラに感じさせた。

 シュラはそのナイフ、<ギュル・ギアル>を鞘に納め、ベルトにくくりつけた。


 (あとは…………研究記録か。あの引き出しだったな)


 引き出しを開けて、中に入っていた一冊の分厚い本を取り出す。シュラがそれを読み終わったのは、それから数時間後だった。シュラは本を虚空の腹に仕舞い、視線をこの部屋にある唯一の扉へと向けた。


 「じゃあ、行くか。もうここでやる事もないし」


 シュラは扉から部屋を出て、通路を進み始めた。通路は上りの坂になっていて、シュラは初めてあの部屋が地下にあった事を知った。

 通路はシュラが思っていたよりも、かなり早くに見つかった。シュラは歩みを止めることなく、躊躇なく扉を開いた。


 『『『え?』』』


 その扉の先では、数人の人間がシュラを呆気にとられた表情で見ていた。

 シュラはそんな彼等の事を一瞥すると、何事もなかったかの様に入ってきたのとは別の扉へ向かって真っ直ぐ歩き出す。

 その様子にやっと我を取り戻した彼等の内、代表者らしき者がシュラに声をかけた。


 「ち、ちょっと待ってくれ!」

 「………何だ?俺はもうここに居る理由はない。だから出ていく」

 「そ、そうはいかない!君には聞きたい事が幾つかあるんだ!君に伝える事も!」

 「ほう、まあ良いだろ。別に急ぐ旅じゃないしな」

 「では、こちらへ」


 代表者の男とは別に、女性が出てきて部屋の一角にある休憩スペースまで案内する。

 シュラは高級そうなソファーに座ると、直ぐ様本題を切り出した。


 「で?用件は何だ?さっきは聞きたい事がどうとか言ってたが」

 「ああ、その件だが………君はシュラームーザ君、で合っているかい?キュリアス様が造ったホムンクルスの」


 シュラの前に座った代表者の男は、そんな事を聞いてきた。さっきの女性や他の人間は、彼の後ろに立っている。


 「ああ、そうだ。お前達は、爺の部下だな?」


 シュラは、昔キュリアスにここは何処なのか聞いた事があった。その時に、キュリアスはここはキュリアスの研究施設で、部下が何人か居ると言っていたのだ。


 「ああ、私達はキュリアス様の弟子だ。同時に、このワイズマン研究所の職員でもある。私の名前は、クロアドという」


 クロアドがそう言うのをきっかけに、他の者も名前を言っていく。

 クロアドは壮年の男性だ。その柔和な顔は、どこかキュリアスに似ている。

 案内をした女性はメネス。髪を短く切り揃えて眼鏡をかけた、知的な女性だ。

 残りの三人は、三つ子なのか顔や体型が同じだった。唯一違うのは、その瞳の色だけだ。

 全員の名前を聞き終わった後、シュラが話し始める。


 「で、何が聞きたい?」

 「それは……………キュリアス様は、お亡くなりになったのか?」

 「…………ああ、そうだ」


 シュラが少し表情を暗くしてそう言うと、その場に居た職員達は悲しげに目を伏せた。その瞳には、涙が滲んでいる。


 「分かってはいたのだ。もうすぐ限界だろうと、私達は本人から聞かされていたからな……そうか、遂に…………その眠りが安らかであることを祈ろう」


 クロアドのその言葉を聞いたシュラは、静かに、心の内で同じ事を願った………。


 その後、クロアドはここへ残らないのか、ならば何処へ行くのかを聞いてきた。


 「ここには残らない。もう、爺も居ないしな」

 「では、これから何処へ行くつもりだ?何か考えはあるんだろう?」

 「まあな」


 キュリアスは、大体一年ごとに逐一外の情報をシュラに教えていた。シュラの頭の中では、既に目的地が決まっている。

 ふと、シュラが思い出したように言った。


 「そういえば、伝えたい事があるとか言ってなかったか?」

 「ああ、メネス君。あれを持ってきてくれ」

 「はい、既にこちらに」


 メネスが何処からか小さな箱を取り出してクロアドに渡した。


 「これは、キュリアス様から君に渡すように頼まれていた物だ。受け取りなさい」

 「これは……………」


 箱に入っていたのは、古い懐中時計だった。普通の時計だが、その装飾から相当な物だと分かる。

 シュラはそれを虚空の腹に慎重に仕舞うと、ソファーからすっと立ち上がり、出口に向かって歩き始める。


 「じゃあな、クロアド。この研究所、ちゃんと護れよ」

 「ああ、それは勿論だが………君は、何処に行くんだ?」


 シュラは出口まで歩くと振り返り、滅多に見せない笑みを浮かべて言った。


 「花と緑の迷宮都市………ユレリアだよ」



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