2ページ:常識について
次の日、俺はキュリアスからある物を渡された。
「それはスキル結晶という物でな。欲しいスキルを念じながら砕くと、そのスキルを手に入れられるんじゃ。かなりの貴重な品なんじゃぞ」
『そうか、感謝するぞ、爺』
彼の居るカプセルの中には、幾つかの紫色の水晶が浮かんでいた。これは、彼がキュリアスに欲したものだ。彼は考えていた。これだけのスキルで大丈夫なのか、と。
(普通なら大丈夫なのかもしれないが、俺はホムンクルスだ。普通よりも、かなり危険な日々を送るだろう)
なら早いうちから準備しておこう、それが彼の出した結論だった。彼もそんな都合の良い物があるとは思っていなかったので、内心かなり喜んでいる。それこそ、素直に感謝の言葉を伝えるくらいには。
「それじゃあ、ワシは他の作業をやっとるからの」
『ああ、分かった。こっちで勝手にやる』
彼は直ぐに取りかかった。彼はどんなスキルがあるかは知らないが、キュリアスは大雑把なイメージでも大丈夫だと言っていたので、躊躇なく始めた。
彼は欲しいスキルは既に決めていた。五つのスキル結晶が砕かれ、光となって消えていく。残りは、一応とっておく事にした。
彼は自己解析を使い、スキル欄を確認する。そこには、新たに五つのスキルが刻まれていた。
『効果増幅』
任意で自らに対する効果を増幅する。
(これはかなり良いスキルだ。これで、俺の精神力の強化が更に強力になる)
『解析眼』
視認したものを任意で解析する。解析対象は生物、非生物を問わない。
(これは、敵の情報を確認して対抗手段を考えるためだ。情報はあるにこしたことはないからな)
『軽業の極地』
身軽になり、動きの無駄が無くなる。
(これも、今後の事を考えて、だ。いくら思い通りに体を動かせても、動きが鈍くちゃ意味がないし)
『記載隠蔽』
自身の表示される情報を、任意で隠蔽出来る。
(これは必須なスキルだ。俺は特殊な存在だからな。隠す事が多い)
『虚空の腹』
手で触れることによって、任意で別次元の空間に仕舞う事が出来る。また、任意で出し入れが出来る。生物は仕舞えない。
(これは甥の言葉を思い出したからだ。確か、これがあったら便利なのになー、と言っていた。確かに、これは便利だな)
彼は残りのスキル結晶を虚空の腹に仕舞い、何かの作業をしているキュリアスに呼び掛ける。
『おい、爺。終わったぞ』
「ん?そうか、終わったか。じゃあ、本題に入ろうかの」
『本題?聞いてないぞ』
「言う前にお主がスキル結晶が欲しいと言ったんじゃ」
キュリアスが彼に話したのは、この世界の常識だった。
この世界の名はクラセム。大陸が三つあり、それぞれを三つの国が治めている。
北の大陸の国<マーダル帝国>は魔人が主な住民で、かなり過酷な環境。西の大陸の国<シニチル王国>と東の大陸の国<シャーヘン王国>は人間とその他の他種族が住んでいて、三国は協定を結んでいる。
ヘーチェ教という新興の宗教団体が異種族排他を唱えているが、それは誰も気にしてなく。もはや、本人達もやる気がある者は少ない。
『あれ、そう言えば。俺ってどんな姿なんだ?』
「ああ、そう言えば見してなかったのう。ほれ、鏡じゃ」
そう言ってキュリアスが置いた鏡には、一人の少年が映っていた。
年齢は高校生位だろうか。肌は病的な程に白く、それなりに引き締まっている。髪と眼は前世?と同じく真っ黒で、その顔はかなり整っていた。凛々しい、といった感じだろう。驚いた事に、キュリアスの様な西洋人風の顔ではなく、日本人風の顔立ちをしていた。
『ほう、かなりの美少年じゃないか』
「ホッホッホ、顔が不細工だったら、この肉体に入れられる魂に申し訳ないじゃろ?かなり苦労したんじゃ」
と、そこで彼はもう一つの事実に気づく。
『なあ、爺。俺の名前は何なんだ?新しい命なんだ。名前も別なんだろう?』
「名前か。そう言えば、決めてなかったの」
マジかよ、と彼は肩を落とす。そんな彼を見て、キュリアスは笑いながら言った。
「そんなにがっかりするでない。いずれ、良い名前をつけてやるでな。それまでには、一人で生きていけるように、強くなるのじゃぞ」
『分かったよ、絶対だからな!』
彼とキュリアスの間には、出会ってからの時間は短いながら、確かな絆が芽生え始めていた。