前のページ:神との記憶
「貴方は死んでしまいました」
「そうなのか、納得だ」
周りは辺り一面真っ白。突然目の前に現れた神と名乗る者の言葉に、彼は素直に納得していた。
「おや、話が早いですね。珍しい。その不遜な口調も」
「うるさい、それより。俺は何で死んだ?大体予想は出来ているが」
というより、彼の頭の中にはそれ以外に思い浮かばなかった。
「過労死ですね。貴方、働きすぎなんですよ。ただでさえ睡眠不足、栄養不足なのに、一ヶ月も徹夜するんですから」
驚きましたよ、神はそう言って笑う。その顔から、面白がっているのは容易に想像出来る。一方、彼は納得の表情を浮かべていた。
(当然だよな。普通、あそこまで頑張れないだろうし。寧ろ、よく一ヶ月ももったもんだ)
「まあ、こちらとしては嬉しい限りなのですが」
「……ん?」
神が口にした言葉に、彼は神を睨みつける。当然だろう。自分が死んで嬉しいと言われて喜ぶものはいない。
「ああ、勘違いしないで下さいよ?貴方に死を強要した訳ではないので。貴方が死んだのはたまたまですから」
「………なら良いが、理由はなんだ?何で、俺が死んで嬉しかった?」
「波長が合う魂が君だけだったんですよ」
「波長?」
神の説明だと、彼が居た地球とは別の世界に居る錬金術師が、神に接触してきたらしい。面白がった神は錬金術師の願いを承諾した。
その願いは、魂の提供。彼錬金術師はホムンクルスを造っていて、肉体は完成したが、魂だけは造れなかったらしい。そこで、錬金術師が思いついたのが、神から魂をもらう事。無いなら有るところから、という発想だ。
神は直ぐに肉体に波長が合う魂を探したが、その肉体の波長が特徴的だったらしく、合うのが彼だけだったようだ。だが、神も錬金術師も生きている命を奪うのは避けたい。最後には、彼が死んだら魂を送る、という事になったのだ。
「因みに、向こうの世界は正に『剣と魔法の世界』です」
「成る程、じゃあ、何で俺はここに居る?向こうに行くんじゃないのか?」
「流石に、手ぶらで行かせたりはしませんよ。私達の勝手でやる事ですからね」
「ほう、何をくれるんだ?」
「向こうで生きていく為の力、後は自己確認の眼でしょうか」
その言葉に、彼は安心する。直ぐに死ぬ事は無さそうだ、と。
「まあ、一番の目的は状況の説明だったんですけどね。じゃあ、そろそろ向こうに送りますよ。着いた直後は記憶の混乱があると思いますが、直ぐに戻るので安心して下さいね」
「ああ、分かった。せいぜい生きてやるよ。楽しく、な」
神が手を上にかざし振り下ろした瞬間、彼の意識は途絶えた。
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(そうだ、俺は神に会って…………じゃあ、ここは異世界なのか?それならまあ、納得出来なくもない。いくら地球で非常識でも、異世界で非常識だとは限らないからな)
「その顔、どうやら思い出したみたいじゃのう。明日また来るから、自己確認はしておくんじゃぞ。話はそれからじゃ」
そう言うと、キュリアスは部屋から出ていった。残された彼は、キュリアスの言葉通りに確認を始める。