最高のお父さん
うちのお父さんはスゴイ人なんだ。
力がある訳じゃない。お金持ちな訳じゃない。
もちろんカッコいい訳じゃない。
何がスゴイって
他人の子供を25年間も自分の子供として育てた事なんだ。
お父さんはアタシをどこへでも連れてってくれたよね。
幼稚園の頃から、アタシを連れてスナックに行ってママやホステスさんに自慢してたから、アタシはたぶん最年少の常連さんだったと思う。
お父さんの同窓会で迎えに行った時も、同級生が
「どう捻ったらこんなに可愛い子供ができるんだい?」
なんてイジられて、ニコニコ笑ってたね。
あの頃は捻るって意味がわからなかったけど、今ならうっすら理解できるよ。
夜帰って来て
「明日海に行くぞ」
って言ってビックリさせてくれた事もあったね。
朝方4時くらいに親戚みんな集まって、何台かで毎年行ったよね。怖がるアタシをボートに乗せて
「大丈夫だよ。深い所まで行けば波は無いから」
ザッパ〜ン!!
「…」
とかあったね。
中学生になって、反抗期の時も、変わらず一緒にスナックとか居酒屋に行ったね。
反抗期だったけど、お父さんの事は好きだったよ。
県立の高校に落ちて、私立に行って、しかも2カ月で中退しちゃって、お金無駄にしちゃってごめんなさい。
スナックのママに
「高校はどこに行ってるの?」
って聞かれてアタシが困ってると、
「親孝行だよな」
って言ってくれた事は、今でも心に強く残ってます。
中学生の頃から彼氏をコロコロ変えてたアタシに、いつも
「子供だけは作るなよ」
って言ってたね。
でも、約束破っちゃってごめんなさい。
17歳で妊娠しちゃいました。
言い出したら聞かないアタシの性格をわかってるから、しぶしぶ承諾してくれたね。
でも妊娠したお陰で、お父さんの素晴らしさに気付けたよ。
産婦人科の血液検査で
「A型ですね」
って先生に言われた。(A型?お父さんもお母さんもO型なのに…)
まさかね…
でも産婦人科の先生は
「O型同士からA型はありえませんね、両親のどちらかA型なんじゃないですか?」
って。
アタシ自身もショック受けたけど、最初に頭に浮かんだのは
(お父さんは知ってるのかな?)
だった。
お父さんが知らないなら言えないし、とりあえずお母さんに言ってみた。
「お母さん。アタシA型って言われたよ」
「…あ…そう」
それだけでアタシわかっちゃったよ。
でもずっと半信半疑だった。
もしかしたらお父さんもA型かもしれないし。
そんな感じで数年が過ぎて、突然お父さんのお母さん(アタシのばぁちゃん)が亡くなった。お葬式の時の親戚の話を聞いて、アタシは衝撃を受けた。
お父さんはアタシが産まれた時に、出産費用を出さなかったらしい。お母さんが退院してから働いて、自分で払ったらしい。
アタシはその話を聞いて、やっぱりお父さんの子供じゃないんだと確信した。
そしてお父さんがそれを知ってる事も。
49日も終わって落ち着いた頃、たまたまお父さんと2人になったから、ドキドキしながら聞いてみた。
「お父さんって血液型なに?」
「O型だよ…お前は?」
「…アタシA型」
「…そうか…」
「お父さんわかってたんでしょ?
だからアタシが産まれた時に出産費用出さなかったんでしょ?」
「…まぁそういう訳じゃないけど」
「知ってたのに良く育てる気になったね」
「お前に言ってもどうにもならないし、言っても可哀想なだけだからな」
「…」
ちょっと安心した。
ショック受けちゃうかと思ったら最初からわかってたんだ。
わかってて育ててたのなら何も問題ない。
ホッとしてアタシの口から出たのは、
「大したモンだね」
だった。