顕現せし金色の混沌(2)
―――――ここまで思い出したところで、今日一日の授業が終わったことに気付いた。・・・昼飯いつ食ったっけ?机の上を見ると、『数学Ⅱ』と書かれた教科書が置かれていた。
「おい、大丈夫かよ?それ、一時間目の教科書だぞ?」
「・・・ちょっと考え事がな。」
魂の抜けた俺を見て、声をかけてきたのはクラスメイトの重村力。数少ない友達の一人だが、こいつと二人でいるとなぜだか周りの人間が避ける。俺が無愛想なのも原因の一つだと思うけど、おそらくはこいつの体格のせいだ。2m近い身長に100kgを超えた身体。挙句の果てには、体脂肪率が10%を切っているらしい。あの気の強い雪乃ですら、初対面の時気を失いかけた。極めつけは、極道のような顔面。どんな修羅場潜り抜ければあんな顔つきになるんだよ。
「なんでもいいけど、そろそろホームルームだぞ?」
「分かってるよ。それより俺昼飯何食ったっけ?」
「ん?いつも通り食ってたぞ、学食で。」
・・・・・あ、思い出した。力と学食行ったんだっけ。俺はいつも通り日替わり定食だった気がする。こいつは・・・思い出すだけで、腹いっぱいになる。俺が思い出したのを察したのか、力は話を変えた。
「それより、今日放課後暇か?久しぶりに遊ぼうぜ。」
「あー・・・悪い今日はダメだわ。なんか客が来るらしくて。」
昨日親父に言われたしな。昨日来なかったってことは、今日来るってことだろ。どんな人なのかは知らないけど・・・。
「なんだよ~。なんか最近忙しそうだよなぁ、お前。」
「いろいろあるんだよ。てか、ホームルーム何すんの?」
「知らね。でもなんか大事な話があるって言ってた気がするぞ?」
珍しい。うちのお気楽担任が大事な話なんて。いつもは、大抵どうしようもない道徳話で一時間終わるのに、今日に限って大事な話なんて。
「なんでも、編入してくる子がいるとか。珍しいよなこんな時期に。」
「確かに。『子』ってことは女子か?」
「江口がそうやって言ってたからなぁ。女子なんじゃね?」
そんなやり取りをしてると、後ろに人の気配を感じたのと同時に、肩に重さを感じた。
「そんなに気になる?ねぇねぇそんなに気になる?」
「・・・あんたが一番ウキウキしてんじゃねぇか?」
後ろに立って肩に腕を回してきたのは、担任の江口和哉。まだ若いこともあり、生徒との距離が近い先生としての人気がある。が、その裏は『女の子からモテたいから』らしい。そのことを公言しているため、女子からの人気はあまりない。公言しちゃうあたり、余程の馬鹿。
「当たり前だ!あんなにかわいい子、ウキウキしない方がおかしい!」
「それをデカい声で言っちゃうあんたの頭の方がおかしいと思うぞ?」
「そんなこと言って、後で痛い目見ても知らんぞ~?」
そう言い残して、江口は教壇に向かった。嵐が去ってため息をつくと、おぞましい気配の視線を感じた。
「・・・・・・・・・(じ~~~)」
え~~・・・雪乃さんめっちゃ怒ってらっしゃる。あんなマンガみたいに目って光るんだね。てかなんで怒ってるの?俺別に興味ないの知ってるよね?俺が雪乃に怯えていると、江口が説明を始めた。
「え~じゃあ余計な前置きは無しにして・・・編入生が来ている。」
多分みんな知ってるぞ。お前のバカデカい声のせいでな。
「いいか、騒ぐなよ?じゃ、どうぞ~」
江口が入ってくるように手招きをすると、女の子が入ってきた。見た目はかなり可愛い。それよりも目についたのは、綺麗なブロンドヘアー。よく見ると顔も日本人っぽくない。
「初めまして。城戸崎エレナと申します。よろしくお願いします。」
日本語は普通に話せるのか。こういう時のお約束で、男子諸君は大盛り上がりだが、クラス中の女子が城戸崎さんに視線(死線)を送っている。それでもふんわりした雰囲気は変わらない。あの子、相当肝座ってんな・・・。
「よし、じゃあ空いてる席に着いて。世話役は・・・柳生、頼めるか?」
雪乃が世話役か。適任だな。しかし男子諸君はその意見に不満爆発している。俺がやるだの、俺の方が適任だの、お前らは小学生か。
「それなら、だれがいいか城戸崎さん本人に決めてもらえよ。」
江口が出した提案に、反対意見はなかった。席に着いた、城戸崎さんを一斉に見る男子諸君。
「あ、えっと・・・私、神城君にお願いしたいです。」