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――聖受歴1,538年 雪耀月3日 雪(5)




 黒歌鳥がぐりぐりするから……。

 死んだようにぐったりしていた国王(死に体)が、急に活きよく動き出しやがった!?

 うわ、気色悪っ……かさこそムカデか何かみてぇな動きでいきなり玉座に向かって這いずり始めやがったんだけど!?

 おいおいこの後に及んで足掻くとか往生際悪ぃぜ。黒歌鳥にいびられる末路しか見えねえぜ?

 何にしてもここは俺が捕縛するなり首をはねるなりする場面だろう、と。

 動き出そうとした……ん、だが。


 何故か、黒歌鳥に声もなく止められた。

 無言で緩く首を振り、見守るようにと目配せが飛んでくる。


 おいおい黒歌鳥さんよぉ。

 こんな最終局面まで来ておいて、この上更に何かするつもりだってのか?

 我ながら顔を引きつらせてただろうな、とそう思う。だって頬肉が引きつるんだ、仕方ねえ。

 っつうか黒歌鳥の制止を振り切って国王ふん縛っても、それで黒歌鳥の恨みを買うかもしれねえって思うと……なあ?

 得体の知れない寒気を感じた気がしたんで、止めた。


 でも一体、どういうつもりだ。黒歌鳥。

 俺の問う目線に、奴はふふっと小さな笑い声まで溢して微笑んだ。


王が生きている(いまの)内に契約を改めておきませんとね。契約の前提(・・)が変わるのですから」


 その笑顔が怖ぇってんだよぅ……。

 

 言ってる意味わっかんねぇけど、それも今更なのか。

 こいつはいつもいつもいっつも俺の理解の範疇を超えたところにいやがる。

 なんつーか……遙か高みから見下ろされてるような、そんな感じか?

 ………………例えのつもりだったんだが、マジでそんな気がして洒落にならんと笑いも乾いた。




 黙って見てろっつうから、黙って見ていた。 

 けど、俺は多分止めるべきだった。

 

 王が、鬼気迫る壮絶な姿へと変わる。

 自分で自分の胸に、その凶悪な付け爪ごと指を突き立てて。

 掻き毟るというよりも、深くふかく取り返しのつかないぐらいに深く抉った。


 飛び散る鮮血。

 

 血に塗れた王の手が、これだけは離さねえとばかりに玉座を掴む。

 顕わになった執着心と憎悪のおぞましさに、背が震えた。

 


「――『……………』…、……!」


 王の叫びは、ほとんど断末魔と言っていい。

 喉から溢れ出る多量の血と、擦れる空気の音。

 それらと混ざり、濁り、なんと叫んだのか俺にはわからなかった。


 だが、お前にはわかったのか。

 黒歌鳥。


 こんな場面だってのに、居合わせた全員を怯ませるような光景だろうに。

 奴はどこか満足げに目を細めて微笑むばかり。

 歪んでやがる。取り返しようもなく歪んでいらっしゃる!

 やっぱ王よりこいつの方が怖い。改めてそう思った。


 

 王の叫びより、黒歌鳥の綺麗な微笑みの恐ろしさに気を取られた。

 だがその間にも、事態は急変していたらしい。

 王が掴んだ玉座は、血に塗れてべったりと赤く染まった。

 汚れの筈のそれが、何故か違和感なく玉座に馴染む。

 ぴたりと綺麗にはまった、パズルのピースみてぇに。


 

 何がきっかけだったのか。

 どんな理由でそうなったのか。


 王の血と叫びに反応した、と。

 俺は何故か察した。


 

 いきなり玉座が、金色に光り輝き始める。

 眩しすぎて、目ぇ閉じずにはいられねえくらいに。

 目が、目がぁ……!


「こっこれが、『しおうそびーむ』!!?」

「『始王祖ビーム』ですよ。でも違います」

「違うのかよ!?」


 おい、黒歌鳥。

 これがどういう事態がおっさん全然理解できねぇんだけど、いい加減にてめぇそろそろ真面目にきっちりちゃんと説明しろやおい。

 説明して下さいお願いします。


 拝んでお願いしたら、黒歌鳥は「ふふっ」と軽やかな笑い混じりにこう言った。


「教祖国ってありますよね?」

「ああ、周辺諸国煽って何度もうちの国に戦争ふっかけてきてる奴らだろ。うざってぇ最大の敵対国じゃねえか」

「流石は元軍事関係者。よく理解しておいでですね。では、教祖国がこの国に敵対している理由は理解しておいでですか?」

「あ゛? 宗教の違いじゃねえの」

「それもありますね。複合的に、幾つかの原因が絡まり合っているものではありますが……」


 黒歌鳥は。

 一瞬、なんか聞きたくねぇなって思った俺が止めるより先に。


 輝く玉座を……そこからなんか出てきかけてる謎の発光物体をすっと指さして、言った。


「教祖国がこの国を敵視する、最大の理由が『あれ』です」

「お、お前……俺が必死にあの謎の発光物から目を逸らして見ねぇようにしてたってのに」


 おののく俺に構わず、奴は俺が頭を抱えるようなことを言う。


「あれはこの城の地下に封じられていた、狂った『嵐の精霊』。そして教祖国が何より崇める、彼らが言うところの『主神』とやら……だそうですよ?」


 『神』っつうのが何のことかは、よくわからんかったが。

 その音の響きと『あがめる』っつう表現が何よりヤバそうな気がするのは俺だけですか、てめぇ畜生。

 そんなもんうかうか復活させやがって、お前は一体何がしてぇんだよーーーー!!



 やがて玉座から光に僅か遅れてすっげぇ風が吹き出して。

 全身で暴風に翻弄されそうになりながら……俺は、人に非ざる者の姿と、それを呼び出した王の末路を見た。




「ぐ、う、ぅ……すっげぇ風、畜生、飛ばされちまいそうだ!」

「閣下、しっかり!」

「ってぇびくともしてねぇのな、お前!? どうやったらこの風圧の中、そんな滅茶苦茶しっかり立ってられんだよ! 足の裏、床に吸着してんのかよ!?」


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