――聖受歴1,538年 雪耀月3日 雪(4)
前回のハイライト
閣下
「目が~、目が~っ」
からの、
黒歌鳥
「靴の味は美味しいですか? 這いつくばる姿がお似合いですね」
……というところで、今回のお話はっじまっるよ~☆
長い長い通路の先で。
眩んだ目がようやっと見えるようになったっつうのに。
ショッキングすぎる光景に、思わず目を逸らして引き返したくなった。
なにこの空間。
目の前に広がるのは、眩しく白い光の乱反射する謎空間。
滑らかな壁は、明らかに今までの通路とは質感が違った。
っつうか壁が真っ白だから光が乱反射してんだよ。目が痛ぇ。この部屋作ったの誰だ、責任者出てこい。
天井から差す光は、乱反射さえしてなければ自然な風合いで。
通路を辿った時の感覚からすればここは地下の筈だってのに、どうやら何らかの工夫で地上の……太陽の光をここまで届けているらしい。ご苦労なこった。
いや、待て。けど今日って雪降ってなかったか?
……太陽光っぽいんだが、あれってそう見えるだけで何かの照明器具によるものか? わからん。そもそも技術的なあれこれが俺にわかる筈もない。
ついつい現実逃避もかねて、俺は今この現場に置いては超絶どうでも良いことばかり考えていた。
そろそろ、目を逸らしているのも限界に近い。
他にネタに出来るような物がこれといって存在しねぇ。
存在しても、それに触れると目を逸らしていたいアレに言及する羽目になるんで見ねぇようにしてたんだが。
どうやらもう触れねぇといけねえらしい。
俺は、自分でもわかるくらい神妙な顔で。
痛む頭を片手で押さえながら、現場の上機嫌な黒歌鳥さんに話しかけた。
「おい、何やってんだ。手前」
「おや、閣下。いらしてたんですか」
「白々しい口を叩くんじゃねーよ。お前、俺がいることに気付いていただろう」
俺が姿を現しても、黒歌鳥は一切動じる様子が見られなかった。
当然のように受け入れる。つまりはそういうことだろ。気付いてたんだろ、お前。
意味ありげに微笑む野郎は、明確に答えようとはしねぇ。
だが俺を拒絶する様子がねえってことは、ある程度の質問も受け付ける心積もりがあると見た。
「それで、ここは一体何なんだよ」
「何、とは?」
そらっとぼけてんのか、それとも本気で俺の質問の意図がわからねーのか。
どっちとも読めないまま、黒歌鳥は更に体重をかけて国王を踏みにじる。
国王の苦痛の声が増し、自由を得ようと藻掻く。
なんか罠にかかった蛙みてぇだな。なんとなくそんな風に思いながら、俺は国王を見下ろした。
……ついでに、俺もちょっと踏んどくか。今までの鬱憤込めて。
「隠し通路に入ってくから逃げるのかと思いきや、国王の野郎が行き着いたのはここだ。特にどっか出口らしい物があるでもない。が、ただの行き止まりと判断するにゃ、妙な空気のある場所だ。それに……」
俺は、ちらりと黒歌鳥の背後に目をやった。
この部屋の、最奥。
そこには赤い絨毯張りの高段と、上で……玉座の間で見たのとそっくりそのまま同じ見た目の、玉座その2とでも言うべきご立派な椅子がある。
けど、妙だな……?
何から何まで、座席に張られた布の色合いや模様まで同じデザインだってのに、なんか違和感が…………
…………大きな背もたれの、一番目立つ場所。
誰かが座れば、丁度その頭上に位置する場所には一際大きな宝石がはめ込まれている。
玉座の間の椅子とは、石の種類が違うような……?
広間で見た玉座には、赤くて馬鹿でかい宝石が埋め込まれていた。
だが目の前の、人目から隠して安置された玉座その2にはまっているのは、赤じゃなくて妙な色合いの石。
虹色とも言うべき光沢を持った、絶妙に色の説明がしづらい謎石がはまっている。
こんな石、見たことねーんだが……宝石にゃ詳しくねぇけど、夜会やらの警護任務も経験あるからな。貴族の見栄っ張り共が身につけていた石で、だいたいの宝石は見慣れている。真新しい宝石や希少な宝石でも、貴族はこぞって集めて身につけて自慢する。
世に出回っている大概の石は見たことある筈なんだが……こんな石は、見たことがない。
それも、目測が誤ってなけりゃ俺の握り拳よりも大きい。世の貴族共が奪い合いそうな代物だ。
けど玉座に似せて作られたらしい椅子に、それもこんな人目を避けた場所に納められてるくらいだ。
なにか、特別な石なのか?
「ふふ。閣下は目敏い方ですね。なんとなくお察しのようですが、確かにこの『石』は特別な物。石がはめ込まれていればこそ、椅子は玉座たり得るのですから」
「あ゛? 玉座ってのはどういう意味だ。確かに玉座の間にあった椅子と似てはいるが……こっちが模造品なんじゃねえのか」
「玉座の間にあった椅子こそが模造品なのですよ。本当の意味で本物の『玉座』はこちらです」
「意味わかんねえ」
「本当に大事な物だからこそ、人目に触れぬよう秘密の場所に隠してあった、ということです。この室に通じる隠し通路は、『精霊の濃い血を引く』者にしか見いだすことも通り抜けることも出来ませんからね。貴族でも高位の家の者でやっと、というところですよ」
「俺、平民出身なんだが」
「閣下の場合は、『精霊の騎……いえ、なんでもありません。聖なる剣のお力ですよ。ええ、聖なる剣の」
「なんか釈然としねぇんだけど、お前、絶対に説明ぼかしてんだろ!? 後、その理屈で言うとお前は何なんだ。この部屋にいたってことは……」
「そのあたりはどうでも良いことです。極限ぎりぎりまで追い詰めれば、国王は絶対にこの部屋に来ると思って待ち構えていました」
「どうでも良くねぇことなのに滅茶苦茶うやむやにしようとしてやがる!」
けどこいつがこんな言い方するってことは、とことん言う気はねぇんだろうな。
聞いても無駄だと、頭のどこかで諦めの声がした。
仕方ねえ。他にも聞き捨てならねえことがある。
俺は一時気になった疑問を置いて、そっちから先に聞くことにした。
「……それで? 国王追い詰めたらここに来るってどういう理屈だ」
「簡単なこと。この『真の玉座』には奥の手、最後の切り札があるからですよ」
「はっ?」
「王家に連なる者が王位と共に代々受け継がれる王冠を携えて、真の玉座に座する時。その時、王家最大の力はふるわれる」
王家最大の力?
玉座と、王冠……?
見れば確かに、国王の頭には王冠があったんだろう。
床に這いつくばってる時点で頭にゃ何も被ってない上、肝心の王冠は黒歌鳥が抜け目なく取り上げてやがるけど。
だが、王冠も玉座もただの権威の象徴に過ぎねーんじゃねえの?
その二つをそろえることで、一体何が起きるってんだ。
俺の疑問に満ちた顔に、黒歌鳥はこっくりと頷き返す。
そして間を置いてから、厳かな口調で告げた。
「『始王祖ビーム』です」
………………………………うん。
しおうそびーむ、ってなんぞ。
「びーむってなんだよ!?」
「ビームはビームです、『始王祖ビーム』」
「だからそれはなんだって聞いてるんだよ!」
「……申し訳ありません、閣下。何分、僕は非才にして若輩の身。僕の貧弱な語彙力では『ビーム』以外に表現する言葉を見つけることが出来ません」
「語彙力ないとか吟遊詩人がナニほざく!?」
「閣下にもご理解いただけるように言い表すと『殺傷力を伴った光線』といったところでしょうか」
「しかも言い表せないと言いつつさらりと説明出来てんじゃねーか!」
って、殺傷力を伴った光線???
簡潔に述べられても意味不明なそれに、俺はどう判断したものかと頭を抱えた。
取敢えずは……黒歌鳥の野郎が警戒する必要があると判断したって事だろ?
敢えてわざわざこの暗躍魔がこんなところまで出張って、自分で動いてまで国王がソレを持ち出すのを阻止したってんなら、黒歌鳥が自分で動かざるを得ねぇほどヤバい代物だ、と考えて良い筈だ。
けど、なぁー……あんまりにもソレが意味不明過ぎて、俺はがっくりと項垂れる。
何でよりにも寄って、今ここに俺しかいねえんだよ。
理解力があって柔軟な頭を持ってる奴……誰か、エディッセかうちの倅を呼んできてくれ。
伝令を頼む相手も、いねーんだけどな……。
「そろそろ俺の出番かな」
「ごめんね、カオス君……私の体が、弱いから。いっつもカオス君にばっかり負担かけちゃって」
「無理すんなよ、シリアスさん。俺とお前の仲じゃん。俺達、友達……だろ?」
「カオス君……! うん! 私達、お友達だよね」
次回、カオス君が大暴れ☆
…………じゃ、なくて。
あの方が復活ー……ってところまでいければいいな☆(希望的観測)




