――聖受歴1,538年 日耀月23日 曇り
固く閉ざされた門扉と、見上げる位置からじゃ目測で高さの測り辛い頑丈な壁。
一見して取っ掛かりに迷う城を前に、少しの距離を空けて包囲したまま、俺らは立ち尽くす。
攻めあぐねている訳じゃない。
このまま待っていれば、それだけで城に籠った奴らは自滅する。
それでも。
王国に従わざるを得なかった兵や……国を裏切れなかったグラハムの為とか。
わかりやすく『革命軍が王を討ち取った』という目に見える形での勝利の為に、とか。
あの国王がしやしねぇとは思うが自決ついでに城に火をかけられて王都が燃えたら堪ったもんじゃねえとか。
なんか城の最奥には最悪な兵器が隠されてるっつう眉唾もんの都市伝説とかあるし。
あと俺にはよくわからん種々諸々の理由とか。
まあ色々あるが。
もう季節は冬だ。
いつまでも面倒臭ぇ戦争ばっかはしてらんねえ。
あと、家に帰りたい。
まあ、色々な理由があるよな。うん、いろんな理由が。
さっさとこの革命騒ぎを落ち着かせる。
その為に、俺らはさっさと物事を終わらせる……国王の首を、討ち取る為に。
城を、攻めることにした。
だけど城を攻めたら、絶対に堪え性のねえ佞臣共が煙で燻されたネズミよろしく逃げ出してくるよな。
……っつうことで。
城攻めを始める前に。
何故か、っつうか何処からっつうか……駄々洩れの、謎の情報を元に。
予め王城の隠し通路の出口を塞いで潰す作業から俺らは開始した。
思った以上に数が多い。
城を囲んで睨みを利かせるにも頭数は必要だが、こっちはこっちで大仕事だ。
分担して、他の革命軍の人間まで動員して隠し通路潰しの作業に当たる。
けど胡散臭ぇな。
隠し通路の経路やら出口の場所やらが記された図面なんぞ何処で入手したってんだ……?
地図を片手に陣頭指揮に当たるのは、軍師エディッセ。
俺はシャベル片手に疑念たっぷりの眼差しを奴に注いだ。
「いや、なんで隠し通路の出口とか把握してんだよ」
俺だけでなく、その情報はどれだけ信憑性があるのかと問う声がいくつも上がる。
野次っぽくはあるが、声に込められた疑問は本物だ。
その図面は信じられるのか?
俺達の疑う声に、エディッセは地図をひらひらと振りながら。
さらっと答えた。
「黒歌鳥殿の指示ですが」
その一言で、情報の出所への疑念に満ちた声が止んだ。
俺んとこに所属してる奴らだけじゃなく、俺らと共鳴して王都攻めを開始して以来入り乱れて一緒に作業している他の革命組織の野郎共の声も止んだ。
……いや、っつうか何処までアイツの影響力浸透してんだよ。
おいこら黒歌鳥さぁん!? お前、他所で何やった……。
 




