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――聖受歴1,538年 日耀月22日 雪



 全方位からの集中砲火。

 もうこれだけで陣形関係なしに兵も何も散り散りになって全滅してもおかしくねぇと思うんだがな。

 やっぱグラハムは優秀だった。

 優秀なことが、仇となった。


 押し込まれる形で、逃げ場などないのに後退していく。

 はぐれる部隊を最低以下に抑えたのは流石なんだけどな。

 優秀が故に、辛いな。

 ここで終わりにするということが、グラハムには出来なかった。

 無残にここで敗れるには、有能過ぎて。

 しかし先を見据えることが出来ただろうに、自ら終わりを選択するには忠誠心が邪魔をした。

 もう王都の防衛線を維持することなど出来ずに、最後の最後で逃げ込むことの出来る場所。

 兵を収容し、立て籠もることの出来る場所に自ら向かっていく。

 王城での、籠城戦。


 グラハムに率いられた王国軍の生き残り達と、革命軍を恐れた貴族や官僚。

 また、それに連なる者達。

 奴らは、追い詰められ。

 そして外敵に襲われた亀のように、国で最も堅牢な城に閉じ籠った。


 誰も救いになど来ないことは、もうわかっている。

 援軍は来ない。

 助けてくれる『誰か』なんていない。

 それがわかり切った上での籠城なんざ、精神と肉体を無駄に疲弊させる拷問でしかねえ。

 逃げ場に見えた其処は、ただの牢獄だ。

 もうどこにも逃げ場はねえってのによ。

 けど敗北を先延ばしにするには、もうそれしかなかった。

 自ら復路のネズミになるとわかっていても、その判断を選ぶしかない。

 上の――国王が、早々に敗北を認める宣言を発しさえすれば。

 そうすれば、グラハムももう無駄な抵抗を続けずに済むってのに。

 ……まあ、あの国王に大局を見ろとか自分から負けを認めろなんぞ言っても無駄だろうがな!

 そんな潔い選択、誰も期待もしてねーよ! しても無駄だからな!

 今までのアレコレから、直接顔を合わせたことがない一般市民ですら冷静に分析しとるわ。

 あの国王が、喉元に刃を突き付けられずして負けを認める筈がねぇってな。

 下手すると刃を突き付けられても認めねーかもしんね。そう思わせるあの王がヤバい。

 何がヤバいって、そもそもが国主と仰ぐには絶望的な野郎だからなぁ……

 だからこそ、こんな事態(こと)になってんだがな。

 まともなオツムを持ってんなら、元より父王弑逆疑惑とか浮上しねえだろうし、わざわざ兄王子を殺してまで玉座奪ったりもしねえだろうしな。

 

 ……ホント、なんで今までこの国()ってたんだ?


 国王に次ぐ権威だのなんだのを有する貴族共からして既に腐ってた、ってのはあるんだろうけどよ。

 それでも他にいくらでも志のある奴らは出て来そうなもんだが……


 今更ながらに、俺らが起つまで誰も反乱を起こさなかったことが不思議でならん。




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