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――聖受歴1,538年 日耀月21日 雪(2)



 グラハムがどれだけ俺より用兵に優れ、戦術に長けていたとしても。

 それ以外の部分で、負けを確定的にする要素が幾らなんでも多すぎた。

 兵力差に士気、そもそもが王都にまともな兵なんぞもう残ってもいない。

 俺達の進軍を食い留める為に送り出されては、蹴散らされ、併呑された。

 いま王都に残っている兵は、何らかの理由があってどうしても王都を離れられなかった奴か、王都を離れて出兵するのを厭った軟弱な腰抜け……それも権力と財に胡坐をかいてきた貴族の名ばかり軍人ばかりだ。特に近衛の腑抜け野郎共とかな。

 まともな兵で残ってる奴なんて、出兵しようにもできなかった傷病兵がほとんどだろう。

 そいつらがいくら優秀な指揮官の元、真っ当に防衛に励んだとしても。

 地力の差は、覆し様もない程に大きく開いていた。

 ……ここまで有利な状況を整えた黒歌鳥にうっすら戦慄を覚えるのはどうしてだろうな?

 加えて、俺達の方にはわざわざ俺が頭を悩ませずとも優れた戦術を立ててくれる軍師がいたしな。

 元宰相が目をかけていたってだけあって、頭の良さは折り紙付きだ。

 どこかの誰かが裏工作を積み重ねまくって暗躍してまともな実践回避させまくってたせいで、あの野郎が消息を絶つまで全然目立った働きをさせてやれずにいたが……実際、謎の裏工作なしに兵同士がぶつかり合うとなるとエディッセの戦術には目を見張るものがあった。あいつの頭の回転ってどうなってんだろうな? 頭が良すぎて俺には理解不能だわ……なんでそうなる?って疑問に思ったことも、あらかじめ予測された通りの時間が過ぎれば、あら不思議。

 エディッセの言った通りの状況になってやがる……

 黒歌鳥程じゃねえけど、こいつも若干同類の気があると思ったのは俺だけか?


 戦場ってのは、奇跡が起きる時は起きるもんだ。

 前もって計画した通りになることなんざ、逆に滅多にねえ。

 どんでん返しが有り得なねえとは、誰にも言えねえ。

 言う奴は油断し過ぎだ。戦場じゃ真っ先に死ぬぞ。

 何事も最悪の事態を予測して行動するのが鉄則なんだろう。

 けどいざ最悪もあり得ると思ってたって、心のどこかじゃ否定していたりもする。

 まあ、目まぐるしく事態の動く戦場じゃ、何かを深く考えてる余裕もねえがな。

 考えるより先に、自分の勘と経験を信じて動くしかない。

 グラハムのことだ。

 奇策の一つ、二つは用意しているだろうよ。


 けどなー……


 

 流石に、無理があったらしい。

 やっぱグラハムでも、練度も低けりゃ士気も最低に近い寡兵で全方位から責め立てる『全』革命軍を押し返すのは無理があったか。いや、わかってたことだけどよ!

 王都に押し寄せるのが、どこか一方からと区切って限定できてたらまだやりようもあっただろうが、な。

 黒歌鳥が方々に呼び掛けて、複数の革命軍で連動して蜂起!とかやってたしな……。

 最後に演説のタイミング合わせとか、計算してたんだろうな。


 俺らと同調する形で、他の地方から攻め寄せてきた革命軍も王都に突っ込んだ。

 ほぼ、同時に攻め入ったこの様子。

 おい。絶対に前もって示し合わせてたろ。示し合わせてたろ、なあ。


 俺と対決!みたいな形でよ。

 自軍の兵の前に立った俺と向き合っていたグラハム。

 俺に気を取られてた、といえばその通りで……俺は囮か?

 こっちに意識が向いている最中に、背後やら横合いやら関係なく全方位から所属の違う革命軍が入り乱れて『革命連合』と化して襲い掛かってくるという、問答無用で容赦のねえこの展開。

 あっはっはっはっは。反王国組織、大集結だよ圧巻だなオイ。

「な……っ大将(ルーゼント)自ら前面に出ていたのは時間稼ぎの為の囮だったのかー!?」

 思いもかけぬ軍勢が大挙しての襲撃に、報告を受けて顔色を変えるグラハム。

 してやられたと、口惜しいと歯を食いしばり、自分を引き付けていた(エサ)を睨みつける。

 HAHAHAHAHA! ちなみに連合の『盟主』は俺なんだってよー。

 

 ……その『盟主(おれ)』も目の当たりにするまで予定(こんなん)知らなかったわ、こん畜生ー!!


 グラハム、安心しろ。

 してやられたのはお前だけじゃねえから。

 ここ数か月で鍛えられた表情筋のお陰で顔には出してねえけど、俺もこの展開には超驚いてっから。


 え、なに?

 なんでトップの筈の俺が蚊帳の外な訳?


 状況を見るに、取敢えず進軍速度の調整やらなんやらを受け持っていた軍師(エディッセ)あたりが他の革命軍の皆さんと連携取ってたのは確実なんだが。

 前もって連絡を取り合ったり予定を立てたり、タイミングを合わせてたりしてただろ。なあ。

 なのに予定してた筈のそれを、俺が知らないってどういうことデスか……?



 後でエディッセに問い詰めたら、しれっとした顔で言われた。

「閣下は腹芸は苦手のようですし……気心の知れた元副官相手に、演技できませんよね?」

 言い返せなかったぜ……


 畜生。




 閣下、(エサ)になるの巻。

 多分、歴史には『囮になった』ではなく『王家に反する全兵力をまとめ、先頭に立って戦った』とか記される。


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