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――聖受歴1,538年 日耀月21日 雪




 とうとう、王都を落とす為の戦闘が始まった。

 目指すは王宮――ただ一つ。

 そこを目指して一直線……といきたいところなんだが。


「どうも、そうは上手く運ばせてもらえねぇみたいだな」


 どうして、どうして。

 ここまで下も下ってくらいに質の悪い指揮官ばっかだったのによ。

 最後の最後、この王都防衛戦……俺らからすりゃ陥落戦だな。

 ここぞってところになって、最後にとびっきりの奴が出てきやがった。

 今までの無能ぶりはなんだったんだっつの。

 舌打ちしたくなるぜ。

 守る気ゼロだろって因縁つけたくなるような奴ばっかだったのに。

 王都だけは、無能と程遠い野郎が残ってやがった。

 ここだけ守りゃ良いってもんでもないだろうによ!


「……久しいな、ルーゼント」

「おう」

「まさか、このような形で相見(あいまみ)えることとなろうとは。思いもよらなかったぞ」


 俺も思いもよらなかったっつーの。



 厄介な奴が、残ってやがった。

 こんな腐りきった屋台骨だけ残して、もう半分以上も沈んじまったような『国』だってぇのに。

 まともな奴なんぞ、もう残ってねぇんだぞ?


 お前、以外は。きっとな。


 これが忠義というやつなのか、惰性によるのか。

 どっちかだとしたら、たぶん前者だ。

 今のこの腐敗臭にまみれた国には勿体ねぇ。

 それ程の傑物だと、俺が知っていた。


 元、同僚。

 最後は俺の方がちょっとばかし出世して、上司と部下……副官と呼んだ間柄だ。知らねぇはずがねえ。

 お前がどんなに厄介で、頑固で、こうと決めたら梃子でも動かない奴だってこと。

 どれだけ手強く、心根のまっすぐで……まっとうな奴だってこと。


 お前は強い、グラハム。

 敵として、できれば会いたくなかったぜ。


 けどな、かつての部下どもが次々と北に参集する中。

 お前の姿はいつまでだっても(つい)ぞ見えなかった。

 だから――北で決起した時には、いつかこうなるだろうって思ってたさ。


 

 グラハム・ハイドバルト

 お前は『国』を捨てられない。

 最後まで、見捨てられなかったか。


 きっとお前は言うんだろうな。


「それが騎士の血筋なれば――誓ったのだ。国を守り、王に仕え、忠義を尽くすと」

「その忠義、確実に向ける方向を間違ったな」

「下の者は、ただ上に従うのみ。例え間違った道であろうと、仕えると決めた時に疑心など捨てた。盲目と呼ぶがいい。だが、それが当家の生き様だ。無様に思われようと、命ある限りは最期まで尽くし、支えることこそ我が本懐」

「お前ってば愚直っつか……ほんっと、不器用。曲げるってことができねぇ馬鹿だ」

「なんとでも言え」

「……お前が国に騎士の誓いを立てる前に、尽くす相手が違うって殴ってでも止めるべきだった」

「笑止。お前は私が騎士になる前など知らんだろう。互いに、軍属になって初めて顔を合わせたのだから」

「ああ、そうだ。そうだったな……黒歌鳥の野郎、過去を変える方法とか知んねーかな」


 こいつはどこまで行っても、まっすぐで。本当にマジでまっすぐで。

 曲げることが出来ねぇまま、主と決めた奴のつけた道を突破していく。

 時代の流れも、引き留める情も、全部振り切ってただただ前にしか進めねぇ。


 俺は、そこが気に入ってたんだけどな。

 その純粋さは、とても真似できたものじゃなかった。


「……ひとつ聞くぜ、馬鹿野郎」

「なんだ、未来の国主様」

「お前が忠義を誓ったのは、『現王家』なんだよな?」

「聞くまでもなく。二君に仕えぬと誓ったのでな、お前の配下には下れぬぞ?」

「そうかよ。……じゃあ、試しに聞くが、『現王家の直系で今の国王よりもっとマシな……』……いや、なんでもない。つまらねぇこと考えちまった。忘れてくれ」

「ふっ……私も、一度か二度考えないではなかった。だが仕えると決めたからには最後まで貫き通すつもりだ。それに王に子はいない。王家の人間は元より少なく、お前達が決起せずともあと数十年もすれば直系の血は途絶えただろう……何故あと数十年が待てなかったのか、と。そういうのは詮無きことなのだろうな」

「それは黒歌鳥に聞いてくれ……」

「は?」


 いや、マジで俺にそういうこと言われても困るんだがな?

 数十年で王家の直系途絶えたって、国どころか何も変わりゃしねえだろう。

 もう腐りきったこの国の、もげた頭がすげ代わるだけだ。

 だから、あの野郎が革命決起を今の時代と定めたことにも不思議はねえ。


 ただ、それで運命を違えた奴はいるだろう。

 俺とかな。


 そして、目の前のあいつとかな。


 あいつとの会話で、ふと思っちまった。

 もしもあいつの信義に反することなく、それでいて現王よりもっとまともな『王家直系の人間』があいつの目の前に現れたら。

 そうしたら、あいつの馬鹿な生き様が、生き方が変わることもあるんだろうかって。


 一瞬。

 脳裏に黒歌鳥の姿が過った。

 超胡散臭い、いつものあの微笑みで。




 ぞささささっと。

 めっちゃ背筋を悪寒が駆け抜けた。




 ――おれはなにもかんがえなかった。

 一瞬だけ頭をよぎった気もしなくないような気のするナニかを、俺は形になる前にぽいっと遠くのお空に投げ捨てた。

 その思考は、マジでヤバイ。

 グラハムの未来の為にも、忘れるんだ俺……!


 




何の起伏もなく王都を潰すのはどうかと思った結果、中ボスが閣下の前に姿を現しました。

現在進行形で友であり、かつては部下でもあった相手グラハムさん。

しかし真ボスは誰かと言われると、小物感漂う王様や中央貴族のような気は一切しません。

むしろ裏ボスというか、真のボスは黒歌鳥のような気がします。


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