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『黒歌鳥の足跡――』

 このお話も、なんだか段々終わりが見えてきたような気がします。




 ――『精霊玉』。

 それは、精霊にとって核ともいえるもの。

 どんな精霊もそれを有し、身の内に守っている。

 万が一にも誰かに渡してはいけないと……。


 『精霊玉(それ)』を奪われた時。

 精霊は、玉の持ち主に逆らえなくなる。

 精霊自身が消失していたとしても……玉には精霊の力が宿る。

 『精霊玉(それ)』を手にするということは、精霊の力をそっくりそのまま手に入れるということ。

 

 だがそれはあまりにも貴重で、珍かな宝。

 実物を見たことがあるという人間は、ほぼ存在しない。

 しかし極めて僅かの、目にしたことのある者は言う。


 あれは、一見して、とても貴重な玉石の様に見えたと。


 そしてウェズライン王国の精霊の血を濃く引いた初代から四代目までの国王が、生まれながらに『精霊玉』を宿していたこと。

 五代目の王に密かに殺害された彼らの亡骸から、宝石のような物が取り去られたこと。

 それを生きて知る者は、もう王国にほとんど存在しなかった。



《五》


 いきなり奪われて、訳がわからない。

 そう言いたいのだろうが、私にも都合がある。

 『これ』は返してもらおう。

 

 ――返すも何もない?

 盗っ人猛々しい、か。

 そう言われても、『これ』を所有する権利は元々貴方にはないのだ。

 公爵(あなたの)家の家宝だと?

 そうだな。そうだったのだろう。

 ……七百年ほど前からは。


 だが、『これ』はそもそも貴方の家とは何の関わりも無い。

 故無き虚実に縋り、忘れ去られた罪業に由来する宝と知らずに権利を主張するものではない。

 正当性を語るのであれば、正しい『由来』くらいは知っておくべきだった。

 『これ』がこの家にあるのは正当とは言えない。

 ……だからとて、本来伝えていた『家』が自らの『所有物(もの)』と語るも厚かましいが。


 素直に渡していただけなくとも、私が『これ』を持ち去る結果は変わらない。

 ……『これ』の価値を私は知らぬと?

 否。知っている。

 貴方より、多くを知っているとも。

 貴方の手元にあっても、『これ』は鑑賞物か装飾品として扱われるだけだろう。

 それこそ、本来の価値を知らぬ愚行というもの。

 『これ』には果たすべき役割がある。

 その邪魔をするには、貴方では役者不足だ。

 必死になられても、無駄と知るが良い。




《四》


 ――ああ、あった。

 骨董店(こんなところ)に長く埃を被っているとは、哀れなものだ。

 三代前の国王の時代に、侍従が偽物とすり替えて売り払ったのだったか。

 今尚、王宮で遊興に耽る国王は思いもしない事だろう。

 まさか、自身の先祖が。

 かつて王家の礎を築いた賢王の名残が。

 このような傾いた店にまで流れてきていようとは。

 

 ……私の名前?

 いいや、私に名などない。

 ああ、確かに貴方の末裔(すえ)だが。

 そうだ。哀れな貴方を迎えに来た。

 もう自我も僅かにしか残留していないようだが……ただの道具に成り下がるのは、まだ待ってもらおう。

 貴方がたはこの国の『王家』の地位を盤石とし、王国の未来を切り開いた。

 であれば、最後の仕事だ。

 『王家』に幕を引く。……そこまで付き合ってもらわねば。




《三》


 迎えに来た、と言ってわかるだろうか。

 ……他の者より、薄い思念しか残っていないか。

 これでは『認識』は出来ても『思考』は出来るまい。

 このような路傍で漂白されるように時を過ごせば致し方ない、か……。

 確か、持ち出した盗人がここで討ち取られたのだったな。

 盗人の切り捨てられた衝撃で懐からこぼれ落ち、今日まで野曝しでほぼ千年……風化するものではないが、変化のない日々がこうも魂に打撃を加えようとは。

 それでも、素直に休ませて差し上げる事はできない。

 貴方にも付き合っていただこう。




《二》


 初めまして、国で最も高貴な老女殿。

 ああ、老女と呼んでは失礼か。

 仮にも現国王の母君なのだから。


 ……さて? それは私の名ではないよ。

 まだ痴呆にはなっていなかったはずだが……貴女の義息子の名だろう、それは。

 義理とはいえ亡くなった自身の息子を、このような若輩者と間違えるとは。

 貴女も老いたということなのだろう。

 そう、疑いようもなく。


 貴女も、醜悪さを露呈させて生き長らえたくはないだろう?



 隠居した、という話なのにこのような豪勢な離宮で贅沢三昧。

 はて、隠居とは一体なんであっただろうか。

 貴女の身につけていた、この『宝玉』の首飾り。

 代々の王妃に授けられる国宝である物を。

 息子の妻に渡したくないからと密かに持ち出して。

 本当に無様で醜い。

 この程度で王族が務まるとは、安いものだ。




《一》


 初代に二代目、三代目、四代目。

 他の者達は尽く王宮から流出していたというのに。

 最も強い力を持つ『始祖』だけが、未だ王宮に納められていようとは。

 ……二つに割られ、玉座と王冠にはめ込まれては流出しようもないだろうが。

 これを皮肉と思ってしまうのだから、私の人間性も自覚するよりは育っているのかも知れない。僅かにだが。

 散らばっていれば、回収も出来ただろう。他の『王』達のように。

 しかし王宮から動けないのであれば、仕方が無い。


 迎えに行くとしよう。


 どうせ、最終目的地は王宮(そこ)なのだから。






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