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――聖受歴1,538年 始耀月6日 曇り




 脆い。

 ……呆気ない。


 黒歌鳥に無傷で通り抜けるような策はない(用意していない)と言われてから、丸一日。

 まだ、たったの一日だってのに。


 あれだけ堅牢な砦だ。

 どっしり構えて備えてりゃあ、早々簡単には落城しねえ。

 ……その筈だってぇのによ。


 俺は、煙を上げる砦をやるせない顔で見上げていた。

 あまりにも、脆すぎる。

 備えも用兵も貧弱で、指揮官に「何やっていやがった、てめぇ」と耳ぃ引っ張って怒鳴り散らしてやりたい。

 もう、その指揮官すら首しか残ってねえがな。

 あ? 胴体?

 あー……どっかその辺?

 もう雑兵共の遺体に紛れてどれが誰やらわからねーよ。


 砦は、陥落した。

 本来であれば攻略困難な砦だっただろうに、丸一日とかからなかった。

 実質、半日だ。

 革命軍(おれら)が迫って来てんのは、前々からわかってやがっただろうに。

 砦の脆くなった箇所や、崩れた場所の補修すらされていなかった。

 堅く閉ざされていれば堅固な門も、高い塀も。

 壊す前からヒビやら何やらが入ってりゃ始末に負えねえ……。

 

 急場ごしらえだろうと、備える時間は充分にあったはずだ。

 砦の手入れを充分にしていれば、そもそも崩すべき穴は塞げていた筈だろ。

 応急処置すらされていなかった。

 ……応急的な補修の指示すら出せねえ、無能な指揮官だったのかよ。

 王都で顔つきあわせた時にゃ、随分と偉そうに防衛について語ってやがった癖によ。

 机上の空論にすら、なれてねえ。奴の弁舌聞いた時から、薄っぺらいとは思ってたが。

 教科書通りにすら動けねえなんて、どんだけ無能だったんだ。



 あまりに脆すぎて、勝利も虚しい。

 こんなんでも、かつての同僚だったのかと思うと余計にな。

 喜ぶと言うよりも、恥を感じる勝利だった。

 あれが、あんな指揮官しか、もう国には残ってねえのかと。

 反旗を翻させられようと、ここは俺らの国だ。

 あいつらは、俺らの国の将兵だ。

 それが今は、あんな陣容しか保持してねえのか。

 自分の国の薄っぺらさが、情けなくって仕方なかった。


 お陰で味方の損害は限りなくゼロに近かったけどな!(無ではない)



 一日前に聞いた黒歌鳥の「策は必要ない」っつう言葉が、やけに何度も思い出された。

 そんな感じの、砦攻めだった。

 

 おい、信じられるか?

 俺らが革命蜂起してから、まともな交戦するのある意味でこれが初めてなんだぜ?

 そりゃあ交戦記録は表向き何度も重ねちゃいるが……黒歌鳥が今までは裏から手を回してやがったからな。

 まともな戦いは、やっぱりこれが初めてのような気がする。

 その、まともな最初の勝利が『これ』。

 

 意気揚々と矛を掲げて突撃した自陣の将兵共も、心なしか複雑な顔をしていた。


 

 昔、まだ国の軍に所属していた頃。

 思えばあの頃に、何度も国内の防衛に関する備えが貧弱だと感じた記憶がある。

 王都から地方へ、他国へと派兵されてばっかで防衛に関しちゃそこまで関わってなかったが……担当も別の野郎だったしな。

 それでも貧弱だと思えばこそ、何度も何度も改善が必要だと訴えた。

 上に鬱陶しがられるくらいに、防衛の備えを整えるように提言した。

 だが、会議でも偉そうな態度の野郎共(思えば貴族出身者ばかりだった)にゃ、鼻で笑われて。

 俺の危険性を説く声なんぞ、取り上げられもしなかったんだ。


 あいつらは、そのツケを今日から払うことになった。

 ただそれだけだったが、過去を思えば虚しさがますます募る。



 ………………何故か爺様がた、老境の将やら兵らはしたり顔で頷くばかり。

 なんか、意味ありげな含みを感じた。

 え、なに? なんかご存じなんすかねー……?






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