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『ティファリーゼ・ベルフロウの追想』

 本編の流れにはあまり関わらないので入れるかどうかちょっと迷いましたが……

 閣下が気付きたくなかった現実に直面して動揺しているようなので、丁度いいタイミングと投下してみることにしました。

 話がちょっと前後しますが閣下の自慢の愛娘、妹の方視点です。


 家族の呼称が以前と違うことに気付いて修正しました。(8/6)




 その人に出会ったのは、とても寒い冬の日でした。

 北の辺境に引っ越してから毎年のことだったけれど、外は一面の真っ白な世界。

 雪に閉ざされ、私達は砦の中。

 姉様と二人で寒いねって言って、みんなの為に温かいシチューを作る。

 そんな中で、少しだけ外に出ていた筈のお父様が騒がしく帰って来て。

 様子がおかしいと思ったのは、騒がしさが砦の中で大きく膨らんでいったこと。

 何かあったのかと見に行くと、お父様の腕には『誰か』が抱えられていた。

 ぐったりと意識を失い、お父様の肩に身を預けて。

 一目で只事じゃないって、私と姉様は駆け寄った。


 お父様が見つけてきた、その人。

 こんな寒い日に、雪にうずもれて気を失っていた。

 慌てて部屋を用意して、元はお医者様という同居人の一人を引っ張っていく。

 濡れた服を脱がして部屋に寝かされたその人は、私より少し年上くらい。

 北方に引っ越して以来、お父様を慕って沢山の男の人がやって来るようになった。

 若い人からお歳を召した方まで、一緒に同じ砦で暮らしている。

 だから、男の人は見慣れている方だと思っていたけれど……


 その人は、あまりにも他の私が知っている『男性』とは様子が違っていた。


 考えてみれば私の知っている方はほとんどが『軍人さん』やそれに準じる方ばかりで。

 見慣れているといっても偏っていたことにも気付いていなかった。

 分厚い外套を剥がれたその人は、驚くほどに細くて華奢で。

 女の私よりは太いけれど、丸太みたいな手足の男の方々と比べると差は明らか。

 私はまず、その事に驚いてしまったの。

 こんなに繊細な方がいるなんて。

 雪の中で行き倒れていたこともあって、とても心配になる。

 さっきまで以上に、大丈夫かしらと不安だった。

 覗き込んだ顔は、あまりに白い。

 人形のように整った顔立ちと相まって、一瞬人間じゃなくって雪の精かしらなんて馬鹿なことを考えて。

 そんなはずはないわ、って。

 手を握るとひんやり冷たくって驚いた。


 まさか本当に雪の精……?

 いいえ、違うわ。冷え切っているのよ!


 慌てて、暖炉に薪を足して。

 気休めにしかならないってわかっていたけれど、私はその人の手を両手で握り締めて。

 あたたかくなれ、あたたかくなれって祈りながら側にいた。

 心配で心配で、早く元気になってほしい一心で。

 少しでも何か出来ないものかと、毛布を運んだり温石(おんじゃく)を用意したり。

 彼が意識を取り戻した時、ぴくりと震えて持ち上げられていく瞼に、私は心底良かったと思ったの。


「……貴女が看病して下さったのですね。ありがとうございます」


 目覚めてすぐ、起き抜けとは思えないしっかりした声で彼はそう言った。

 印象的だったのは、何もかも全てわかっているかのような、深い眼差し。

 寝起きの掠れ声だったけれど、声は今まで聞いたことがないくらいに澄んでいて、キラキラ瞬く星の光みたいで。

 こんなに素敵な声は初めて聞いたって思ったの。

 その後、吟遊詩人なんですって教えてもらって納得したもの。


 ――これが、黒歌鳥さまと私の出会い。

 今でも忘れられない、冬の日のできごと。


 あの日以来、新しい同居人になった黒歌鳥さまは私達を何くれとなく助けて下さるようになった。

 私達と――主に、お父様を。

 そのことをなんとなく面白くないと思ってしまうのは、何故かしら。

 最初はとても良いことのように思えていましたのに、私の思うところはいつの間にか変わっていた。

 お父様は今とっても大変な時で、お忙しくて。

 そんなお父様のことを黒歌鳥さまが助けて下さるのは嬉しいことの筈なのに。

 なんとなく、もやっとした何かが胸の奥でわだかまる。

 それが何故なのか、わからなくて……

 自分のよくわからない感情に、私の戸惑いは深まるばかりでした。

 

 


 恋愛モノってよくわからなくって苦手です……。

 少しでもそれっぽくなっていると良いのですが。

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