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黒歌鳥の暗躍――聖受歴1,537年星耀月13日 本日も晴天也




 エルレイク地方。

 王国の南東に位置する、山と森に囲まれた土地。

 建国の時より他国の侵入を阻み続けた、かつての国境線。

 伝説の金属アダマンタイトの精霊が人知れず鉱脈を広げ、王国を守る結界の一角を担っている。

 本当は、あまり此処に足を運びたくはなかった。

 気が進まずとも、必要とあれば足を運ばねばならない。

 それでも誰かを伴うなど、以ての外だと思っていたのだが。

 この地は、私の身上に……縁があり過ぎる(・・・・・・・)故に。


 国を守る五つの精霊が配された、重要な要の地。

 王家の外敵(・・)を阻む、不可視の壁が此方から彼方へと張り巡らされる。

 だからこそ精霊を守る為の番人が置かれ、領土の統治権は王家が握っていた。

 そのことを、この地が重要な国防の要だということを。

 今の王家は覚えていない。


 それでも、伝統は残る。

 理由は覚えておらずとも。

 この地の権利を確保し、王家で握らねばならぬと。


 故に、この地は。

 この地だけでなく、五つの精霊が配された土地は。

 代々、直系王族の手に委ねられてきた。

 王家の濃い血を引く人間の、直轄領として。


 此処は南東、王太子領エルレイク。

 代々の王太子が裁量を振るい、支配した領地。


 ……十七年前、まで。

 この地は、私と深い関わりのある人が治めていた。

 私にとっては、会ったこともない相手ではあるのだが。


 人の理の外にある精霊は、彼のことを覚えているだろうか。

 山の奥、岩の下、鉱脈から人の世界を見つめ続ける精霊は……私の『父』を、覚えているのだろうか?


 今、この土地に領主はいない。

 現王には子がおらず、後継者も指定されてはいない。

 それ故に、十七年間ずっと領主の位は不在のまま。

 不在であるとして、現王が支配を握っている。

 今、この土地に精霊の番人は存在しない。

 彼らの任務を忘れ果てた王家の末裔が、現王が、しかし土地の有力者であるとして……十七年前、王太子に加担した者として、王太子派の他の有力者諸共、連座で一族郎党処刑してしまったのだから。

 この土地は今、本当の意味で管理する者なく。

 ずっと、放置されているに等しい。


「十七年前の騒乱を、当時軍部にいらした閣下は御存知でしょう?」

「あ? ああ……あれな、醜い骨肉の争いってヤツ。実の親兄弟血祭りに上げてでも欲しいもんかねぇ、玉座なんざ」

「閣下が言うと含蓄の深いお言葉に聞こえますね」

「おいこら。どういう意味だ」

「殺し合いの正当性が兄と弟、どちらにあったかなど今は論じる意味などありません。重要なのは、かつての玉座争いによってこの地を治めるべき人間が失われたということ。実際に土地を仕切っていた有力豪族の一族も失い、この土地の監視網はザルです。一種の無法地帯ですね」

「お前に、誰かの監視網とか意味あんのかよ? 王都で指名手配喰らってまんまと北方まで逃げおおせたんだよな……?」

「さて、閣下。この地の監視が緩いということはご理解いただけましたね。他の地方の有力者の方々もそれは御存知でして……今回の会合は、このエルレイク領にて行うことが指定されています」

「無視か。俺の疑問は無視なのか」

「ですが今回は移動が上手くいきましたので……会合の開催まで、数日の猶予があります」

「は? 数日? その間、どうすんだよ。流石に表を堂々と歩くって訳にゃいかねえだろうが。どっかに潜伏でもしようってか?」

「潜伏と言いますか……閣下、事後承諾で申し訳ありませんが」

「お前が事前に承諾取ったことねえだろ」

「事後承諾で、申し訳ありませんが。この数日という時間で……


……伝説の金属に纏わる、精霊探しを行います」


「はあっ!?」

「彼らの力を借りて、特別な閣下の剣をこしらえる予定です。素敵な権威の象徴付けに出来そうですよね。物語性に富んでいて!」

「ちょい、待て。これ以上、俺に無駄な逸話を付随させようとすんのは止めろ!?」

「目標はアダマンタイト。その為に、閣下を認めさせる(・・・・・・・・)つもりです。ちゃんと承認(・・)を受けて、閣下の剣になってもらいますよ」


 私の言葉が聞こえたのか。

 四人の『精霊の騎士』が、そっと私から目を逸らす。

 彼らは既に察しているようだ。


 私が、閣下を『精霊の騎士』にするつもりだと。


 本人にそれを伝えるつもりは、今のところないのだが。

 ……適任者が他にいないのだから、閣下に担ってもらうしかない。

 本来であれば、誰に任せるのでもなく……起案した私が我が身で責任を負うべきなのだろう。

 だが私には出来ぬこと。

 出来ぬから、他者に肩代わりさせている。

 ……仕方があるまい。

 王家の血筋(・・・・・)は、『精霊の騎士』には成れぬ。

 既にその身の内に、祖先より人外の、精霊の力を受け継いでいるのだから。


 五つの精霊の干渉下にある『精霊の騎士』は、当然ながら五つの精霊よりも下位の存在となる。

 力の源が彼らから借用したものなのだから、当然だ。

 だが王家の人間は、五つの精霊よりも存在としては上位(・・)

 王族は五つの精霊より強力な力を身の内に我知らず内包している。

 遺伝という形で継がれた力は、どれだけ小さくとも、決して表には現れずとも、五つの精霊よりは上位の精霊に由来するもの。

 体の奥に潜む祖先の力が、外部より与えられる如何なる力も弾いてしまう。

 彼ら精霊より授かるべき力を受け取れずに、どうして『精霊の騎士』に成れようか。

 故に、『精霊の騎士』には私以外の者を据える必要がある。

 それも只人ではなく……人間には過ぎた精霊の力を授かり、暴走しないでいられるだけの人間を。

 人間は力に弱く、すぐに溺れてしまう。

 余程、高潔な者でなければ自制など期待できたものではない。

 その点で言えば、精霊らの守人は適任と言えよう。

 より深く精霊のことを理解し、寄り添って生きてきた者達だ。

 今更精霊の力を得たからと、分を超えた振舞いに走るとは思えない。

 人選も、守人の中から吟味した。

 心身ともに強く、分を弁え、人外の理への畏怖を決して失わない者を。


 だがエルレイクの土地ではそうはいかない。

 この地にいるべき精霊の番人は、とうに血を絶やしている。

 だから他の人間で代用せねばならない。


 そして誰で代用したものか、と考えた時。

 適任として思いついたのが、ルーゼント・ベルフロウだった。


 彼の人であれば、私が側で手綱を締めることも可能。

 要は力に溺れさせず、暴走させねば良い。

 であれば、力を得た自覚もうやむやにさせてしまえば良いではないか。

 自覚がなければ、驕り高ぶることもあるまい。


 形は……そう、剣が良い。

 剣に『精霊の騎士』としての全てを委託させよう。


 彼の人に任せると決めた瞬間、直感めいて脳裏に浮かぶ。

 当人ではなく剣の力だ、と誤認させるのだ。

 彼は武器の扱いを心身に深く叩きこまれて理解している元軍人だ。

 道具(・・)としての力の在り様、使い方、それらを本能的に知り、理解している。

 決して道具の力を己の力と驕りはしない。

 強い道具を得たからと、その全てが自分のものと自惚れはしない。

 力は力、道具は道具。それを分けて考えられる。

 そして武器という道具の使い方に、彼ほど通じた者もいないのだから。

 きっと閣下であれば、正しい使い手として在れるだろう。



 この国を滅ぼす為に、どうしても必要で。

 どうしても『精霊の騎士』を揃えねばならない。

 秘することになるが……閣下には大任を担っていただこう。



 かつての国境線は、今では国境線ではなく。

 それでも人外の者が施した仕掛けは、今でも生き続けている。

 この地は要、今もなお王家の外敵を阻み続ける。

 結界をどうにかせねば、辺境から……建国時よりも広がった領土、かつての境界線の外から起こった反乱など、成功しようがない。

 何しろ一定の土地より内部には、王家に敵する『軍勢』が入れないのだから。

 侵入を阻まれる者達の中にこそ正当な王冠を冠すべき者があり、国の真ん中でふんぞり返っている者達こそが不当なのだ、と。

 それを結界の要、精霊達に認めさせねば革命は成らない。

 この事実を知っている生者は、もうほとんどいないのだが。

 無用な不安を高める必要はあるまい。

 要らぬ心配を与えて、士気を挫くのは下策だろう。

 要は、正しい手順を踏んで結界を無効化(・・・)してしまえば良いのだ。


 『精霊の騎士』は本来、正当な王の下に従う。

 各々に力を授けた精霊の、王は上位者に当たるのだから当然だ。

 彼らが揃って従わぬ王に、果たして正当性があると言えるのだろうか。







元将軍「せ、精霊を探すぅ!? なにその不思議探訪。てめぇどこのミステリーハンターだ!?」

 → 元将軍は混乱している!(※いつものこと)

 

 次回、元将軍閣下がとうとうついに本当の伝説の騎士様に!?(※強制)

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