表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

52/102

――聖受歴1,537年星耀月12日 晴れ



 

 目が覚めたら、そこは知らない場所だった。


 五十年近く生きてんだ。

 今までにこんなことがなかった――とは言わねえ。

 そこまで多くはねぇけど、そりゃ確かにあった。

 あった、けどな……


 ……俺もな? 流石に、驚くわ。

 『目が覚めたら目の前に溶岩流が』なんて経験したことねぇよ。


 いや、今までしたことなかったっつうべきか。

 今の今まで経験がなかったことを喜ぶべきか、それともこの危機感煽る初体験を嘆くべきか……二つの比重を冷静に測る時分に気付いて、思った。

 ああ、慣れって怖ぇな……。


「おや、お目覚めですか。閣下」

「黒歌鳥……てめえ、俺をどこに連れてきやがった。此処どこだよ。何日費やせば、こんな見知らぬ火山地帯にご招待なんつう目覚めに遭遇する羽目になんのか、ちょっと聞かせろや」

「どうやら状況把握は出来ているみたいですね」

「爽やかな目覚めとは死んでも言いたくねえ、この状況を前にすりゃ流石にな!?」

 俺がどんだけ長く寝てたのかは知らねえけどな。

 夏でも肌寒い北方にはこんな灼熱の活火山なんざ無かったよな!?

「ところで閣下、『精霊の騎士』ってご存知ですか?」

「あ? あ、ああ知ってる知ってる。あれだろ、お伽話に出てくる超人――はっまさか!?」

 こいつ、俺の捏造まみれな肩書きの一つにそれを加えようってんじゃ……

「御紹介します」

「は?」

「フォルンアスクのロバートは知っていますよね。彼以外にも、三名。この度『精霊の騎士』として称号と能力(ちから)を精霊より授けられた、新たな騎士たちです」

「はあ!?」


 え、いまこいつ、伝説の超人四人も集めたっつった?


 言われて、黒歌鳥の後ろを見りゃ……そこには、静かに並んで控える若い奴らが四人。

 内の一人は確かに、黒歌鳥が以前連れてきた弓兵だなっつうのはわかるんだが……それ以外は、誰だ。おい。


 小柄な弓兵ロバートの隣に並ぶ、知らない三人。

 一人目は朴訥とした顔の、農夫みてぇに見え……いや、見えねえな。畑で麦でも作ってそうな顔をしつつ、軍生活の長い俺が驚くくらいに分厚く屈強な筋肉に覆われた肉体を持つ大男だ。年の頃は三十代半ばってところか。

 二人目はなんか黒猫っぽい、ツンと澄ました優男だ。なんか頭良さそうな……俺とは相容れない気配を感じる。いけ好かねえな。年の頃は……三十はいってねえだろうなあ。

 最後の三人目、赤毛でツリ目、顔面に大きな傷なんつう人相の悪い条件を見事に備えた若い男だ。外見だけで判断するならどこのチンピラかって感じだが、ツリ目の奥に弱りきった色が見える。人相の悪さもこけおどしっぽいな。

 独断と偏見で性格の悪そうな順に並べると二人目・三人目・一人目……ってなんで性格の良し悪し基準に考えてんだ、俺。そりゃ確かに性格の悪い奴にはもう「腹いっぱいです!」って感はあるが……まず性格を気にするなんざ、どうした俺。


 俺が目の前の三人を気にして観察している間、伏せた眼の向こうから俺を観察する視線も感じた。

 初めて見る奴らは、緊張した面持ちを隠すように眼を伏せて跪いてやがる。

 その顔に若干、なんでか怯えと尊崇が見える気がすんだが……いや、怯えた目は俺にじゃねえな。俺と見比べるみてーにちらちら黒歌鳥へと向けられる目には、怯えが隠し切れてねえ。

 黒歌鳥、おい、てめぇ何しやがった。

「彼らは閣下の――『ベルフロウ』の旗下へ参じ、革命に協力するとのことです。皆さん、快く閣下への(・・・・)忠誠を誓って下さいましたよ。彼らの上に立つ者として、閣下も気を引き締めねばなりませんね」

「それお前が何か仕組んだんだろ!? 絶対何か仕込んだろ!」

「残すところあと一名を得られれば、『精霊の騎士』も全部揃いますよ。僕達の何も箔が付きます」

「そんな簡単にさらっと揃えられる存在なのかよ! コンプリートする必要どこにあるっつうんだ……っ」

 何故か『精霊の騎士』を揃えると意気込む、黒歌鳥。

 それが、『精霊の騎士』とやらが本物か名前だけの張りぼてなのか……わかんねえけど、碌な未来は待ってねえだろ。絶対。

 どんな意図があるのか知らねーが、此奴がやる気を見せると恐怖しか感じねえな。一体どんな大事が待ち構えてやがるのかと。

 もう今更、それに巻き込まれることについては諦めしか感じてねえ自分に気付いて、なんか目の奥にツンとした痛みが走った……ような気がした。


「それでは……閣下も目覚められたことですし、そろそろ最終目的地に向かうとしましょうか」

「最終目的地? っつうか、此処どこだよ」

「もう去る地のことを構う必要はないでしょう。ですが目的地については勿論お教えしますよ。


――向かうは、エルレイク。アダマンタイトの精霊が住まう地です 」


「お前、他の反乱組織との協調と会議の為の出張っつってなかったか、おい。なんか目的摩り替ってねえ!?」

「そんなことはありません。会議が行われるのはエルレイクの地です。ですから騎士の回収も、最後に回したのではないですか」

「やっぱ目的摩り替ってんだろ、おい」


 此奴といると……ホント、気が休まらねえよな。

 こっちの心臓も労わってくんねえ?

 たまにはちょっと退屈もしてみてぇんだけどよぅ……。





元将軍「っつうか、エルレイク地方って……近くにこんなど派手に活動してる火山なんざなかったよな……???」


黒歌鳥「ふふ……これからを思うと歌の作り甲斐があります。あと一人、楽しみですね」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ