黒歌鳥の暗躍――聖受歴1,537年星耀月11日 本日も晴天也
「お久しぶりですね、グランパリブル」
『ひ、ひぃ……っ黒歌鳥!?』
「時間がないので率直に頼みます。ロバートに貴方の力を授けて『精霊の騎士』にして下さい。今すぐ」
「おい馬鹿お前、いきなり何言い出しちゃってんの!?」
明快に要求を述べたというのに、何か問題があるのか。
ロバートが何やら泡を食った様子で叫んでいる。
何をそう取り乱すというのか……森番であれば、『精霊の騎士』くらい知っているだろうに。
「おい、黒歌鳥? お前は知らないかもしれないが……いや、『精霊の騎士』を知っていただけでも大したもんだがな? それになるにゃ、精霊に認められる……つまりは精霊の試練を受ける必要があんの。わかるか、おい」
「教えて下さってありがとうございます、ロバート。親切ですね? ですがご心配なく、そのことは既に知っていますから」
「じゃあいきなり言われて「はい、そうですか」ってなれるようなもんでもねーってわかるだろうがっ!」
「おかしなことを言いますね……僕の記憶では、確か精霊の試練は『仲間の力』も許容範囲。他者と協力して試練に臨むことは認められていた筈です」
「ああ、そりゃな。確かに認められてるさ。でもそれって逆に言やぁ、他人に手伝ってもらってやっとこなせる様な試練だって言ってるようなもんだろ!? 今すぐどうこう出来るか!」
「僕の協力が前提だとしても?」
「………………」
国を守る、五つの要。
五体の精霊はそれぞれに違う試練を設定している。
それぞれの精霊が持つ特色に応じた、人間には困難な試練を。
だがそもそも、事前に答えに辿り着いていれば問題はない。
「『森の試練』は、この森の中で常に一匹だけ存在する『虹星天道虫』を見つけ出すこと」
『な、なんでそれ知ってるのー!?』
広い森の中に生息する多くの昆虫類。
その中から限定された一匹だけを探すというのは、確かに骨が折れる作業だろう。
指定される昆虫が、小指の爪先程の大きさしかないとなれば尚更に。
だが。
私は右斜め前方に生えた樫、その三本目の木に足を向けた。
ふよ、と。
眼前……鼻先を風の様な何かが掠める。
ぱぁんっ
気配を逃さず、私は両の手を打ちつけるようにして合わせた。
もぞり。
手の中に、蠢く感触がある。
私は合せた手を開くことなく、精霊の眼前に差し出した。
『え゛っ』
「はぁ!?」
開いた手の、中。
そこには小指の爪先程の大きさの……虹色の星を有する、天道虫がいる。
『えぇぇええええええっ!?』
「はぁぁああああああっ!?」
精霊と森番の、ひっくり返った叫びが唱和する中。
私は『森の試練』達成の史上最短記録を樹立した。
「さあ、ロバートの仲間の僕が試練を達成しましたよ。彼を『精霊の騎士』にしてもらいましょうか、グランパリブル?」
何やら発光体の様相を成した精霊が、ぶるぶる震えているように見えるが……
必要条件は満たしたのだから、早くロバートに力を授けてもらいたいものだ。
精霊『そんな、虹星天道虫が……! 邪悪な者やその走狗には絶対に見つけられない、聖なる虹星天道虫が!』
ロバート「嘘だ、俺は信じない……っ」
虹星天道虫
見た目は小さなナナホシテントウムシ。
しかし中央の星が一つだけ虹色になっている。
それ以外に見分ける手段はない。
邪悪な者や俗物の気配に聡く、金銭の匂いを嫌う。
精霊の加護を得るに相応しくない者の目には見えないという。
一分の乱れもなく心の綺麗に澄んだ人にしか見えない類のイキモノ。
元将軍閣下、寝袋梱包の上、ジャストフィットなサイズの箱に詰められて台車で運ばれるの巻。




