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――聖受歴1,537年火耀月17日 雷雨


 やられた!

 完璧に、してやられた……!!

 てか……ふざけんなあの餓鬼!?


 昨日までの晴れ模様が嘘みてぇな大荒れの空だった。

 これで雨じゃなけりゃさっさと気付けただろうに!

 行軍(・・)の足音も気配も、全部雨音に掻き消されて気付かなかった。

 そこまで計算済みとか抜かさねぇよな、あの野郎。


 今日はあの吟遊詩人が拾って看病してやった礼にっつって俺ら一家に歌を贈ってくれる……って話だったんだが。

 その時点で、まさかブラフだったとは。

 冗談じゃねぇぞクソ餓鬼が……!


 まさかあいつの目的が、俺の注意を自分に引き付けてる間に、砦の馬鹿野郎共に領主の隠れ家へ焼き打ちかけさせっことだとか誰が思う!?

 っつうかあの餓鬼、一体どこで領主の居所なんざ掴んできやがったんだ!?

 ずっと身を隠して、所在の知れなかった領主の居所を!

 どんな情報網だっての……っ!!

 焚きつけんのも早過ぎだろ!

 あいつ、まともに動き回れるようになってから2ヶ月も経ってねぇんだぞ?

 なのになんで既に砦の野郎共が掌握されてんだよ。


 とにかく、俺は、手遅れにならないことを祈って馬を走らせた。

 前も見えねぇような悪天候、雨の中。

 道を見失わないことに一杯いっぱいで速度も満足に出やがらねぇ。

 どこまであの野郎の計画通りなんだ。

 帰ったら、絶対に殴る。

 一発といわず、病み上がりだろうがなんだろうが全力で殴る。

 そう誓った、土砂降りの雨の中。


 そりゃ俺だってずっとムカついてたし、見つけたら締め上げようとは思ってた。

 あの領主は土地を預かる者の風上にも置けねぇ。

 だから見つけたら殺したって良いって思ってたさ。

 けどな、それにしてもやり方ってもんがあるだろ。

 俺が単独でやるのと、『砦』全体の集団行動としてやらかすの。

 どっちがマズくて手遅れか、単純計算にも程があるだろう!?

 このままじゃ、やべぇことになる。

 俺1人ならまだしも、このままだったらマジで国家反逆。

 そうなっちまったら家族も蓮座で処刑されるか、徹底的に抵抗して逃げ惑うか……

 組織的な犯行なんてことになっちまったら、責任の取り方が大きく変わる。首が飛ぶのは変わらねぇにしても、蓮座しなくちゃなんねえ首の数がまず格段に増えることになる。

 下手したら土地丸ごと、粛清の対象だ。

 例え無関係な無辜の民だろうと。

 面倒だと思ったら、(やつら)はやる。

 それを平然とやらかしちまうくらい、もうこの国は駄目だ。腐っている。

 土地丸ごと炎に沈められたら、女子供や老人はどこに逃げりゃ良いんだ? うちの子供らは?

 逃げる場所なんて、ない。

 そう、どこにも。

 国に逆賊と目されては、殺されるか立ち向かうかのどちらか。

 滅ぶか滅ぼされるかの、泥沼抵抗の始まりだ。

 そして俺に、国に牙を剥くほどの気概はない。

 そんなもん、とっくに失くしちまった。

 キャサリンを失った、あの時に。

 俺にはもう、あんな思いをしてまで膝を屈せず立ち向かえるほどの信念はなかった。


 それを知っているからこそ、俺の頭は狂っちまいそうだ。

 あいつらが目をつけられたら、終わる。

 俺は焦燥感にかられ、ただただ馬を走らせた。


 まさか最終的に全部、俺の指図なんてことにゃならねーよな!?


 子供達は、キャサリンが遺してくれた大事な形見だ。

 こんなところで、俺の巻き添えにする訳にゃいかねぇ……!


 責任問題やら監督責任やら、なんやら。

 難しいことは全部抜きにして、俺の中に残ったのはソレだった。

 子供らのことしか考えられねぇ頭で、俺は先の見えない夜道を見据える。

 この果てに、何があるか。

 どうか馬鹿野郎共が思いきる前に、間に合えと。

 とっくの昔に信仰を捨てた神にも祈る気持ちだった。


 ――結局、間に合わなかったがな!!





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