――聖受歴1,534年花耀月3日 晴れ
あの日から、1ヶ月が過ぎた。
まだキャサリンが死んだなんて信じられない。
だが埋葬は確かにした。
辛くかなしい気持ちに浸るわけにもいかねぇ。
それに新天地では毎日忙しく、落ち込む余裕もねーなこりゃ。
俺たちが引っ越したのは、北方の国境近くの村。
自然も厳しけりゃ、生活も厳しい。
まずは自分達の分の畑を開墾しなきゃなんねぇからな。
毎日息子に手伝ってもらいながら、土仕事だ。
体力と体にゃ自信あるつもりだったが、今までとは使う筋肉の場所が違うらしい。
久々に体がガタピシきたわ。
全身筋肉痛……って、ああ、これこれ。
この感覚、超久しぶり。全く嬉しくねーがな!
泥だらけになって、体力絞って。
夜はそれこそ泥んみてぇになって、寝る。
健康的だし、キャサリンのことを考えねぇで済む日々は正直有難い。
幸い、今まで30年の酷使された軍人生活のお陰で蓄えはたっぷりあるしな。
畑はまだまだモノになんねぇが、親子4人で暫くはなんとかなるだろう。
やっててよかった、定期貯金。
お金は貯めるべきだと主張したキャサリンは、本当に良い女房だった。
……って、湿っぽくなる暇も本気でねぇ。
ありゃなんだ、おいおい?
見慣れねぇ風貌の、いやに屈強でおそろしく言葉の通じねぇ奴等がいんだけど。
もっというと、暴れ馬みてぇな化け物馬に乗って襲撃してきたんだけど。
おいこら。
人の新天地に何しやがる!?
あ、おい、そこは村長さんの畑じゃねーか!!
あとそっち、そこ俺が昨日全力で耕した畑(予定)な!
っておい。
人の娘に何しようとしてやがる……!!
長女に汚い手ぇ伸ばされて、ついうっかり軍人時代の経験全開で鬼と化して無双した。
悪鬼と呼ばれた前線時代が思い出される、返り血シャワー。
すっかり隠居したつもりで剣なんざ手元にゃねーし。
とにかく目に付いた手近なブツ……鍬を片手に血祭りだ。
とりあえず娘に怪我がないんで、それでよし。
安全なところで育ててきた娘がうっかり俺を見て気絶したが、気にしない。
気にしない、気になんてしないぞ俺は。
……お父さん、ショックなんて受けてねぇからな?
だからそんな全力で謝んなくっても良いんだからな?
村長さんに聞いたところ、この辺には国境を越えて北方の蛮族が来るらしい。
おいおい初耳だぞ。
っつーか、軍人時代もそんな報告上がってきてねぇんだけど?
……あ? 領主と裏で癒着してる?
そのせいで直訴しても報告が中央までいかない?
領主殺すか。
あー……? 用心深いから、どこにいるのか誰も所在知らねぇって?
碌でもないな、領主。
しかし見つからないもんは仕方ねぇ。
これ見つける片っ端から、襲撃してきた蛮族を返り討ちにするっきゃないか。
蛮族、あいつら最悪な?
なんか子供をさらい、女をさらい、老人を殺して火をつけるらしい。
家畜も盗むし村に火もつけるしー……って、こりゃ当分退屈はできねぇな。
もう使うつもりも無くって仕舞いこんでたけどよ……
まだまだ、ああまだまだ使う機会はなくなりそうにねぇな。
倉庫に仕舞い込んでいた剣と槍を引っ張り出して、精々丹念に磨くとするか。
ちなみにキャサリン(嫁)は絵に描いたような金髪巨乳美女。