――聖受歴1,537年月耀月4日 暴風雪
昨日は結局、衰弱が激しいってことであんま情報を聞き出せなかったからな。
1日経ったら容体も落ち着いただろ……ってことで改めて身元やら事情やらを聞きに行ったんだが。
何故か気がついたら、嫁との馴れ初めを語る羽目になっていた。
それも、子供らが同席してる場で。
……なんでこうなった。
おい、ガキども。
そのニヤニヤした目は止めろ。
そう思いつつも、逃げようとする度になんでか気付いたらあの男……黒歌鳥にやんわりと逃げ道を塞がれてたのはなんでだ。
あれか? 何か俺、気に障ることでもしたのか?
決して強引には感じられない言い回しと口調なんだが、何やら執拗な追及を受けたかのように冷汗がだらだら流れてたのは……本当、なんでだろうな?
良い様に言い包められた気がする。
なんだ、あの話術。どうなってんだ。
全然予期した方向とは違う角度から、気付いたら逃げ道を塞がれて追い詰められて……現役時代に見た、重度の政治犯に対する尋問取調室の専任尋問官よりよっぽど腕が良いんじゃないか?
っつか、尋問をされた感じがしねぇのも恐ろしい。
無理に聞き出されたって印象がねぇのに、結果だけを見りゃずっと誰にも語っていなかった女房との馴れ初めを語る羽目に……ってどんな手腕だよ!
末恐ろしいな、あの餓鬼……。
聞き出されたって印象もねぇ、かといって自分から進んで語ったって感じもしねぇ。
あ゛ぁ~……すっきりしねぇ!
しかも酸欠になりながらようやっと語り終えた後、「さあ俺は全部語ったぞ! 次はお前が語る番だ」って俺は当然の要求をしたはずだ。
だが、結局あの野郎、自分の名前以外なんにも語りやがらなかった……!
何が「済みません、たくさん楽しいお話を聞かせていただいたのに……どうやらお話を聞いていて疲れてしまったようです」だよ。
今の今まで平然と会話してた・だ・ろ・う・が……!!
そりゃ確かにまだ衰弱してるってのは本当かもしれねぇ。
それを思えば、無理させるのも悪ぃとは思う。
こっちが何か言う前にのそのそと寝に入った、あの野郎。
めちゃくちゃ申し訳なさそうな面と声だったが、態度は太々しいとしか言いようがねぇ。
なのに、俺の子供らはそうは思わなかったらしい。
俺が感じたような、あの野郎への胡散臭さが全く通じてねぇ。
なんで気付かねぇかな、お前ら。
挙句、まだ本調子じゃない病人を詰問に来たってことで非難されて、俺はすごすごと退散する羽目になった。
お前らさ、あの野郎の何がそんなに気に入ったん……?
その胡散臭さは、洞察力と人を見る目に長けた元将軍だからこそ気付けたものと思われます。




