――聖受暦1,536年霜耀月23日 曇り
秋の実りって美味いよな。
今日は家族全員で秋の収穫。
近場の森まで木の実やらキノコやらの採取に出かけた。
俺としちゃ、3人の子供達と家族水入らず4人で……ってつもりだったんだけどな?
なんでか、家の居候共までついてきた。
お前らはいつから俺の『家族』になったんだ……?
今更言うだけ無駄のような気もするが、思わずにゃいられない。
……が、俺が言う前に既に受け入れている子供達。
いやさ、何故当然のように奴らを誘った、息子よ。
家族水入らずって言っただろーが。
そんでもってなんで大人数分の弁当を用意してんだ娘達。
仕事と当番と分担の都合上、全員で来れなくって残念ねー……って、止めろ。あいつ等何人いると思ってんだ、止めろ。
あまりにも大所帯過ぎて、何回かに分ける……って、いつの間にそんな予定が組まれてんの?
え、俺、明日も明後日も明々後日も来なきゃなんねぇの?
あいつ等全員に順番が回るまで?
それって何日かかるんだよ……!
毎日のように俺を頼ってくる見知らぬ奴らは、何故か今でも途切れることなく。
本当に今でも、連日のように人間が増えて行く。
ホントにどうなってんの?
俺って世間でどう評判に上ってるってんだよ。
軍人時代に関わりのあった奴らはほぼ全て集結し、今ではマジで縁もゆかりも無い奴らが着々と増えてやがる。
昨日は南東地方の闘技場上がりだという元拳闘奴隷が何故か俺を頼ってきた。
だからなんで俺を頼る。
一昨日は義憤に燃える元貴族の庶子がやって来た。
いや、だからさ、なんで俺を頼るんだよ?
そんで今日は……
今日はなんだろうな?
……王の身辺警護を旨とする、近衛騎士団長が息子連れで来たんだけど。
これ一体どうなってんの?
物凄く悲壮な顔をした、親子。
ここに来たのは相談の末……って親子で一体どんな相談したら俺ん家に居候なんて選択になんの?
なんでも騎士団長は長年の無理がたたって死病に侵されて……って、止めろ! そんな思わず同情しちゃいそうな身の上話をするとか、俺を泣かせる気だな!? っつうか、断れ難い空気作んな!
お前ら……さては俺がお人よしだと思ってんだろう!
こういう話に弱いんだよ悪いか!?
っつうか死病に侵されてんなら、無理を押してこんな北の方まで来んなよ!?
なに無理しちゃってんの、アンタ等!
存外元気そうな不治の病人(自称)。
先が無くなって、深く考えたんだそうだ。
深く考えた結果、なんで北の果てまで来ることにしたんだよ。
なんで俺ん家に来るなんて選択になったのか謎だ。謎過ぎる。
近衛騎士団長は死を前にして息子達のことが心配になったらしい。
今のままだったら、家の義務として息子共は騎士団行き。
年齢と身分を考慮して、精々王子付きの騎士ってとこか。
そらまたなんつうか……
今の王国は、王家は…………腐ってやがるからな。
近衛騎士団長は息子にそんな道は歩ませたくなかったそうだ。
父親の薫陶が行き渡ってんのか、教育が良かったんだろうな。
2人いる息子さんは、どちらも俺から見たって気持ちの良い、良い若者だ。
確かにこんなに良い息子さんを、あんな腐った馬鹿野郎共に使い潰されたくはないだろうよ。
これで腐った部分が移って息子さんまで腐敗したら親父としちゃ死んでも死にきれねぇよな……同じ父親として、気持ちはわかるぜ。
わかるけどよ?
なんでそこで、俺?
俺の両手をぐっと握って「息子達を頼む……!」なんて涙ながらに訴えられた。
い、居た堪れねぇ……!!
どうしてこんな展開になるんだろうな……?
なんだか物凄く断りにくかった。
結果、また我が家の住人が増えたぜ……。
前途有望な若騎士(事情通)、加入。
 




