――聖受暦1,536年星耀月2日 晴れ
今日も暑い!
ああ、もう、なんで夏ってのはこう暑いんだ。
それに加えて暑苦しい野郎どもは増えるばっかりだ。
余計に暑苦しい……!
あまりの暑さにぐってりした奴らが、庭で水浴びしていやがる。
更に暑苦しさが倍加した気分だ。
ここは北方、王都にいた頃に比べたら遥かに夏の暑さは緩和されてるはず……だけどな、こっちの気候に慣れちまったせいか、寒さに強くなった代わりに暑さに弱くなったような気がしなくも無い。
いや、耐えられねぇことはないんだがな?
……アレだ、むさい野郎どもに囲まれてるせいで、気分的に暑い気がする。熱気は確実に増量している……!!
冷静になってみりゃ、確かにこっちの夏は過ごしやすい。
現に家(砦)を離れて単独行動してる時なんかに「暑い」と思ったことはねぇしな。
ああ、鬱陶しい。
気分的なもんだってことはわかってんだよ。
わかってんだが……ホント、どうにかなんねぇか?
そうは思うんだが、暑苦しくってむさい野郎は増えるばっかりだ。
若いので十代前半、老いてんので喜寿近いジジイと一緒に住んでんだけど、この状況が未だに謎過ぎて理解できねぇ。
……あれ、なんで俺、親戚でもねぇ赤の他人のジジイと一緒に住んでんの?
いや、ジジイつっても筋骨隆々、矍鑠とした老兵様なんだが……
ついでに言うと、俺が新兵だった頃の戦争で戦線の維持を一部隊でこなして八面六臂の大活躍をしたっつう伝説の武将様なんだが。
未だに熊か巌かの如き威圧感と屈強な体躯を誇る老いとは縁遠い熱く逞しいボディ……いや筋肉っつうか全身凶器の老武将様なんだが。
なんで、ホントに我が家にいらっしゃるんスか老兵様。
あまりに頼りがいの有り過ぎる経歴と肉体を前に、圧倒される俺がいる。
いや、面には出さねぇけどな?
気押されてるなんぞ、40代成人男性の維持にかけても面にゃ出さねぇけどな?
顔色には出さねぇが、老兵様を前に困惑せずにゃいられない。
アンタさ、もう国に嫌気が差したっつって20年位前に隠居して田舎に引っ込んでなかったっけ。
それも、国の南の端っこの方に。
あの、なんで国を縦断して我が家にわざわざ居座ってんスか。
あと俺のことを『閣下』って呼ぶの止めてくんねっスか……?
あんたにそう呼ばれると、居た堪れねぇんだけど。真剣に。
家主だからって気ぃ使ってもらえなくっても構わないっスから、いやホントに。
あの老兵様が何をお考えかはさっぱりだ。
さっぱりなんだが……何故か俺の下手に出て、持ち上げてくんだけど。
さも俺の部下であるかのように、こっちに指示を仰ごうとしてくんだけど……!
ねえ、何が起きてるの!?
ねえ、ホントに何が起きてんの!?
俺の混乱は日々増してくばかりだよ、こん畜生……!!
なんで俺、伝説の凄腕老兵様に『我が主』だの『閣下』だのって呼ばれてんだ、おいぃぃぃっ!!
若い頃に憧れた、伝説との同居。
ついでに言うと、間接的にお世話になった恩人。
だが、全く嬉しくない。
むしろ目の前にいると気を張っちまって、ちっとも気が休まらねぇ。
あの老兵様を前にすっと、しゃんとしなきゃなんねぇ気がすんだよ。
だって俺が初陣の戦で生きて帰ってこれたの、あの老兵様が戦線を維持してくれたお陰だもんよ。
そんな老兵様に、温かくも敬意の篭った眼差しで見られる毎日。
…………。
………………。
なんか腹部に引き攣れるような痛みをうっすら感じた気がした。
世紀末も単身生き抜けそうな歴戦の老将(さも当然のようにマッチョ)加入。




