表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

16/102

ウィルギリスク――聖受暦1,536年水耀月24日 雨

将軍(元)に軍人時代から付き従うウィルギリスク・フリス。

知将と呼ばれた青年。


「貴方が彼のご高名な『知将』ウィルギリスク・フリス殿とは!」

「……え?」

 新しく砦にやって来た、厄介な来歴持ちの青年達。

 ヴィンス君が僕らに引き合わせてくれたのは朝食の席でのこと。

 軽く自己紹介をと名前を告げた途端、何故かキラキラした目で見上げられた。

 え、知将ってなに? どういうこと?

 心当たりの無い単語に、心が薄っすら冷や汗をかいた。


 そもそも僕は、文官の家の出で。

 だけど尊敬するあの方……漢気溢れるルーゼント・ベルフロウ閣下の後に従いたいという気持ちを抑えきれず、僕は軍に飛び込んだんだ。

 そもそも文官畑の出なので、何の伝手もコネもないスタート。

 でもそれこそが軍人として正しいありようなのだと、僕は閣下の背中に学んだ。

 閣下の後を追いかけるべく、僕はそれこそ手や唇から血の滲む努力を重ね、実力をつけ、実績を積んで階級の階段を一歩ずつ登っていった。

 それこそ、閣下がそうあったように。

 平民出身でありながら異例の出世を遂げ、名誉の証として姓を賜った方。

 他の将軍達とは違って将軍位に相応しい実績と実力を持ち、カリスマを兼ね備えた閣下。

 実を伴わない阿呆な他の軍人達とは違う。

 それでいて驕る事も無く、部下に生き抜く術を始動する姿は熱心そのもの。

 僕は間近で見るごとに、閣下への尊敬を重ねていた。

 だからこそ、閣下の腹心に取り立てていただいた時には光栄に思うあまり張り切って、図に乗って、有頂天で。

 最終的に閣下に「はしゃぐな」と脳天へ一発頂いてしまった。

 あの過去も、今となっては良い思い出だけれど。

 そんな僕が、『知将』?

 一体何の冗談だろうか。

 確かに僕はどちらかといえば慎重派で、戦場でも率先して前に出るようなタイプではない。

 どちらかといえば必死に知恵を絞って作戦面で生き残ろうとする。

 間違っても猛将とはいえないけれど。

 知将と呼ぶほどではないだろう、うん。

 大体、僕の主に支えている面は机仕事(デスクワーク)が苦手な閣下の書類仕事を補佐することだと思うし。

 実家は文官家系なので、知識量だけは結構あるけれど。

 だけどそれも、一般的な軍人を相手に比較した場合。

 目の前の青年達は、学問で名を馳せた一門に属していたはずだ。

 …………彼らに比べたら、『知将』なんて恥ずかしすぎる。

 それなのになんで、そんな僕が。


 真剣に不思議がる僕に彼らが語ってくれたのは、なんというか……えっと、どこの偶像ですかソレ。

 ソレ絶対に僕じゃない。

 

 誰のことだといわんばかりの、顔が引き攣る事実と異なる武勇伝。

 それは閣下と、閣下に忠実に従う6人の将を歌った……って事実と異なってる! 事実と異なってるから、ソレ!!

 確かに軍人時代から閣下に従う腹心は僕を含めて6人。

 同僚として時に助け合いながら、閣下を立ててきたよ。

 でもそんな武勇伝を単体で残せるような化け物じゃないよ?

 聞いてみれば僕だけでなく、6人全員に何やら身に覚えのない武勇伝というか、逸話というか……脚色の激しい誤情報が飛び回っているらしい。

 えっと、武勇の夢幻六将ってなに?

 いつの間にそんな呼び名ついたの?

 僕ら、確かに軍人時代から閣下に忠誠を誓って従ってはいるけど……別に語られるほど忠実ではないよ? 時々閣下の意見も無視して我も通すし。砦の増改築計画とか。


 青年達はなんでも吟遊詩人から最新の流行歌を聞いてきたらしい。

 その捏造ぶりが凄まじい歌の概要を説明されて、僕ら6人は朝食のテーブルに撃沈した。

 というか身悶えた。

 やめて! 僕らのメンタル死んじゃう!

 

 なんでも歌の中では、僕らは北方から押し寄せる蛮族の千を超える大群を6人だけで食い止め、邪神の復活を目論む怪しい部族のシャーマンを倒した勇猛果敢にして一騎当千の猛者らしい。

 あ、あはは? ……え、と、なにそれ?

 そんな恐ろしいこと、一切身に覚えがないよ?

 おまけに歌の中に出てくるシャーマンの風貌が……胸から4本の手を生やし、3つの首を持ち、背中にはトカゲの尻尾…………ってそれもう人間じゃないから! 立派なモンスターだから!

 いくら北方の蛮族だとはいっても、彼らも普通に人間だからね?

 そんな化け物じゃないし、人間やめてないよ?


 流言飛語とは恐ろしい。

 噂に生えた余計な尾鰭の威力が僕らの心臓をノックアウト!

 更に歌の中では閣下は素手でヒュドラの7つの首を、豪腕で1度に絞め落としたらしい。

 わあ、閣下も立派に化け物だー……


 ……実際の将軍は、最近畑仕事の後に腰が痛いってよく言うんだけど。

 実際に実物を目の前にして、なんでその歌の武勇伝を信じられるんでしょうか。

 事実と異なる武勇伝の内容に、僕は顔が引き攣るのを止めることが出来なかった。





知将(笑)

とうとう将軍(元)だけではなく、その配下までも餌食に……

犯人は某吟遊詩人 ←


実際は元軍人にしては珍しく書類仕事に強いだけ。

能力面は慎重派だけど普通に軍人さん。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ