黒歌鳥の暗躍――聖受歴1,536年水耀月15日 本日も晴天也
野放しにされた厄災は、あれこれと暗躍している模様。
私が師の元を巣立ってより、半年が経とうとしている。
その間、私は楽器片手に単独で様々な地を巡って来た。
方々の現実を我が目に叩きこみ、各地の人と交流を結んだ。
得られるはずの救いに手の届かぬ歯痒い現状にやりきれなさを蓄え、何とか打破できぬものかと不遇な人々と共に歯を食い縛る憂国の士。
心あるばかりに血を流さんと決意を固めながらも、周囲の無理解に回り道を強いられる革命家。
知恵も力も持ちながら、ほんの少しの勇気を食い潰されて押し潰されそうになりながら、最後の自衛本能から人を遠ざけて辺境に引きこもる才覚ある若き隠者。
国を憂いながらも燻っている様々な人々に一人ひとり接触していった。
根回しをしっかりしておくことは、下準備で何よりも大事なことのひとつ。
私は歌うことしか出来ない吟遊詩人。
しかし歌うだけでも様々な効果を及ぼすことが出来る。
それが出来てこその吟遊詩人ともいえる。
そう、情報に関して何より強い影響力を持つのはこの時代、情報の波及を担う吟遊詩人なのだから。
私は師の元で学んだ笑みに歌を携え、方々で歌をうたう。
様々な人に接触してはさり気無く、私の望み通りにことを運べるよう、人に応じて重要な、もしくは必要な情報を歌に交えて示唆しながら。
人によっては元将軍の下へ集うように意識的に働きかけ、また人によってはその方が独自に動くように働きかけて。
私は計画の始動する機に全てが動き出すよう、慎重に確実に予定を組んでいった。
私だけではなく、他人の予定も。
――ああ、それから忘れてはいけません。
計画実行中、無防備になってしまうこの国に余計な横槍が入らぬよう……我が国と領地を接する国々に、根回しもしておかなくてはいけませんね。
他所に無用な手出しをしている余裕など、欠片も消え失せるように。
少なくとも10年単位で。
他国にかまける暇など根こそぎ削っておきましょう。
まだまだやることは沢山あった。
多すぎて、一つひとつこなしていくのも大変だが。
ああ、だがこれを遣り甲斐と言うのだろうか?
こうやって一つずつ歯車を組んでいくような全てが王国の……腐れ愚者共の滅亡に繋がるのかと思うと…………
かつて無い充足感に、私は少し『幸せな気分』というものを理解したような気になる。
これが本当に『幸せ』と世に言われる感情と同一のものかは不明なのだが。
わからないのであればわからないなりに、独自に理解する他ない。
私独自の解釈で理解しても問題はないだろう。
恐らく大きな差異はないはずだ。
しかし本当にやることが多すぎて困る。
私一人で全ての下準備を、無事に終わらせられるだろうか?
元将軍の年齢的な不安もある。
彼の年齢を考慮すると、可能であれば10年以内にことを運びたいところなのだが……
それも全て、私の下準備次第。
何とか数年で用意を整えてみせよう。
さり気無く伸びる、他国への働きかけ(黒歌鳥)




