表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

1/102

――聖受歴1,534年火耀月3日 晴れ

こちら『没落メルトダウン』の外伝となります。

そっちの主人公たちの御先祖様たちのあれやこれや。

不定期更新の予定ですので、気長にお付き合い下さい。

 この腐った国にはもう、うんざりだ。

 上層部の淀み具合は掃除を放置して5年が過ぎた亀の水槽を超える。

 15で軍に入り、以来30年を国の為に捧げてきた。

 俺は俺なりに、自分の限界に目を瞑ってやってきたつもりだ。

 いつか軍で出世して、そこから国を良くしてやろうなんて夢は既に潰えた。

 それでも尚、踏み止まって。

 腐敗した政治の中枢にいる馬鹿野郎共に小間使い以下の扱いを受けながらも、歯を食い縛って耐えてきた。

 それも全ては救いを求め、助けを要する善良な人々の英雄になりたいと願ってきたからだ。願いを実現する為に、必死になっていたからだ。

 だってのによ。

 この世に、救いはねぇのか?

 自分を殺して気力を振り絞ってきた報いが、これなのか?

 こんなのってねぇ。


 今日、妻が死んだ。


 この世の善き光を集めたような女、キャサリン。

 無償で人を愛するってことを体現したような女だったのに。

 せいぜい猫が引っ掻くような力しか持たねえ女が、何したってんだ。

 町角で見初めた何ぞぬかして娘を攫おうとする貴族から、我が子を守ろうとしたってだけで。

 なんで、なんでキャサリンが殺される。

 なんで死ぬんだ、キャサリン。

 なんで死に目にすら会えねぇんだ。

 娘も息子も、まだまだ母親が必要なんだぞ。

 俺が駆け付けた時には、もうキャサリンは冷たくなっていた。

 側に縋りついて泣き叫ぶ娘が、どれだけ哀れか。

 娘を強引に連れて行こうとした貴族を殴り倒したって、気が晴れる訳がねぇ。

 けど、な。

 ……妻が死んだと思うと、何もかもがどうでもよくなった。

 自分を殺して、軍で踏ん張ることも。

 貴族やら王族やらのご機嫌を取ってまで、身を粉にすることも。

 もうどうでも良い。

 どうなったって良い、こんな国なんざ。

 俺はもう、こんな国滅んじまっても構いやしねぇ。

 こんな腐りきった国に、未練は欠片もない。

 妻が死んだ今、気力を張ってまで軍にいる甲斐もない。

 引き留める声が聞こえたが、もう気にも留まらなかった。

 俺は死んだ妻を抱いたまま、その足で軍を辞めてやった。

 止める奴がいるんなら、止めてみるが良いや。

 俺を止められるものならな。


 そうだ、北へ行こう。

 いつまでも悲しんでばっかりじゃ、キャサリンにも申し訳ねぇ。

 子供達にだって、思い切るためにゃ環境を変えるのが良いかもしれない。

 

 思い立ったら即だ。

 明日、急いで子供達に準備をさせて、明後日には出発してぇな。

 もう帰れないって、キャサリンが惜しんでいた故郷だ。

 キャサリンの故郷だ。

 連れ帰ってやらなきゃな。

 そんで俺も北に骨を埋められたら……





そうは問屋が卸さない。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ