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ショート・ショート(1〜10)

SS05 「名探偵・華麗に登場」

 それは暗い嵐の夜だった。 

 山中の古い洋館で事件が起きた。

 古い洋館には事件が付き物である。

 それも猟奇的な事件が。この夜に起きたのは密室殺人であった。

 ただし、殺害現場は造られたばかりのカラオケルームであったが。


 現場となったカラオケルームには館の主人が死体となって倒れていた。

 天井からぶら下がる巨大なミラーボールや、家紋が床に描かれたステージまである派手な内装に痩せた白髪の老人の死体は不釣合いだ。被害者の額に銃弾の跡。その死体を囲んで二人の男が立っていた。ただし、二人の年齢は親子ほども異なる。

 一人は名探偵の助手、樹里・じゅり・あんず少年。大抵の探偵小説に出てくる少年助手がそうであるように、少女と見間違うような美少年である。

 もう一人は埼玉県警の金田・かねだ・みつる警部。大抵の探偵小説に出てくる刑事がそうであるように、事件の謎にまったくのお手上げであった。

「この死体が他殺であることは明白です」

 よく通る高い声で樹里少年は言った。

「普通、自殺する人間は自分の額の真ん中を撃ちはしません。第一、この被害者は左利きですが、拳銃を右手に持っています」

「そ、そのとおりだな。樹里君」

 実はさっぱりわかっていなかったが、金田警部は答えた。

「血の量から見ても殺害がここで行われたことも明白です。ですが、犯人は何処に消えたのでしょうか?」

「事件が起きたとき、我々を含めたパーティの出席者は隣の広間にいた。そしてこの部屋の出口は広間にしかつながっていない」

 カラオケルームは高い音響効果と頑丈さを併せ持つ壁が全面を覆い、窓は存在しない。つまりは密室だ、と金田警部。

警部は広間に待機させているカラオケパーティの参加者……被害者の知人や親戚のことを考えた。皆、被害者の莫大な資産を狙っている連中だ。

 この日、少年と警部は警部の知人でもある被害者の開いたカラオケパーティに招かれていた。館の主人である老人は富豪であり、カラオケ好きとしても知られている。屋敷のカラオケルームを最新設備のものに改装したほどだ。そして、そのカラオケルームで事件は起こった。少年と共に招かれた日本一の探偵と自称する青年探偵、山堂・螺紋さんどう・らもんはパーティに乗り気であったのだが、なぜかまだ姿を現していない。

「見たところ犯行はずさんで、頭の切れるタイプが行ったようには見えません。……きっと、僕たちの気付いていない何かがあるんですよ。たとえば、秘密の通路とか」

「だが、そんなものは何処にもなかったぞ? 鑑識を呼ぼうにも、この嵐では」

「そうなんですよね。ああ、こんな時に先生がいてくれたら……」

「山堂君はどうしたのかね?」

「遅れるが必ず行くと言っていたのですが」


 その時、カラオケルームのステージから白い煙がもうもうと立ち昇った。

「な、何事?」

 金田警部が叫んだその時、調子はずれの歌声が鳴り響いた。

「ズバット参上~~~。ズバット解決~~~」

 そして高らかな笑い声とともにステージに現れたのは細身の白いスーツに身を包んだ長身の青年・・・・・・他ならぬ名探偵、山堂・螺紋、その人であった。

「ハハハハハ、待たせたね。警部、樹里君」

「せ、先生。何処から現れたんですか?」

「ここの主人は相当な暇人だな。舞台に迫り出し(ステージの下から歌手などが出てくるアレ)まで作っているんだから」

「ほ、本当だ。床の家紋が開くようになっているんですね」

「うまく造ってあるな。わからなかったよ」

 床の家紋に触れながら警部は言った。ここだけ別の材質でできているのを不自然だと思わなかったのが悔やまれる。

 主人の部屋に入り口があるんだ、と探偵。

「よくわかりましたね」

 樹里少年の問いに探偵はチッチッチッと指を振った。

「何を隠そう、私は日本で最も抜け道を見つけるのが上手い男なのだよ!!」

「何ですか、それは!」

「別名、税務署泣かせ」

「そっちの抜け道ですか!?」

「この演出で皆を驚かせようとしたのだろうが、私にはお見通しだ。何かを用意していると思って探していたのだよ。今夜は主人より先にこれを使ってやる。樹里君、手伝えよ」

「そ、それは酷すぎます」

 泣きそうな声で叫んだ樹里少年に警部が慌てて言った。

「それよりも樹里君。犯人はこれを使って部屋から出たんじゃないか?」

「そうか。その可能性が高いですよ。警部!」

「さすがだ、山堂君。君のおかげで事件は解決だよ!」

「……ハハハハハ、礼を言われるほどのことはしていないよ」

 一瞬、不思議そうな表情を浮かべたが、探偵はすぐに偉そうに言った。


 結局、迫り出し内に残っていた凶器から被害者の甥が犯人だとわかった。

 迫り出しは被害者が作ったもので、パーティの出席者を驚かせるために造ったもので、誰もその存在を知らなかった。わざわざ裏口から入ってきた探偵以外は。 

 それを除けば事件は単純な遺産争いであった。


? ? ? ? ? ? ? ? ? ? ? ? ? ? ? ? ? ? ? ? ? ? ? 


 嵐が過ぎた後、犯人が連行されるのを見送りながら、探偵は少年にこっそりと尋ねた。

「なあ、樹里君」

「なんですか? 先生」

「ところで、ここで何か起こったのか?」


 かくして事件は終わった。名探偵がいまいち理解していないうちに。


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