魔界少将な俺と天才軍師なあの娘
前作「へタレ魔族な私と魔界少将なあの人」
を先に読んでいただけると良く分かります。
こちらは短編連作魔界な人々シリーズとなっております。
あの女! 男は飯で恋愛はぽっちゃり女よといいくさりやがった。
今日もしつこいあの女が魔界軍本部に押しかけてきた。
いつも通り廊下で遭遇した。
おい、仕事はどうした……暇なんかよ。
「そんな無骨な男なんてあなたに合いませんわ、私といいこといたしましょう? 」
ペルシャ・幻・オルフィ……あの女がえろっぽく笑った。
「あ、あの、私……武官なので魔界議会なんて無理です」
丸ちゃんが怯えて俺の後ろに隠れ……切れてないな。
俺は魔界軍少将、グリシス・海・ヨルムというヨルムンガンド族の男だ。
そして隠れきれてないエリカスーシャ・白・イル上級士官……丸ちゃんは武術が全くダメな太めの龍だ。
今は龍人型とってて短い黒髪と銀の瞳の丸い女だけどな。
今、議会に狙われてる武官の癖にへっぽこの丸ちゃんの護衛をしている。
対するペルシャはピンクの長い豪奢な巻毛とピンクの瞳の胸の大きいナイスバディの夢魔の肉食女子だ。
魔界議会の議員をしている。
そして……俺の元彼女だ……あいつにとっては餌だったらしいな。
「魔界議会なんていいのよ……私の住処で甘い生活を送りましょう」
妖しく笑ってペルシャが手招いた。
後ろで丸ちゃんがふるえてるのを感じた。
「断る」
俺は武器のトライデントを構えた。
戦いの高揚感がこんなときでもある。
きゃって言いながらキラキラしいバトン構えるな。
魔法少女アリリンがお前は。
姪っ子がはまってる人界のアニメを思わず思い浮かべる。
確か悪の魔神を魔法で変身してやっつけるんだったか?
って俺は魔族で悪の魔神じゃね~よ。
「男なんて美味しい精さえ作ってればいいのよ、この世のふくふく女子は私のよ」
杖からピンクの派手な魔力が放たれた。
「うるさい、黙れ」
俺はトライデントと一閃した。
まるで羽でも生えてるようにスルリと避けやがった。
そのまま視界から消えた。
「どこに行った」
俺は気配を探った。
「嫌、やめて下さい」
後ろで丸ちゃんの妙に可愛い声がしてハアハアという荒い息遣いが聞こえた。
振り向くと丸ちゃんが……横からペルシャに絡み付かれていた。
「ああーんいいわ、このお腹」
ペルシャがハアハア言いながら丸ちゃんに抱きついて血赤の軍服に包まれた丸ちゃんの脇腹をもんでいる。
「嫌です〜くすぐったい、やめて〜」
丸ちゃんは動けず涙目だ。
たとえダメ武官といっても戦闘能力は非戦闘員のペルシャよりある。
かたまってるだけかも知れないが……
変態だ……まごうことなき変態がここにいる。
「ああーん、こんな理想的な娘逃せないわ」
荒い息遣いのままペルシャは丸ちゃんのほっぺにくちづけた。
「やめてください」
丸ちゃんがみをよじった。
ペルシャがポヨンと弾き飛ばされた。
「ああーんこの弾力」
弾き飛ばされてうっとりしやがった。
変態には付き合いきれん。
「グリシス少将」
ウルウルしながらも丸ちゃんがまた俺の後ろに回って軍服のはしをつかんだ。
ダメダメヘタレ軍人にふさわしい行動といえよう。
いや……可愛いけど……丸ちゃんだしな。
「魔界軍の答えは変わらないイル武官は所属を変えない」
俺ははっきり宣言して丸ちゃんの手を握った。
戦略的撤退しよう。
へたにペルシャを傷つけて議会に言いがかりはつけられたくないからな。
俺は丸ちゃんを引きずり気味に引っ張りながら走った。
途中で丸ちゃんが死にかけてたけど……
まあ、仕方ない……
なんとか魔界軍の本部に二人で倒れ込んだ。
う、動けない……丸ちゃん重すぎ、抱えりゃよかった。
粗い息でなんとか上を向く隣では丸ちゃんがうつ伏せに床に倒れてむせこんでいた。
「あ、あの……大丈夫ですが? 」
優しいこえがして見上げると真紅の魔王護衛官の制服をまとった薄紫色の竜人がのぞきこんでいた。
「ジー、グリシスはいいから、イルを介抱してやってくれ使い物にならない」
アウスレーゼがどこか甘い雰囲気で竜人に頼んだ。
そうかこの人はアウスレーゼの婚約者のジーさんだ。
散々恥ずかしがりやで奥手で可憐、その他諸々自慢されまくった……なんでこんなところに?
「グリシス少将、お話を聞かせていただけますか? 」
俺に手を差し出したのは魔王護衛官の真紅の軍服の緑のがっしりした竜人……ティインシス・鱗・オルス護衛官が聞いた。
有能なエリート護衛官という感じだ。
「魔王陛下は今回の騒動を面白がられているらしい」
アウスレーゼがため息をついた。
まあ、魔王陛下だしなぁ。
「まあ、そういいながらも我々を派遣したんだ、なんとか議会を抑えようとしてるんだろう、魔王妃様暗殺計画とかたててる連中がいるのですよ」
ティイン護衛官が色々他にもあるんだ、橙家のおとぼけ当主はともかくとしてなとため息をついた。
橙家の当主は魔王妃様を排斥しようと令嬢にあわせたら令嬢がミゼル様を気に入ってしまって魔王様とミゼルを取り合ってるんだったな……色っぽくない方向で……間抜けすぎる。
「これをチャンスに反逆意識のあるものの排斥をお考えのようだ……白家は魔王陛下の懐刀ですしね」
まだハアハア言ってる丸ちゃんを横目にティイン護衛官が苦笑した。
「ティインお兄ちゃん役立たずでごめんなさい」
ハアハア言いながら丸ちゃんが頭を下げた。
「エリカが無理せず家に引きこもっててくれたほうが俺の心は平安だけどな」
ティイン護衛官が丸ちゃんの頭を親しそうに撫でながらため息をついた。
なんだ……なんかもやっとしたぞ。
「お兄ちゃんなのか? 」
俺は知らずにつぶやいた。
「幼馴染だ、ちなみにイルは昔からティンイか白本家のぼんの後に隠れて出てこなかったので俺はあんまり遊んだことはないぞ」
なぜかアウスレーゼが答えて腕組みした。
お前は乱暴もんだから若にエリカの相手として選ばれなかったんだよとティイン護衛官が言った。
「それ以前にほとんど家から出てこなかったよな……だから安心していたんだがな、魔王都なんぞに出てこないと」
ティイン護衛官がため息をついた。
「イルの正妻の娘は私だけだから」
丸ちゃんが寂しそうに微笑んだ。
「奥様は白本家の令嬢だからエーちゃんが武術鍛錬でことごとく師匠たちから落ちこぼれ宣言されても余裕だったよな……知恵の白だしな」
ティイン護衛官はむしろ奥様はエリカに文官のほうが良いと言ってたなと懐かしそうに目を細めた。
なんかもやもやする。
「身体が動かないから戦術を覚えただけだよ、全然ダメだけど」
丸ちゃんが謙遜した。
下級人型魔族が母親の妹のほうが優秀なんだよね……とつぶやいた。
あれでダメなら普通の軍師は全くダメだろう。
自分が天才軍師だと知らないとある意味痛いな。
「ともかく、議会をなんとかしないとですね」
アウスレーゼの天然系婚約者が口をはさんだ。
「いっそ殺るか……」
アウスレーゼが獲物をねらうような目をした。
そうだなとティイン護衛官も目を光らせた。
この戦闘ジャンキーどもめ。
それは最後の手段でと意外にも同じ戦闘民族な竜人の天然系婚約者がいさめた。
「イル、作戦はなにかあるか? 」
アウスレーゼが楽しそうに聞いた。
「えーと……」
丸ちゃんが考えだした。
考えてる丸ちゃんの知的な瞳にどきっとした。
そういや若手ばかりだな……大将たちはどうしたんだろう?
「大将たちはどうしたんだ? 」
俺はキョロキョロと見回した。
「ヒアセシア地方の軍事施設の視察の打ち合わせをしている……議会とな。」
アウスレーゼが殴り込みかけないといいがと苦笑した。
「あそこは海でしたね。」
丸ちゃんがと何かを思い出すような目をした。
「ヒアセシア海中都市だからな」
俺の故郷のヨーケリド海中都市と近いな。
「その視察に同行させていただくことは可能でしょうか? 」
丸ちゃんがアウスレーゼを見上げた。
考えてみれば龍人なのにまるちゃんは小柄だな……アウスレーゼの奴がでか過ぎるとも言えるが……
「もちろんイルはメンバーに入っている」
アウスレーゼがニヤリとした。
こいつ最初からまるちゃんをあそこで使う気だったのか?
「俺たちも同行予定だ、魔王陛下も慰問に行かれるからな」
ティイン護衛官が期待を込めた眼差しで丸ちゃんを見た。
間違いなく戦闘を期待してやがる。
竜人が戦闘狂いというのはほんとうなんだな。
でも俺も丸ちゃんの華麗な作戦が気になるが……
「あの海には実は巨大魔獣が居るんです」
丸ちゃんが端末から本部の大型画面に情報を写した。
そういえばそうだった、故郷にいる時よく狩って食卓に並べた。
だが、そんなに中央ではしられていない食材だぞ?どこで情報を……
……まるちゃんはやはり天才軍師ということか、へっぽこダメダメ軍人でも。
ヒアセシア海中都市は空気ドーム部分と水中に浸かった部分で出来ている典型的な水中都市だ。
水妖族中心に沢山の魔族が暮らしている。
海面の入り口からは赤紫色の海中にヒアセリア城塞の本体部分がゆらめいているのが見える。
そしてそのはるか沖で雷撃が放たれたのが見えた。
白い魔獣の足がうねるのがわかった。
「フッ、やるな……丸龍」
ご照覧中の魔王イルギス陛下が御座で優雅に足を組みながら笑った。
その威圧感に少しゾクッとした。
あの雷撃を放ったのは丸ちゃんだ。
私は武官ですアピール大作戦中の丸ちゃんは本性の龍の姿でヒアセリア城塞が計画した魔獣殲滅を魔王様にみよう会に加わってる。
向こうの観覧席では議員どもがかかる水しぶきに引きながら熱心に見ている。
大きな雷撃が放たれ白い魔獣が水に沈んだ。
『多分、クラーケンを出してくると思うので今回はあえて作戦は練りません。』
本性で雷撃ならなんとかなると思いますと丸ちゃんが少し震えながら言った。
その後は作をねりますがと続けて画面を指差した。
案内及び軍事訓練に出てくると思われるヒアセシア城塞の上級軍人のデータが写っている。
ティイン護衛官がイルの白家ならたしかに雷撃は得意だがエリカじゃ……といいかけたところで丸ちゃんの涙ぐんだ瞳にくちごもった。
あそこに飛ぶ白銀の腹の丸い龍が丸ちゃんだ。
戦闘ジャンキーの竜人たちは今回に限り加わってない……丸ちゃんを目立たせるためだ。
他の大物で優先的にと言う約束だ。
魔王様が戦った丸ちゃん(とヒアセシア城塞の武官)を呼んだ。
魔王様の御座の前に大クラゲがうき上がり謁見の場を作り上げると丸ちゃんが優美と言えない様子でヨタヨタとおりてきて龍人型をとってよっこいせと礼をとった。
他の連中は水妖系魔族なので水のうえに浮いて礼をとった。
ちなみに見学席も魔王様の御座も大クラゲだ。
「見事だ、さすがイルの白だな」
肉食系の笑顔で魔王があえて丸ちゃんを褒めた。
「もったいないお言葉でございます」
少し息切れしながら丸ちゃんが答えた。
「やはり丸龍も武官ということか。」
魔王様がちらりと隣に控える大将と議長を見た。
「さようでございま……」
「天才はなにをしても天才でございますね! 」
言いかけた大将を議長が遮った。
すごすぎる。
「天才軍師か……」
クックッと楽しそうに魔王様が笑った。
そういや攻撃は最大の防御っていう方だったな。
「魔王様、このような天才を魔界軍などという粗野な集団に置くなどもったいないことと存じます」
議長が勢い込んでいった。
「粗野だと……」
大将が拳を握りしめたのが見えた。
優美な幽霊族の議長は半透明の顔で馬鹿にしたように大将を笑った。
一触即発の緊迫感が寄りにもよって魔王様の前で漂う。
魔王様は楽しそうに笑っている。
「あ、あの」
丸ちゃんが戸惑った顔をした。
周りの水妖系魔族も丸ちゃんだけめだって不満そうだな……流石だ丸ちゃん、そこまで読んだか。
「魔王様、お願いがございます」
がたいのいいマーマン族の上級士官が顔を上げた。
「なんだ、ピーサ」
魔王様が面白いものを見つけた目をした。
「素晴らしい天才軍師殿とのことでございますのでぜひそれがしと手合わせ願いたく存じます」
ピーサと呼ばれた男が丸ちゃんを睨みつけて答えた。
あれがル・波・ピーサ中佐か……事前調査通り喧嘩っ早いらしい。
「どうする、イル」
魔王様がフッと笑った。
すげーなここまで予想してたぞ。
「私ではピーサ中佐に力不足です」
丸ちゃんが冷静に答えた。
ぜひ優秀な武官と団体戦の御許可をと続けて丸ちゃんがいった。
魔王様は許可された……何をするつもりだ丸龍と期待した眼差しでつぶやいてるのを聞いちまった。
許可が出た直後立ち上がろうとして足がしびれた丸ちゃんが動けなかったのさえ楽しそうだったな魔王様……そんなにストレスたまってるんだろうか?
海面に風が渦巻く。
ピーサ中佐の部下が水ごと巻き上げられた。
ジーさんすごすぎる。
「くっ、マーリス脱出しろ!! 」
ピーサ中佐がそういいながらジーさんを狙って水砲を打ってきた。
風の竜人のジーさんはヒラリと避けた。
ピーサ中佐にトライデントで斬りつける。
水壁でうけられた。
エキドナ族のエルアン少尉がアウスレーゼにからみつこうとしてるのが見えた。
丸ちゃんは何かを見据えてる。
何かを聞いているように半分目を閉じた状態で……
クラゲの上と言うのが笑えるな。
「中央の武官様は余裕ね!! 」
海馬族のアスティ少佐が海面を後ろ足で蹴ってウォータースラッシュを丸ちゃんに仕掛けた。
俺はそちらに向かおうとして水砲にとばされた。
丸ちゃんにウォータースラッシュが襲いかかる。
「くる……かな? 」
丸ちゃんが動きもせず……というか多分動けずいった瞬間に海面が激しく盛り上がりウォータースラッシュを巻き込みながら何かが出てきた。
「し、シーサーペント!? 」
誰かが叫んだ。
巨大な海蛇のような生き物が鎌首をもたげて咆哮をあげた。
そのまま尻尾攻撃であたりをなぎ払う。
とばされながら体制を整える。
「シーサーペントがなぜここに」
呆然とピーサ中佐がつぶやいた。
そんなにヒアセシアは軟弱なのかヨーケリドなんぞシーサーペントなんぞウヨウヨいるぞ。
そのままシーサーペントがあばれ出す。
「防御を! 」
魔王様のところにのこったティイン護衛官の声が聞こえた。
丸ちゃんがシーサーペントに雷撃を食らわせた。
龍人型だからさっきより弱いみたいだな。
しかも仕掛けた場所が議員席方向……流石だ。
シーサーペントが議員席に乱入する。
逃げまとう議員たち……防御壁はってないからな。
武官たちがシーサーペントを追いかける。
「どういうことですか! 」
議長が半透明の身体をふるわせながらさけんだ。
そうか、幽霊族だから物理攻撃がきかないのか。
「どいてください。」
丸ちゃんが冷静に言って目潰しの光線を放った。
「あなたわざとでしょう! 」
光が苦手の幽霊族の議長が影に隠れながら喚いた。
うるせい女だ。
「無骨もので、すみません。」
そういいながら丸ちゃんは続いて雷撃を手のひらに出現させた。
そうか丸ちゃんは術系の武官なのか。
体力と運動神経さえなんとかなれば強い最強クラスかもしれない。
ピーサ中佐は水砲がきかないのでイライラしている。
アウスレーゼは剣で切りつけてるが硬い鱗に阻まれてやはりダメージがないようだ。
ジーさんは様子を見ている。
ほかの武官もフラッシュで目潰しされてウニョウニョしているシーサーペントに攻撃して弾かれてる。
俺もトライデントでシーサーペントと殴りつける。
見事に弾かれた。
丸ちゃんが本性の丸っこい龍にもどった。
雷撃……それも特大雷撃を展開してシーサーペントに食らわせた。
プスプスと焼けたシーサーペントが議員席に最後のあがきとばかりにのたうちまわり止まった。
その頭に足をかけて丸ちゃんが議長を睨みつけた。
「ご無事ですか? 」
丸ちゃんが冷ややかな声をだした。
「え、ええ。」
議長がたじろいだ。
その瞬間シーサーペントが動いた。
まだ死んでなかったらしい。
冷静に丸ちゃんがシーサーペントの首に巻き付いた。
シーサーペントは血を吐いて今度こそ動かなくなった。
白銀の血まみれの龍……丸いがなんか夢に見そうだ。
丸ちゃんが龍人型に戻って血まみれのまま議長に近づく。
議長が後ずさった。
「あ、あなたのような無骨もの議会にふさわしくありません」
震えながらも虚勢をはる議長に丸ちゃんは爽やかなでもこの場にふさわしくない微笑みを浮かべた。
「そうですね」
丸ちゃんは議長に一礼すると魔王様に向き直って礼をとった。
その姿は一応龍族の武人に見える。
丸いけど……俺も他の武官も武器をその場において礼を取る。
魔王様がよくやったとねぎらった。
「議長は諦めたか、まあ、よい、これからも励むが良い」
すこしつまらなそうに魔王様が言った。
シーサーペントは南海の珍味だからいちばんいいところを妃の土産にせよってなんですか魔王様、そんなに魔王妃様の事大好きなんですか?というかシーサーペント食うんですか?たしかに赤身で食えますけど……
何はともあれ議会は諦めたみたいだな。
なにはともあれヒアセシア海中都市視察は無事に終わった……議会も諦めたし俺もお役御免だな。
あれ……なんか寂しいな……
シーサーペントが普段来ない海域にいた理由は丸ちゃんの依頼でヨーケリド海中都市の海域に普段いるのを俺の親戚が追い込んだからだ。
つまりシーサーペントのスタンバイの通信待ちだったんだよなあの時。
しかし魔海の生態系まで知ってる丸ちゃん、本当に天才だわ。
視察が無事におわり魔王妃様に会えないのが限界らしい魔王様がジーさんとティイン護衛官を引き連れて先に帰ったので軍部と議会で懇親会が最後の行事となる……こんなに早く終わって欲しいのははじめてだぜ。
夜の空気ドームはほのかに光って幻想的な海中風景をみせていた。
シーサーペントの炙り寿司だのクラーケンのにんにく煮込みだのご馳走が立食パーティー方式ででているのに丸ちゃんはめずらしく柚子ソーダのグラスを持ったまま天井を見上げていた。
「海中都市って綺麗ですね」
うっとりと空気ドームの向こうに広がる海を見つめて丸ちゃんはつぶやいた。
城塞の最上階は空気ドームに一番近い、警戒出来るように透明なかべになっていて魚や小型から中型の海洋魔獣たちが泳いでいる様子が見える。
外部の客をもてなすにはピッタリのところだな……
まあ、本当の見張り台は空気ドームの外に設置されているのだろうが……
でも断崖絶壁の空に近い都市に住む丸ちゃんには珍しい風景だよな……海中都市気に入ったのなら……何を考えてるんだ俺は。
「気にいったなら転属を希望したらどうだ、イル上級士官」
ピーサ中佐が丸ちゃんのうでをつかんだ。
「そうよね、中央の武官さんなんてやめちゃいなさいよ」
アスティ少尉がそういいながら丸ちゃんのもう片っぽの腕を持った。
あの血まみれが効いたらしく雷撃の天才軍師イルの獲得に動いたらしい。
大将がビールの大ジョッキ片手に苦笑いしてるのが見えた。
それはうちの大事な天才軍師だからやれんと笑いながら言った。
ケチ臭いですねとピーサ中佐も笑いながら冗談めかして答えた。
一瞬緊張が二人の間に走った。
「あの……私は軟弱ものですので無理です」
観光ならともかくと丸ちゃんが困ったようにあたりをみまわした。
まるで捕獲された丸い熊みたいだ。
住むのは無理なのか……俺は少しがっかりした。
な、なんでだろうな?
「その娘は私のものですわ」
ペルシャがワイングラス片手にとつげきした
そういやこいつも諦めてなかったな。
「議員さんの恋人!? 」
アスティ少尉がたじろいだ。
そうだよなどうみてもペルシャは女だしな……
「ち、違います」
丸ちゃんが泣きそうだ。
俺はおもわず丸ちゃんを後ろから抱きしめた。
「丸ちゃん……イル上級士官は魔界軍本部所属の軍師ですので」
俺はニッコリ笑って周りを牽制した。
横暴ですわ! とペルシャがさけんだ。
ヒアセシアの連中は保護者がきたと腕を離した。
まあ、魔界軍同士だしいずれ配属される可能性もなきにしもあらずだしな。
「いつまで抱きしめてるんだ? 」
ジーさんに先に帰られて少し不機嫌そうなアウスレーゼが酒を手にやってきた。
丸ちゃんがあわてて抜け出ようとするのをペルシャが腕を広げてさあ、私の胸にいらっしゃいと言った。
丸ちゃんが止まって泣きそうなのがわかった。
俺は思わず力を腕に込めた。
「大丈夫、丸ちゃん必ず守るよ」
俺は耳元で甘く囁いた。
丸ちゃんがビクッとしたのがわかった。
怯えてるんだろうか?
覗き込むと丸ちゃんは真っ赤だった。
えーとなんか可愛い?
「お前……態度かんがえないとティインか白本家のぼんに縊り殺されるぞ」
アウスレーゼがため息をついた。
「そうか……」
縊り殺されるのは困るな。
「あの大丈夫です」
丸ちゃんが……エリカスーシャが真っ赤になりながら腕から出ようとした。
俺はおもわず力を込めた。
丸ちゃんが離してくださいといいながらジタバタしだしたので更に込めた。
しばらくして丸ちゃんが諦めたのか静かになった。
なんかやり遂げた感が……
アレ……妙にぐったり……お、落としちまった。
丸ちゃんは気絶していた。
「丸ちゃん〜」
俺は慌てて丸ちゃんを揺すった。
「おい、お前本当に縊り殺されるぞ」
アウスレーゼがそういいながら丸ちゃんの頬を叩いた。
どうすればいいんだ。
なぜか気になる丸い龍人を抱きかかえて俺は天井を見上げた。
なんか丸ちゃんつれて魔界の果てまで逃げたくなってきた。
縊り殺されたくない……
だけど……俺は……
丸ちゃんの事が……やっぱり好きなのか?
俺はぼんきゅぼんな女が好きだったはずなのに……
ああ、自分の気持ちがわかんねぇよ……
だけど……あの可愛い唇に口づけたいのは本当だ。
縊り殺されるの決定か?
わー、それは絶対に回避するぞ!
でも……やっぱり丸ちゃんが可愛い……
とりあえず医務室に運ぼうか。
俺は丸ちゃんを肩に担ぎ上げた。
アウスレーゼが女性にその抱き方はと眉をひそめたが丸ちゃんを抱き上げるにはこれが一番効率がいいんだよ。
俺は丸ちゃんの柔らかさを感じながら走った。
ああ、気持ち良すぎだ……丸ちゃん。
武官として間違ってる体型だが……なんかやばい気持ちよさだ。
抑えるんだ俺……
きっと気の迷い……じゃないかもしれないな……
駄文を読んでいただきありがとうございます。