第二章《胎動する災厄》15日目
第二章〔4日目〕【通算15日目】
昨日の夜は最悪だった。屍肉と血の匂いを辿り【スカベンジャーアント】の大群が集落に押し寄せて来たのだ。【生体感知】により気づき集落に侵入される前に【炎の息吹】で駆逐したがその後も夜襲は続き若干寝不足気味であるが朝日が登る頃、俺は草原で大馬【エクウスリジット】を2体配下にし、とある実験を行っていた。その実験内容は騎馬が可能か否かだ。ゲームの頃は騎馬出来るのは専用の馬のみだったがどうやらモンスターでも問題ないようだ。本当は集落に馬が残っていればよかったのだが小狼鬼との争いの混乱で逃げ出したようだ。死霊騎士に教えて貰いながらエクウスリジットに馬具を装着し準備を整える。しかし現実世界で騎乗した事がないので跨がる事は出来ても馬術の心得などない俺はどうしたらいいか分からず途方に暮れる。すると隣で騎乗していた死霊騎士が見兼ねて助言をくれる。
流石は、元熟練冒険者である。実に頼もしい限りだ。その後、死霊騎士にレクチャーして貰いながら馬の操作方法を覚えていく。
幸い隷属化により配下になっているので意思疎通が思うようにでき、そう時間がかからず乗馬技術を習得する。
騎乗した事により歩兵と比較にならない機動力と衝力を手に入れた。満足のいく結果だ。
これで今、俺が配下にできるのはあと10体だ。小狼鬼戦に向け兵を集める必要があるが今回は森から兵を徴収する事はしない。騎乗実験の他にもいろいろ試したいことがあるのでそのついでに兵も揃えるつもりでいる。小狼鬼戦はあくまで実験成果の確認として挑む予定だ。彼等にはせいぜい実験相手として頑張ってもらおう。それから昼頃まで死霊騎士とお互い騎馬した状態で模擬戦をし戦闘感覚をつかむ。
午後からは集落に戻り【眷属隷化】の実験を始める。
集落が全滅してから約1日が過ぎたわけだが問題なく【眷属隷化】が発動し配下にすることが出来た。この実験のため昨日の夜は手間をかけ【スカベンジャーアント】を掃討する必要があった。今回配下にしたのは13人の冒険者の中で装備が優れていた5人である。内訳は男が3人と女が2人である。ひとまず死後1日程なら配下にできると確認できたので次のステップに移る。
アンデットへの【進化】である。進化する種族の条件など詳しく調べたい。しかし5人それぞれの種族LVは135~140くらいなのでまだ【進化】はできない。しょうがないので死霊騎士をリーダーに6人PTを組ませレベル上げの狩りに行かせる。一方俺は単身、騎乗技術を養いながら実戦訓練を積むため別行動を取り戦闘をしながら草原を駆け回る。
日が暮れ始めた頃には【エクウスリジット】との間に信頼関係ができたように感じる。
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スキル【騎兵の心得】を獲得しました。
騎馬である【エクウスリジット】との間に強い絆が生まれました。
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騎馬【エクウスリジット】は一郎の主神である【冥府の女神クリュメノス】より
称号【欲喰奪魔の愛馬】を与えられました。
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とりあえず称号【欲喰奪魔の愛馬】の効果を確認する。
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称号【欲喰奪魔の愛馬】
一郎を騎乗させている状態の時、全ステータスが2倍になり一郎のステータスも強化される。
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一通りステータスも確認し騎馬の方はこれで仕上がったと判断した。
丁度、日が沈んみ闇が草原を覆い始める。それでは、最後の実験を始めようか。
俺は完全に闇に支配された草原を目的地に向かい進んでいる。
周りには俺以外おらず1人この世界に取り残されたかのような錯覚を覚える。最近、仲間が増えたからか1人になると今まで感じなかった寂しさを感じる。らしくないなと苦笑いをうかべる。
暫く孤独を感じながら進んでいると
目的地である【狸人の拠点】に到着する。
ちなみに【狸人の拠点】の場所は狼人鬼に指示を出し探させた。俺が配下にした狼人鬼は盗賊を職業にもつ個体だったので隠密性や索敵に優れている。俺の配下には戦闘系の職業持ちしかいないため貴重な人材だ。これからも情報収集に役立ってもらおう。
用心深く拠点を観察する。
拠点の周りは柵で囲われており歩哨が彷徨いているが拠点自体は眠りについており実に静かだ。最初に主の住居を探す。すぐにそれらしき建物が目に付く。あの一番大きな建物が主の住居で間違いないだろう。
その後、何食わぬ顔で拠点に侵入すると集まって来た歩哨に【威圧】【嘶き】【咆哮】を同時使用し無力化する。
【咆哮】を使用したことで寝ていた狸人が起き出して来たが構わずスキルを発動し続け失神や硬直させていく。
戦闘をせずに縄張りの主の住居まで辿り着き家に入り込む。【八化狸人】が玉座に座り待ち構えていた。【八化狸人】は【狸人】の戦闘特化型希少上位種である。法衣を着用し袈裟までつけているその服装は仏教の僧侶のような雰囲気があるが右手には薙刀を持ち目は油断なくこちらの動きを観察している。屈強な体躯と身に纏う武のオーラは紛れもなく歴戦の戦士であることを物語る。
暫く睨みあっているとその狡猾そうな顔に笑みをうかべ俺に話しかけてくる。
「俺の部下に手は出してないようだがアンデットの分際が何の用だ?」
「本当なら生産技術系の上位種だと良かったんだがな。というよりも普通は狸人が戦闘特化型上位種に進化選択はしないぜ。どう考えても生産技術系か妖術系だろ。少し考えれば特性が無駄になる事くらい分かる筈だが。今更、言っても仕方ない。とりあえず実験に付き合ってもらうぞ。」
「何をごちゃごちゃ言っている。
俺たちの被害は睡眠妨害だけだ。今すぐに俺の縄張りから出て行けば見逃してやるぞ。俺の寛大さに感謝し.......ッ!!!!」
いきなり一郎は八化狸人に斬りかかる。凄まじい金属音が鳴り響き部屋にこだまする。俺の一撃が受け止められた。
不意打ちにも対応する判断力とパワーがあり顔色一つ変えず俺の攻撃に耐える。八化狸人はすぐに体勢を立て直し反撃に移る。激しい攻防が始まった。
久しぶりに本気で戦える相手だ。楽しませて貰おう。
拮抗する打ち合いの中で一郎が先に仕掛けた。振り下ろされる薙刀を左手に持つバスターソードを振り上げ横に弾く。更に薙刀を逸らした勢いを利用し流れるような動きで右手に持つバスターソードを振り上げた。狙うは八化狸人の首だ。
八化狸人は左から迫るバスターソードが首に直撃する瞬間に左腕を剣の軌道上に滑り込ませ軌道をずらし首を守った。バスターソードの一撃を受けた腕は筋肉が斬り割かれ骨も砕かれ再起不能の状態だが、鍛え上げられた腕は余りにも筋肉質だったため斬り落とす事が出来なかった。必殺の一撃を左腕を犠牲に回避したその判断力とあの状況で咄嗟に対応する行動力に一郎は唖然とする。
気づくと一郎は意識せずに賞賛の言葉が口からこぼれていた。
「見事だ。実に見事だ。その才能を俺の下で活かせ。歓迎するぜ」
「ふっ、あはははは!まさかアンデットに負ける日が来るとは夢にも思わなかったよ。俺の完敗だ。参ったよ降参だ。だがお前の配下にはなれない。強者に力を必要としてもらえて嬉しいがこの腕では、もう存分に戦うことは出来ないからな。」
「アンデットになれば傷口が癒着して問題なくなる。それにお前の部下も大切に扱う。使い潰す事は絶対にしないと誓おう。
もう一度だけ聞くぜ。俺の配下にならないか?」
「.....分かった。俺の力をお前に捧げよう。さぁ早くトドメを刺しアンデット化しろ。」
バスターソードで胸を貫きその命を刈り取ると同時に【眷属隷化】を発動しアンデット状態にする。
そして検証実験を始めた。
今回の実験の内容は配下の群れについてだ。
ゲームではあり得ない事だったがこの世界では群れの主を配下にすればその群れも俺に忠誠を示す。果たして何故なのか?
検証実験の結果を報告すると残念ながら確証を得ることは出来なかったが群れが俺に忠誠を示すのは【奪餓暴欲】により主から群れの支配権を奪っているからだと思われる。支配権を奪われた主は、俺の指示を群れに伝え行動させるまとめ役のような立場になるみたいだ。今のところ判断できるのはこんなところだ。
あと俺が配下に出来るのは3体までだ。
【スコロペンドラ】を1体【キマイラ】を2体配下にし兵を揃えておく。
小狼鬼への襲撃は明日の夜に決定する。狸人の拠点で待機していた狼人鬼に指示を出し各陣営に通達させる。八化狸人に段取りを伝え一眠りすることにした。
静かに西の地で起き始めている小さな異変にこの国の人間達はまだ知る由もない。
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称号【知識の探求者】を獲得しました。
スキル【判断感性】を獲得しました。
スキル【第六感】を獲得しました。
スキル【超反応】を獲得しました。
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第二章〔胎動する災厄〕のクリア条件である【禍堕騎将の片鱗】【雌伏の時】【知識欲】を達成しました。
残り1つのクリア条件を達成すると第三章が開始出来ます。
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読んで頂きありがとうございます。
1日ほど前後するかもしれませんが次回の投稿は10月25日を予定してます。
今後ともよろしくお願いします。