一章〔欲喰奪魔の目覚め〕6日目~10日目
一章〔6日目〕
午前中は先の戦いで手に入れた称号とスキルを確認していく。
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⚫︎称号【指揮官】
群れを率いる者に神が与える称号。
部下の運用にボーナスを得られる。
⚫︎称号【一鬼討ち】
格上の【鬼】系統種族を一対一で討ち倒した事を賞賛し神が贈る称号。
対【鬼】系統との戦闘にボーナスを得る。
⚫︎スキル【剛剣】
剣撃の重さを強化し破壊力を上げる。
⚫︎スキル【豪剣】
剣撃の鋭さを強化し両断成功率を上げる。
⚫︎スキル【威圧】
格下の相手に【状態異常:萎縮】を付与する。
⚫︎スキル【咆哮】
格下の相手に【状態異常:失神】を付与する。
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なかなか有益でとても満足だ。
ちなみに称号とは神が定める試練を達成出来れば誰でも得られる。難易度が高い試練を達成すると強力な称号がもらえる。
スキルとは職業や日頃の丹念で得られる技や能力のこと。
特性とは、その種族のみ与えられている能力やその種族が最初から所持しているスキルのことだ。
午後は豚鬼の縄張りに向かわず、まだ足を踏み入れていない東の森に向かう。
豚鬼は大抵3~5体でPTを組んで行動している。今の俺はまだ一対一なら問題ないが複数体を相手取るのはきついと思うので、新しいスキルと経験値を求めて東の森に向かっている訳だ。
東の森で最初に遭遇したのは、緑色の粘体スライムだ。しかしその大きさはゲーム時と異なり、4倍ほど大きい。このような個体は知識にないのでこの世界独自の個体だと思われる。その粘体に静かに近づく。どうやら食事中のようだ。粘体は体内に小鬼を取り込み溶かしながら吸収している。奇襲のチャンスを活かす為に素早く駆け寄りスキル【剛剣】と【豪剣】を発動させエストックを振り下ろす。ゴムを叩いたような鈍い手応えを感じながら切り込む。粘体は以外と強度があるのか両断することができなかった。内心焦るが体内の核を破壊する事はできたようで粘体は水状になり地面に浸透していった。
スキル【衝撃緩和】を手に入れた。
効果は衝撃を受け流しダメージを減らす事が出来る。 その後、20体ほど粘体を倒しスキル【酸性液体分泌】を手に入れ経験値等今日の成果に満足しながら帰還した。
一章〔7日目〕
午前中はスキル【酸性液体分泌】について検証していた。このスキルはとても面白い。
まず、体の任意のところから自在に酸性液体を分泌出来る。最初は服や装備が溶けると思ったが問題ないようだ。ということで、武器に塗ってみたところ溶けたり傷んだりせず大丈夫なようだ。これが所謂異世界の不思議な力なのだろうと原理が分からないので深く考えない様にする。
これは使えると思い午後からは東の森を散策しながら、毒を出すモンスターを探す事にした。その結果、バトルアックスの様な形の尾を持ち薙ぎ払いと毒の有る牙で噛みつき攻撃をしてくるこの世界独自 (次から固有モンスターと呼ぶことにする)の大型蛇モンスター【アックススネーク】が住む洞窟を発見した。俺は種族特性で敵からの毒や麻痺をある程度無効に出来る【状態異常無効】を持つので【アックススネーク】の毒は問題ない。
洞窟内の【アックススネーク】計19体を掃討しお目当てのスキル【猛毒分泌】を手に入れた。効果は【酸性液体分泌】と同じである。【毒分泌】ではなくその上位と思われる【猛毒分泌】を手に入れられ大満足だ。
経験値もうまいのでもしかしたら固有モンスターは経験値が他のモンスターより高く設定されている可能性がある。
とりあえず、実験体を探しながら森を散策していると丁度良さそうなモンスターに出会った。体長150センチはあるだろう4つ足で移動する大きな蜥蜴の固有モンスター【アースリザード】。試しに毒を塗ったエストックでスキルを使用せず切りつけるが鱗が硬く擦り傷を付けるのが精一杯だった。しかし傷口から体内に入った毒の効果で【アースリザード】は痙攣し始め口から泡を吹き動かなくなった。このぐらいの大きさの敵なら擦り傷程度で問題なく毒殺出来るようだ。
その後、他の【アースリザード】で今度は【酸性液体分泌】を使用してみた。酸を剣に塗り切ったところ、傷口周辺の鱗が溶けていき死ぬことはなかったが鱗の強度を弱める事ができた。強度があり剣が通じない相手に有効な手段になるだろう。【アースリザード】を13体程度倒した時、スキル【高防御】と特性【装甲鱗】を手に入れた。
スキル【高防御】の効果は読んでそのままの意味なので置いとくが問題は特性【装甲鱗】だ。俺は初めて特性を敵から手に入れたが使用してみて吐きそうになった。全身に鱗が生えてきたからだ。すぐに解除して忘れる事にした。鱗が生えてくる一連の行程はショックが大き過ぎ其の後のことはあまり覚えていない。気づいたら教会にいたとだけ報告しておく。特性の使用はなるべく控えようと心に誓い眠りにつく。
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第一章〔欲喰奪魔の目覚め〕クリア条件の一つ《種族超越》がクリアされました。残り5つあるクリア条件の内3つクリアされた段階で第二章が開始できます。
なお現在の神話進行状況は第一章〔欲喰奪魔の目覚め〕23節です。
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一章〔8日目〕
今日は朝から雨が降っている。俺が転生してから初めての雨だ。本当はこんな雨の日には、教会でゆっくり過ごしていたいが雨で視界が悪い今この時だからこそ奇襲のチャンスがある。向かうは宿敵である【豚鬼の拠点】だ。ちなみにモンスターの集団が生活を営む地をその規模ごとに野営地・集落・拠点・陣営地・堡塁砦と呼ぶ。
陣営地と堡塁砦は多数の種族が生活を共にしている場合があり堡塁砦の最大規模は700体にもなる。ゲーム時には何度か討伐隊が組織され壊滅させてきた。
俺が今日乗り込むのは拠点なので規模的に40体前後だ。40対1だが俺には毒があるので擦り傷を付けさえすれば問題ない。
勝算は十分あると判断できる。
懸念すべき事が有るとすれば、【ゴブリン集落】を襲撃した時の様に上位種がいる可能性だ。
中鬼と豚鬼は同程度の力なので俺でも対処できるが豚鬼の上位種である猪鬼が相手の場合苦戦することになるだろう。いかに俺に強力な毒があろうとも強靭な生命力により即死させることは困難だろう。1体なら苦戦で済むが2体以上いた場合は即刻、撤退することにする。奇襲の準備を整えて突入のタイミングを図っていると、反対の森から小鬼と中鬼合わせて60体はいるだろう群れが飛び出してきた。タイミングを外された俺はたたらを踏む。完全に豚鬼たちの意識は小鬼集団の方に向いている。自然と口もとがつり上がり笑みをこぼしながら俺も戦場と化した【豚鬼の拠点】に参戦する。
小鬼だろうが豚鬼だろうが目につく者を無差別に切りつけていく。
すると、とある豚鬼に目が止まった。その豚鬼はボロボロの法套を身に纏い、手には長杖を持っている。間違いなく魔法が使える個体【豚鬼キャスター】だろう。奴の力が俺は欲しい。強さへの欲望に身をまかせ素早く距離を詰める。確実に殺す為に戦闘系スキルを全解放し全力の一撃を振り下ろした。俺の最高の一撃だ、避けれる筈はないだろうと勝利を確信する。しかし金属同士がぶつかり合う音がし俺の剣撃が止まる。剣撃を止められた事に動揺しながら俺の邪魔をした者の姿を睨みつける。豚鬼よりも引き締まった体を持ち背丈は180センチはあるだろう。口元には大きな牙が反り返っている。この猪の様な風貌は間違いなく猪鬼だ。俺の剣撃を受け止めた猪鬼の槍は、酸と毒によりもう使い物にならないだろう。すると槍を捨て背中に2本あるバスターソードを抜き両手に1本ずつ装備した。両手武器であるバスターソードを片手で扱えるその筋力と膂力に驚愕する。臆して背を見せれば死ぬだろう。引く事が出来ないなら殺るしかない。俺は先に動いた。有効攻撃範囲は明らかにあちらが有利だ。こちらが攻撃を与えるには懐に潜り込むしかないがその事はあちらも良く分かっている為寄せ付けなように行動する。振り下ろされる剣撃を受けるとまず間違いなく武器が破壊されてしまうだろう。全て避けながら対処する。また、有る程度、猪鬼と距離を取ると豚鬼キャスターが魔法攻撃をしてくるので煩わしい。猪鬼のバスターソードは武器ランクが高いせいか魔法でも付与されてるのか俺の毒と酸が効かない。称号【一鬼討ち】を発動させているが彼我の差は埋まらない。戦闘開始からどの位過ぎたのだろうか一進一退の攻防の末、やっと奴の懐まで辿りつき全力の一刀を胴体に振るう。皮膚を切り裂き、内臓を断ち、骨を削るが強靭すぎる生命力は猪鬼に膝を付かせることを許さなかった。多くの敵を葬って来た自慢の剣技を躱され肉迫を許した事などこれ迄なく、ましてや一撃を受けるなど猪鬼に【進化】して初めてだろう。自尊心と矜恃が傷付き己自身への落胆が敵への怒りに変わる。
この世界にはここまでしても倒れない存在がいるのかと一郎は顔を歪め、苦笑いになる。余りにも理屈が通用しない敵に心が折れそうになるが、己を奮い立たせながら怒りに血走った目を向けてくる猪鬼と対峙する。いつしか雨はやみ日が山の向こうに落ちかけている。しかし乱戦は続いたままだ。
俺が【豚鬼の拠点】側の主力である猪鬼と豚鬼キャスターを抑えているため乱戦は拮抗しているようだ。
あちこちで篝火が焚かれ始め夜戦に入る準備が整えられていく。転生後、夜の戦闘をしていないため、どのくらい能力が上昇するか把握しておらず猪鬼との力量が埋まるか不安があった。しかし日が落ちるにつれ湧き上がる力がステータスを引き上げる感覚を覚える。先程まであった不安や懸念が霧散していった。だがゲームであった時にはここまで驚異的なステータスの伸びなどなかった。一郎の中で何かが変わり始めている。
化け物に近づいているのかそれとも••••。
これから長い夜が始まるだろう。そして夜と闇はアンデッドの領分だ。この闇を血で染めあげて地獄を見せて殺るよ。一郎は顔に笑みをつくり、猪鬼に躍りかかった。
上昇したステータスに物を言わせ猪鬼の振るうバスターソードの腹を弾き軌道を逸らしながら素早く接近する。
今迄、苦戦していたのが嘘のように簡単に肉迫して来た敵に猪鬼は怒りを忘れ驚愕の表情を向ける。
強烈な一撃が猪鬼の体を揺さぶるが強靭な生命力が傷を回復していく。
一郎が驚異的なステータスで攻め、猪鬼は強靭な生命力で迎え撃つ果てのない戦いが始まった。
夜はなお更けていく。混沌へと。
一章〔9日目〕
猪鬼と一郎の戦いは日を跨ぎ続いている。後二時間もすれば日が射すだろう。それが一郎にとってのリミットだ。
周りは屍で溢れており動く者は戦い合う猪鬼と一郎のみだ。小鬼は撤退し追撃するように豚鬼も後を追った。豚鬼キャスターはすでに一郎の手により倒されているが代償は大きかった。猪鬼の横をすり抜け豚鬼キャスターに迫りその首を切り落としたが、俺の後ろに追いついた猪鬼の一撃を避けきれず左肩から先を切り飛ばされた。幸い種族特性の【部位欠損ダメージ無効】があるためダメージはないが左手がないのは不便だ。対する猪鬼も満身創痍で、右目は抉られ腹部にはエストックが刺さったままになっている。左手首は一郎がお返しとばかりに切り落とされている。各傷口の出血は止まっているものの傷痕の再生は遅くなってきてるので生命力も限界に近いだろう。一郎は【捕食回復大】で猪鬼の肉を喰いダメージを与えながら回復している。右手には猪鬼が左手に持っていたバスターソードが握られている。ステータスが上がっている今なら片手で扱えることが出来るようだ。
同じ武器、片手のみ、お互いの状況が揃いつつある今、決着の時は近い。
お互い疲労が限界になったため移動しながらの戦闘を諦めて脚を止めての打ち合いになった。猪鬼のバスターソードが擦りドス黒く変色した血が飛ぶ。自分がゾンビ、動く死体で有ることを再確認しながらバスターソードを突き出す。
俺はまだ死ねない。この世界に転生した意味を知るまでは。
バスターソードが胸に刺さり心臓まで押し込もうとするが痛みにより猪鬼が暴れ出し猛攻を避けるため引き抜き距離をとる。猪鬼の傷口は塞がらず血が溢れている。お互いタイムリミットが近づいている。最早2人を闘わせているのは気力と意地。決着を付けるべく一郎が動く。重いバスターソードを上昇した筋力と膂力を使い猪鬼に向かい全力で投擲した。尋常ならざるスピードで迫る剣に疲労し動きが鈍くなった猪鬼は避けられないと悟り、咄嗟に剣を振り下ろし投擲された剣を叩き落とす。猪鬼は剣を振り下ろした事で隙ができた。一郎は予想どうりに振り下ろされた剣の横を通り猪鬼に肉迫し右手を猪鬼の閉じていない傷口に突き刺しねじ込む。狙うは心臓。命の源。そこを断てば、いかに生命力が高くても殺すことが出来る。心臓に手が届き握り潰す。猪鬼から力が抜け崩れ落ちる。
強者との戦いが終わり感情が昂ぶり、抑えきれず雄叫びを上げる。日が射し始めた森に響く雄叫びは勝鬨のようにも死者を送る鎮魂歌のようにも聞こえた。
切り落とされた腕を掴みあげて切断部同士を癒着させ結合させる。アンデッドだから出来る荒技だ。その後、特性【生体感知】を発動させ無防備に倒れこみ眠りにつく。
しかし暫くすると頭の中にアナウンスが流れた。
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称号【鎧袖一触】獲得しました
特性【食欲旺盛】獲得しました
スキル【強靭な生命力】を獲得しました
スキル【魔術素養】獲得しました
スキル【加重斬】獲得しました
スキル【膂力上昇】獲得しました
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第一章〔欲喰奪魔の目覚め〕クリア条件の《魔術才能》と《死地生存》がクリアされました。残り3つあるクリア条件の内1つクリアされた段階で第二章が開始できます。
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【種族:動死体】のLVが150になりました。【死喰鬼】に【進化】出来ます。《YES》//《NO》
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眠りを妨げられイライラしながら《YES》を選択し二度寝する。
一章〔10日目〕
朝起きたら【死喰鬼】になっていた。実に懐かしい。ゲームであった頃は狂戦士の職業LVをMAXにするために時間を費やし【死喰鬼】より上の種族に【進化】させる条件や素材を集める余裕はなかったが今の状況ならばゆくゆくは【進化】できるだろう。【死喰鬼】に【進化】したので自己鍛錬の為、投げ出していた情報収集を再開してもいいかもしれない。森を出て街でも探してみるかと考えていると森から豚鬼の集団が現れた。多分、小鬼を追撃しに行った集団が戻ってきたのだろう。そこでまだ自分が【豚鬼の拠点】に居ることを思い出す。今の俺は【進化】したことで昼のペナルティを受けていても戦利品のバスターソード2本を両手に持つ事が出来る。肩慣らしついでに豚鬼の集団を殲滅し教会に帰還する。
その後、教会で昼と夜のステータスの変化や
スキル効果の増大など細かい所を検証していく。ひと段落ついた頃には日が沈んでいた。
森を出る前の記念として未踏破エリアを回ってみようと決心し眠りにつく。