最終話 答案と個人成績表返却 優一、烈學館強制入塾回避なるか?
翌週月曜日から、答案が続々と返却されていく。
最初に返却されたのは、世界史Aだった。
……嘘だろ。六四点って。前より、三〇点も下がってる。
優一は高校に入ってからの自己最低点に落胆し、顔も蒼ざめた。
一応は得意科目なので、ショックの強さは一入だったのだ。
「優一くん、元気出して。平均点も大きく下がってるみたいだし」
「ゆういち、おれなんか三七やで。一夜漬けしてんけど」
休み時間、実帆と圭太は慰めてくれたが、
今回、平均点は五七って言ってたけど、平均は関係ないよ。
優一の気分は晴れなかった。
続いて返却された古典は、八三点。
これはまあ、想定通り。もう少し稼ぎたかったけど。
優一は少しだけ安堵した。平均点は未採点のクラスがあるので公表してもらえなかった。
現国は、前回より平均点は上がったものの、優一の点数は中間の七三点から六七点に下がってしまった。
今回も平均は、あったけど……。
優一はまた不安な気持ちになる。
帰りのSHRにて返却された生物基礎は、七八点でまずまずの出来だった。
*
「優一ぃ、古典は褒めてあげるけど、現国と世界史でこんなひどい点取って。もっと本気で勉強せな、あかんやないのっ!」
「母さん、その二つも平均点よりは少し上だったんだよ」
「優一は理系クラスに進もうとしとるんやろ? 国公立目指しとるんやろ?」
「確かにそうだけど」
「ほな文系科目も全部平均より相当上やないとあかんの分かっとる?」
「分かってるって」
「実帆ちゃんは、世界史なんぼやったん?」
「……九五点だったよ。ちなみに駿平は九八点」
「ほらね。いつも真面目に勉強して来た子は、いくら問題が難しくなって平均点が下がっても高得点が取れとるでしょ」
「俺も今回は真面目に勉強したよ。実帆ちゃんや駿平は俺と地頭が違うんだって」
その日、優一が帰宅したあとのリビングでの母との会話。デジャブが感じられた。
「得意科目でこの有様じゃ、もう烈學館行き確定的ね♪」
母はにやりと笑った。
「母さん、他の科目で平均を大幅に上回ったら百位超えるだろ」
「あとは現社以外苦手科目しかないくせに、そんな奇跡みたいな事起こらへんって。明日さっそく烈學館に申し込んでおくから」
「待ってよ母さん。今度は絶対超えてるから」
「ふふふ。まあ、一応順位が出るまで申し込むのを期待せずに楽しみに待ってあげるわ」
「……」
優一は不愉快そうに三つの答案を取り返すと、自室へ。
「ユウイチくん、Show me your answer sheet.」
「ユウイチラコイド、テスト、テスト」
「優一君、テスト見せてね」
「優一お兄ちゃん、テストーッ」
「優一さん、見せたくないとは思いますが、受講生の成績をきちんと把握することはわらわ達の使命ですので、お願いします」
教材キャラ達はさっそく要求してくる。モニター越しに事前に知ろうと思えば知ることは出来たのだが、弥生の権限により、優一が帰ってくるまで待つことにしたのだ。
優一はもちろんこの五人にも答案を見せてあげた。
「古典、高得点おめでとうございます。現国は急に成績を上げるのが難しい科目ですから、あまり気になさらないで下さいね」
弥生は満面の笑みを浮かべる。
「世界史Aも優一君は今回良く頑張ったわ。今回は難易度かなり高かったし。それで六割以上はまあまあ立派よ。前回高かった分、今回大幅に下がった平均点はまるでセンター試験みたいね」
真桜里も優しく褒めてくれた。
翌日火曜日も引き続きテスト返却Day。
朝のSHR時に返却された化学基礎、優一の点数は六五点だった。
一時限目数学A、七一点。
二時限目現代社会、八四点。
三時限目数学Ⅰ、七〇点。
いずれの科目も中間テストの時よりは一〇点以上アップしていた。
この四科目は、古典と同じ理由で平均点は公表されず。
そして四時限目。
「では今からテストを返しますね」
播野先生による英語の授業にて、優一の最も苦手としている英語のテストが返却されることになった。
「今回、平均点は中間より一〇点以上ダウンして五三点になっちゃいました。でも、模擬試験はもっと難しいからね」
播野先生はこう付け加えて、答案を出席番号順に返却していく。
「鍋本くん、もっと頑張りましょうね」
「うわっ、予想通り赤点か」
播野先生は苦笑いを浮かべつつ、圭太に答案を返却した。
「圭太、何点だった?」
優一は気になって尋ねてみた。
「二四」
圭太は爽やか笑顔で堂々と言い張る。
「やばいなぁ」
優一の表情は若干引き攣った。自分もそれに近い点数かもしれないと思ったからだ。
「心配しないで。西風くんは今回、とてもよく出来てたわよ」
「えっ……嘘ぉ!!」
優一は受け取って点数を眺めた瞬間、驚愕の声を上げた。
一学期末以降三回連続で五〇点台だった英語が、八二点もあったのだ。
「すげえな、ゆういち」
圭太もかなり驚いていた。
えっと、全部足すと……。
優一は自分の席に戻ったあと、これまでに返却された九科目分の合計点を頭の中で計算してみる。九〇〇点満点中、六六四点。一科目あたりの平均は約七四点だ。
この点数で、百位以内に入れるか微妙だなぁ。
優一は一学期末テストの時を思い出した。
その時は六七一点で、一〇四位だった。
平均点は今回、あの時より大幅に下がってるはず。
優一はそのことを強く願った。
「優一くん、英語すごく頑張ったんだね。おめでとう」
「おめでとうございます。西風君。かなり実力を上げて来ましたね」
「いやあ、これはまぐれだよ」
休み時間が始まると、優一の席へ実帆と駿平が祝福の言葉を述べに来てくれた。優一は照れくさそうに謙遜する。
実帆は九四点、駿平は九八点。さすがにこの二人には適わなかった。
*
「あら優一、意外とええ点取れたのね。実帆ちゃんの答案カンニングしたんやないの?」
「してないって。っていうか、出来るわけないだろ。俺の努力、素直に認めてよ」
「ふふふ、冗談やって。せやけど、優一がこんなに取れとるんやし、平均八〇以上はあるんやないの?」
「母さん、それはあり得ないって」
この日の帰ってからのリビングでの母とのやり取り。母は優一の点数が予想以上に良かったことを不審に思ったようだ。
☆
その日の夜、優一が夕飯を食べて自室に戻ると、
「ユウイチラコイド、ネイピアデニンがユウイチラコイドの五教科九科目での予想学年順位、出してくれたぜ」
照水裸がこんなことを伝えて来た。
「科目毎の予想平均点と、過去の定期・課題テストから分析してみた結果、優一お兄ちゃんの予想順位は……」
根位比愛がそう言ってから数秒間、沈黙が続く。
優一の心拍数はかなり高まっていた。
「一〇二位。誤差はプラスマイナス五位以内となったよ」
「……微妙過ぎる」
いよいよ根位比愛が告げると、優一は苦虫を潰したような表情で突っ込んだ。
「ユウイチくん、ネガティブになっちゃダメ。absolutely九九位以内だって」
「優一さん、あくまでも予想ですので」
「ユウイチラコイド、元気出しなよ」
「優一お兄ちゃん、これはあたしが遊びで出したものだからね。当てにならないよ」
「優一君、自信を持ちなさい。たとえ百位以下だったとしても、お母さんを説得すればなんとかなるから」
教材キャラ達は優しく励ましてくれる。
「ありがとう。でも、母さんに言い訳は絶対通用しないよ」
「ユウイチくん、この窮地を乗り越えられたら、二年後の大学受験にも大いに自信が持てるようになるよ」
それでも不安になる優一に、モニカはウィンクして勇気付けた。
*
翌日には副教科も返却され、優一は保健七一、家庭科六八点で共に学年平均よりやや高い点を取ることが出来た。
☆ ☆ ☆
同じ週の金曜日、帰りのSHR開始直後。
「それでは皆さんお待ちかねの、待ってないかな? 個人成績表を配布するわね」
担任の播野先生がこう告げた瞬間、
……つっ、ついにこの時が来たか!
優一は今まで経験したことがないくらい心拍数が上がった。
「呼ばれたら取りに来てね。赤阪くん」
テストの答案と同じように出席番号順だった。
六番の駿平は受け取った瞬間、
今回も総合ではトップ維持出来てよかったよん♪
満足顔を浮かべた。またしても学年トップだった彼の総合得点は一一〇〇点満点中一〇七五点。この高校の期末テスト個人成績表には、副教科を除いた分の総合得点と学年順位も記載されており、そちらは九〇〇点満点中八八六点。もちろんトップである。
「ゆういち、いよいよ運命が決まるな」
「うん。英語で八二点も取れるとは思わなかったし、もしかすると、いけるかも」
「絶対あるって」
「優一くんなら、きっとあるよ」
それ以降のクラスメートの名前が呼ばれている最中、圭太と実帆が優一の席へ近寄って来て勇気付けてくれる。
「鍋本くん」
「あっ、もうおれか」
いよいよ呼ばれた圭太は慌てて個人成績表を取りに行く。
優一も彼のすぐ後なのですぐさま立ち上がって教卓の方へと向かった。
「西風くん」
「はい」
百位以上、あってくれ、あってくれ、あってくれっ!
優一は心の中でこう何度も唱えながら、個人成績表を受け取った。
そして休まず副教科を除いた総合得点の学年順位が載っている欄を見つめた瞬間、
そっ、そんな……あんなに、頑張ったのに。
優一はかなり落胆する。百位を、超えられなかったのだ。三五三人中、一〇七位だった。《副教科を含めての学年順位は一一八位》
まあ、仕方ないよな。これが現実かぁ。他のみんなも同じように勉強してるもんな。
優一は暗い表情で自分の席へと戻っていく。
「ゆういち、惜しくも百位超えれなかったんだな。元気出せ」
「優一くん、残念だったね。でも、気を落としちゃダメだよ。冬休み明けの課題テストで頑張れば、なんとかなるよ」
圭太と実帆だけでなく、
「西風君、前回よりは順位かなり上がっているから希望を持ちたまえ」
駿平も優一のそばへ寄って来てくれ慰めてくれた。
「まあゆういち、気にするな。おれなんかさらに順位下がってワースト記録更新したぜ」
圭太は苦笑いする。全科目平均点を大幅に下回り、学年順位は副教科を除くと二九七位、含めると三〇二位だった。当然のごとく、一科目も駿平に勝つことは出来なかった。
残りの男子の分が配り終わると、女子の分も配布されていく。
高校生になってからの最高順位だ。すごく嬉しい♪
実帆は受け取った瞬間、満面の笑みを浮かべた。一〇一三点で学年十二位。中間テストの時より二つアップ。家庭科では満点を取り、駿平より順位が上だった。副教科を除くと八二一点で十三位。中学時代は同級生二三〇人くらい中、最高六位、最悪でも十一位だった実帆。一学年の人数が増え、周りの学力水準も上がったこの高校でも前回まで最高十五位、最低十九位とそれほど順位を落とすことなく済んでいるのだ。
「母さんにどうやって言い訳しよう?」
解散したあと、優一は廊下を俯き加減で歩きながらため息まじりに呟いた。
「ゆういち、七つくらいの差だったら、大目に見てくれるかもしれないぜ」
「ここは西風君の高度な説得力が試されますね」
圭太はにこやかな表情で、駿平はきりっとした表情で言う。
「優一くん、塾に行きたくない、マンガ類捨てられたくないってこと、私もいっしょにおば様に交渉してあげるよ」
実帆はとても心配してくれる。
「なんか、悪いけど。頼むよ、実帆ちゃん」
優一は自分の力だけでは絶対無理だろうと感じ、実帆に協力を求めることにした。
優一、実帆、駿平、圭太の四人はいっしょに帰り道を進んでいく。月に二、三回くらいはこの四人で途中までいっしょに帰っているのだ。駿平と圭太は若干嫌がっている。なぜなら男子三人でいっしょに帰ろうとしたら、実帆が付いてくるような形になるからである。
四人が正門を通り抜けてから三分ほどが過ぎた頃、
プップー♪ と、四人の後方から、車のクラクション音がした。
ほとんど間を置かず、
「あのう、西風くん」
女性の叫び声。担任の播野先生だった。四人は立ち止まる。
「あの、西風くんの個人成績表に、一箇所重大な間違いがあったの」
「えっ!」
播野先生から伝えられたことに、優一は目を丸めた。
「世界史Aの点数が、位が逆になってるはずなの。確かめてみて」
「そっ、それじゃ」
播野先生から伝えられると優一は慌てて通学鞄から個人成績表の答案を取り出した。世界史Aの得点欄を確かめてみる。
六四点を取ったはずが、四六点と表記されていたのだ。
「これが訂正分よ」
播野先生は車の窓越しに新しい用紙を渡してくれた。
「…………やっ、やったぁーっ! ギリギリで烈學館行き回避だぁーっ!」
受け取って自分の順位を知った途端、優一の顔は瞬く間にほころんだ。
訂正された彼の副教科を除く学年順位は、一〇七位から八つ上がって九九位となった。総合得点も六四六から十の位と一の位とが入れ替わって六六四へ。よく似ているため優一も配布された時気づかなかったのだ。副教科で足を引っ張ってしまい、総合では一〇八位だったがかなりの健闘である。
優一の目は、ちょっぴり涙で潤んでいた。
「西風くん、よっぽど嬉しかったのね」
播野先生はそんな彼を見て優しく微笑む。
「よかったね、優一くん」
「西風君、おめでとうございます!」
実帆と駿平も大喜びしてくれた。
「見事な大逆転だな。なあ、ゆういち、なんでそんなに急激に順位上がったんだ?」
圭太は不思議そうに質問してくる。
「通信教育のおかげかな」
優一はにこにこ顔で答えた。
「でも、それ白紙やったんやろ?」
圭太は腑に落ちなかったようで、きょとんとしながら突っ込む。
「そうだけど、ノートとしてとても役に立ったよ。烈學館行きとマンガ類捨てられないように、本気出したってものあるかな」
優一は生き生きとした表情で説明する。
「まあ、ゆういちは高校入学以来ずっと学年平均未満なおれと違って、元々成績良かったからな。おれも冬休みは頑張らんと。冬休み明けの課題テストではおれも百位以内を目指すぜ」
「口だけにならないようにね♪」
駿平は得意顔で圭太に忠告しておいた。
「鍋本くん、冗談じゃなく、本当に頑張らなきゃ二年生になれないかもしれないわよ」
播野先生はやや険しい表情で念を押し、Uターンして学校へと戻っていった。
*
「母さぁーん、これ、見てくれよ!」
「どうしたの優一? そんなに興奮して」
優一は家に帰り着くとすぐさま、訂正された個人成績表をリビングでお昼のバラエティ番組を見ていた母に見せ付けた。
「百位以内に、入れたんだ」
「あらぁ、すごいやない優一。ひょっとして、今回は一五〇人くらいしかテスト受けへんかったんやないの?」
母はにやりとした。
「そんなこと無いって。いつも通りだよ。何人中の順位かも載ってるだろ」
「あらほんまやね……それにしても、ほんまにギリギリ回避ね、優一」
「どう、俺もやれば出来るでしょ」
優一は得意げににっこり笑う。とても上機嫌だった。個人成績表を返してもらうと、意気揚々と自室へ駆ける。
「Congraturation!」
「通信教育の不倶戴天の敵、学習塾行き回避、おめでとうございます!」
「やったな、ユウイチラコイド」
「優一お兄ちゃん、あたしも限りなく嬉しいよ♪」
「優一君、よく頑張ったわね。この調子で次も更なる高みを目指して頑張るのよ」
教材キャラ達もパチパチ拍手を交えて大いに祝福してくれた。
「俺がこんなに順位が上がったのは、みんなのおかげだよ。ありがとう」
優一は嬉し涙を浮かべながら感謝の気持ちを述べる。
「これこれ、男の子が泣いちゃダメよ」
真桜里は優しく微笑みかけ、彼の頭をそっとなでてあげた。
「だって俺、本当に、嬉しくって」
優一はさらに涙が溢れ出て来る。
「優一お兄ちゃん、あんまり泣くと『あー○あん』の絵本みたいに、お魚さんになっちゃうよ」
「ユウイチラコイド、喜びの刺激が閾値に達したんだな。ちなみに涙の原料は血液なんだぜ」
「優一さんの目にも涙ですね」
「ユウイチくん、Don‘t cry.学校の定期テストなんて、ただのwaypointだよ。泣くのは、第一志望大学にパスした時だよ」
他の四人は微笑ましく眺めていた。
☆ ☆ ☆
「うーん、どうしよう。提出期限明日までだよ」
あれから数日が過ぎたある日の夜、優一は自室で学習机の椅子に座ってプリントを眺めながら悩んでいた。
「文理選択希望の最終調査かぁ。ユウイチくんは文系に進むんだよね?」
モニカが覗き込んでくる。
「いや、俺は理系に進むつもりだよ」
「えっ! わたくし、てっきり優一君は文系に進むものだと。国語と社会科が得意なようだし、英語も今回かなり成績伸びたでしょう」
真桜里は驚き顔になった。
「そうなんだよね。だから俺、本当に理系にしていいのかなぁって。実帆ちゃんは文系クラスに進むみたいだし、圭太は成績で弾かれそうだし、俺も二学期の課題と中間の成績が悪いし、今度のだって数学と化学は一三〇位台だったから、無理かもしれないし」
「優一お兄ちゃん、理系に来てっ! 優一お兄ちゃんは理系に進むのぉーっ! 数Ⅲの範囲までいっしょにお勉強するのぉーっ!」
根位比愛は優一にぎゅーっとしがみ付きながら大声でわめいた。
「ユウイチラコイド、理系に進んで物理と化学と生物、出来れば地学もさらに深く学ぼうぜ。その方が将来絶対役立つぜ」
照水裸も袖を引っ張って来て強く要求してくる。
「あの、根位比愛ちゃん、照水裸ちゃん」
優一は当然のごとくとても迷惑がる。
「進路を、強制するのはよくないです。これは優一さん自身の問題ですから。出来ることなら、文系に来て欲しいですが……」
弥生は暗に願う。
「優一君の成績なら、文系の方が後々絶対楽よ」
「ユウイチくん、理系に行ったらミホちゃんとクラスが別になっちゃうよ」
「それは、まあ、クラスは別だったことの方が多かったから、べつに、いいよ。理系クラスでは5人中3人が国公立行ってるから、文系学部志望でも国公立狙いだから理系に進むって子も毎年二割近くいるみたいだし……俺、理系に進むよ」
優一は意志を固めた。
「やったぁ! これから優一お兄ちゃんといーっぱい付き合えるね」
「さすがユウイチラコイド、まあ文系と理系を分けるのはナンセンスだとアタシは思うけどな」
根位比愛と照水裸は満面の笑みを浮かべ、大喜びする。
「英語はどちらに進むにしても重要科目だから、付き合いはいっぱい出来るね」
モニカは得意げな表情だった。
「優一君、本当にそれでいいの? もう一度良く考えてみない?」
「優一さんがそうするのなら、仕方ないですよね」
「真桜里ちゃん、弥生ちゃん、俺は国公立志望だから、理系学部に進んでも国語と社会科は入試で使うし、理数と英語に負けないくらいいっぱい勉強するから」
真桜里と弥生に困惑顔で残念がられるも、優一は意志を曲げなかった。文理選択希望調査表に黒のボールペンで理系クラス。地歴B科目選択については日本史か世界史か地理かで地理に○を付けた。
☆
翌日の帰りのSHRの後、三者面談が始まる。
終業式の日まで数日に渡ってクラスメート全員に行われるのだ。優一は初日の午後一時半から、実帆は三時からだった。
「西風君、期末テストよく頑張ったね。この調子でもっと順位を上げていけば、理系クラスのハードなカリキュラムでもじゅうぶんついていけるよ。東大現役合格だって夢じゃないかもよ」
「そうですか」
播野先生からこう告げられると、優一は緊張が解れ表情がほころぶ。
「よかったね、優一」
母もとても喜んでいた。
「西風くんは、大学は国公立志望かな?」
「はい。まあ、一応。阪大でも行ければいいかなぁっと」
「それなら三学期以降は今よりもっともっと良い成績が取れるように、冬休みはめっちゃ頑張らなきゃダメよ。この高校から阪大現役合格狙うには、学年十位以内が目安だからね。正月三が日は遊んでもいいけど、それ以外の日は一日最低五時間は勉強しなさい」
播野先生はきりっとした表情で告げる。
「えーっ、そんなに? まだ一年生なのに」
優一は苦虫を噛み潰したような顔になった。
「受験勉強は、一年生の頃からの積み重ねが大事だからね」
播野先生は笑顔で忠告する。
「優一、分かった?」
母に肩をポンッと叩かれた。
「いっ、一応」
優一は沈んだ声で答える。
「西風くん、頑張ってね。冬休み明けの課題テスト、期待してるわっ!」
播野先生は優しく微笑みかけ、エールを送ってくれた。
これにて三者面談は終わり、優一と母は教室をあとにする。
「それにしても優一、女の子のアニメ絵が描かれとる教材使って、本当に一気に成績上がったわね。母さんはまさかあんなに上手くいくとは思わへんかったわ」
「まあ、俺も日々たゆまぬ努力をし続けたからね」
「よく言うわ。実帆ちゃんが面倒見てくれたおかげでしょ。そういえば優一、あの教材、十二月号は送られて来てないわよね? 通信教育の教材って、毎月届くはずやろ?」
「初回で、来年三月までの五ヶ月分まとめて送られて来たよ」
母に不審がられると、優一は慌ててこう答えた。
「なぁんや。そうやったの」
危ない、危ない。
優一の心拍数はちょっぴり高まる。
「せやけど優一、塾行かんでも大丈夫? 母さんが小中学生の頃通わされた思い出の烈學館、優一にも行かせてあげたいなぁ。冬期講習だけは参加した方がええんやない?」
「大丈夫だって、あんなとこ行かなくても。あの教材だけで勉強は十二分だよ」
廊下を歩きながら、楽しげに会話を弾ませる優一と母。
「甚だ嬉しいです。わらわ達を頼りにしてくれて」
「なんか照れるなぁ」
「ユウイチくん、いいこと言ってくれるね」
「優一君ったら。厳しく指導した甲斐があったわ」
「優一お兄ちゃんに気に入ってもらえて、あたしも限りなく嬉しい♪」
その様子は、教材キャラ達からもテレビモニター越しにしっかり観察されていた。
音声も入るように、照水裸が改良したのだ。
☆
『あの、優一くん、理系クラスに行けた?』
その日の夕方、優一のスマホに実帆から電話がかかって来た。
「うん。俺は大丈夫だったよ」
『よかったねー優一くん、私も理系クラスに進むことにしたよ』
「えっ! 実帆ちゃんも理系なの!? でも、希望調査、文系で出してたよね?」
予想外の報告に、優一はかなり驚いた。
『そうなんだけど、私、被服学や栄養学の方にも興味があって。そのためには化学や生物をもっと詳しく勉強した方がいいかな、とも思って。それと、理系クラスは多くの科目が勉強出来るから進路の幅を広げ易いよって播野先生からも三者面談で勧められて、変更したの』
「そっ、そうなんだ」
『三クラスだけだから、また優一くんと同じクラスになれる可能性は高いね』
「そっ、そうだね。じゃあ俺、そろそろ、切るね」
『うん。優一くん、また明日ね』
「分かった」
こうして優一は電話を切った。彼の表情に、少し笑みが浮かんでいた。
「ミホちゃんも、理系に進むんですねっ。Wonderful!」
「ユウイチラコイド、理系を選んでよかったな」
「あたし、これからも優一お兄ちゃんといーっぱいお付き合い出来るからとっても嬉しい♪」
照水裸と根位比愛は満面の笑みを浮かべていた。
「数学は、特に進度が速いみたいだから不安はいっぱいあるけどね」
優一は苦笑いする。
「優一君、絶対国公立に進んでね。文転してもいいのよ」
「優一さん、理系こそ国語はライバル達と差を付けるための重要科目です。古文と漢文はマーク模試で常に満点を狙えるように頑張っていきましょう」
真桜里と弥生から真顔で強く要求された。
「みんな、引き続きよろしくね。あとは圭太が心配だな。文系クラスの方に回されないか」
圭太は、最終日の午前十一時から三者面談が組まれてあった。一人通常一五分のところを、彼は三〇分取られていた。