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第六話 お泊まりしに来たよ♪

「優一、期末テストも百位以内に入れてなかったら、分かってるわねぇ?」

 十一月二十四日、月曜日。期末テストまであと一週間となった本日。寄り道はせず普段通りの午後四時半頃に帰宅した優一は、母から爽やかな表情で問いかけられた。

「うん。烈學館行きと本を捨てるってやつだろ」

「その通りよ。ちゃんと覚えててえらいわ優一。そうならないように頑張ってね」

「はいはい」 

 優一は不機嫌そうにこう答えて、自室へ。

「優一君、いよいよ期末テスト一週間前ね」

「ユウイチくん、テスト前はテンションアップするよね」

「優一お兄ちゃん、今日からはさらに本気出して数学頑張ろう」

「ユウイチラコイド、化学と生物は普段あまり勉強してくれねえからここでいっぱい勉強しようぜ」

「優一さん、今日からは家庭学習時間を二時間増やしましょう」

 教材キャラ達は普段以上に機嫌良さそうだった。

「分かってるよ。期末は副教科もあるのが面倒だなぁ。中学の時よりは少ないけど」

「副教科も頑張った方が良いかもです。大学入試でAOや推薦を狙うなら評定平均に響いてくるので」

 今日の帰りのSHRで配布された、期末テスト日程範囲表を眺めつつため息まじりに呟いた優一に、弥生はきりっとした表情でエールを送る。体育、書道、情報は授業評価のみで期末テストは無しだ。

「数彦君はAOと推薦は邪道。当日一発勝負の一般入試で挑むべしっておっしゃってたけどね」

「俺、推薦は考えてないし、母さんは副教科の分の成績は考慮しないって言ってたから……とりあえず平均点くらいは取れる程度に頑張るよ」

「それがベストだね。日程はDecemberの一、二、三、四、五か。今度のSaturday,Sundayはユウイチくんをconfinementだね」

「つまり土日は勉強漬け。外出禁止ってことよ」 

「えっ、でも今度の土曜は毎月買ってるアニメ雑誌の発売日なのに」

 モニカと真桜里から告げられたことに、優一はどぎまぎする。

「そんなのはテストが終わってから買えばいいでしょ」

 真桜里はこう意見した。

「でも、きっと売り切れちゃうよ」

「ユウイチくん、雑誌に萌えキャラを求めなくても、ワタシ達がいるじゃない」

 モニカはウィンクする。

「確かにきみ達はアニメの萌えキャラに匹敵、いや凌駕するくらいとってもかわいいけど、実際に放送されてあるアニメのキャラじゃないと話題性が……気になって余計勉強に実が入らないかも」 

優一は不満そうにした。

「そういう子はたとえアニメが無くても何かと理由を付けてそう言うものです。優一さん、期末試験は今学期の成績に大きく響く一大イベントですので、一生懸命頑張りましょうね」

 弥生は笑顔でエールを送る。

「分かったよ。テスト終わるまで我慢するよ。総合得点で百位以内に入らないと、母さんに塾へ行かされるし」

「Oh,そうなんですかっ! ユウイチくんのマミーはデビルだね。ユウイチくん、これはますます本気出さなきゃいけないね。塾行かされたらワタシ達と付き合える時間が減っちゃうもん」

「うっ、うん」

 こうして優一は椅子に座るというか、ギラギラした目つきのモニカに力ずくで座らされる。

「優一君の通う高校で上位百位以内なら、国公立大を目指せそうね。半数くらいが東大に進学する灘や開成や筑駒と比較したらかなり劣るけど、優一君の高校も毎年東大一、二名、京大十名前後の現役合格者が出てるから、それなりの進学実績があるじゃない」

真桜里は優一の高校入学時に配布されていた高校生活の手引きの冊子、進路状況の項目を眺めながら話しかける。

「まあ、近隣の公立で二番手みたいだから。三人に一人は国公立大に進学してるようだし」

「優一さんも、国公立大狙いですか?」

 弥生は興味深そうに尋ねてくる。

「うん。母さんもそれを望んでるし。私立は学費高いからね」

「親孝行ね、優一君」

「いっ、いやぁ、そんなことは……」

 真桜里に頭を優しく撫でられ、優一は頬を少し赤らめ照れくさがった。

「ユウイチラコイド、期末テストで学年順位楽々百位以内に入れる裏技があるぜ」

「そんな方法が本当にあるの!?」

 照水裸から突然告げられたことに、優一は驚き顔で問う。

「うん。職員室に忍び込んで問題を盗み出せばいいのだ」

「そっ、そんなことしたらダメに決まってるだろ」

 照水裸のアイディアに、優一はすかさず突っ込んだ。

「照水裸ちゃん、それは校則の厳しい優一君達が通う高校では停学どころか退学に値する行為よ」

「あいだぁーっ!」

 真桜里にゴチッと思いっ切り頭を叩かれ、

「不正行為は厳禁です。試験は正当な方法で挑まなければなりません!」

 弥生に険しい表情を浮かべられ、

「ごめんなさーい」

 照水裸は慌ててぺこんと頭を下げた。

本当は、やりたいんだけどね。

優一がこう思ったその時、

 ピンポーン♪ いつもの朝のように玄関チャイムが聞こえて来た。

「優一くん、おば様。こんばんはー」

 実帆がやって来たのだ。

やっぱり来たぁー。

 優一は気まずい気分になった。

 テスト直前になると実帆は毎回のように、テスト範囲の重要ポイントなどを教えに来てくれるのだ。中学一年一学期中間テストの頃から続けている実帆の習慣となっている。

「優一ぃ、実帆ちゃんが来てくれたわよーっ。下りてらっしゃーい」

「はいはい」

 母に叫ばれ、優一は部屋から出た。階段を下り、玄関先へと向かっていく。

「優一くん、今日は私、お泊りするね」

「えっ!!」

 実帆からの突然の発言に、優一は目を大きく見開く。

「優一、よかったわね。今夜は実帆ちゃんがお勉強、付きっ切りで指導してくれるって」

 母はにこやかな表情で伝えた。

「優一くん、今夜はよろしくね♪ 外泊許可は播野先生に取って来たよ」

「べっ、べつに、そこまでしてくれなくても……」

 優一は困惑する。

「だって私、久し振りに優一くんちでお泊りしたくなったんだもん。英語の授業でパジャマパーティが出て来たでしょ、私もやりたいなぁって思ったの」

 実帆は満面の笑みを浮かべながら言う。大きめのトートバッグも手に持っていて泊まる気満々な様子であった。

「そんな理由かぁ」

 優一は納得出来たが、やはり動揺している。

「実帆ちゃん、自分のおウチのようにくつろいでね」

 母は温かく歓迎した。

「はい! お世話になりまーす。英語で言うとメイクユアセルフアットホームですね」

 実帆は靴を脱いで廊下に上がると嬉しそうに階段を駆け上がり、優一の自室へ向かっていった。

「あっ、ちょっと待って、実帆ちゃん」

 優一は大声で叫んだ。しかし実帆は聞く耳持たず、優一の自室に入ってしまった。

 これも毎度のことなのだ。

「どうしたの? 優一。今回はやけに慌てて。優一が持ってるオタクっぽい物、今さら見られたってなんともないでしょ?」

 母はにやにやしながら尋ねて来た。

「確かにそうだけど……」

 優一はそう答えて、急いで二階へ駆け上がった。

 自室の扉を開けると、

「優一くん、かわいいお人形さん、また増えたね」

 実帆は収納ケース上を中腰姿勢でじーっと見つめていた。

よかったぁ。あの子達の姿は、見られてない。

 優一はホッと一安心した。

「優一くん、テスト範囲のプリント揃ってる? 足りないのがあったら、コピーしてあげるよ」

 続いて実帆は、机の上や引出を物色し始めた。

「全部揃ってるよ」

 優一はそう言うと、机の上の本立てからファイルを取り出した。

 科目毎にきちんと分けられ九冊あった。

「本当だ、一枚も抜けがない。えらいね優一くん。ちゃんと整理整頓出来るようになって」

 一冊ずつ捲って確認してみて、実帆は大いに褒めてあげる。

「いやぁ、それほどたいしたことでもないと思うけど」

 優一はちょっぴり照れる。あの子達の指導のおかげだし、と彼は心の中で思っていた。

「今までは全然出来てなかったんだから、大きな進歩だよ。そういえば優一くん、通信教育始めたんだよね。あっ、これだね。イラストすごくかわいいね」

 実帆は、床に置かれてあった英語のテキストを拾い上げた。表紙をじーっと見つめる。

「そっ、それは……」

 優一の表情は凍りつく。

「優一くん、ちゃんとやってるね」

三〇秒ほど見つめた後、実帆はパラパラと捲り始めた。

「えっ、あっ、うっ、うん。ちゃんと毎日続けてるよ」

「えらいね優一くん。授業中も最近はいつも真面目にノートを取るようになったし、期末テストでは良い点取れそうだね」

「うっ、うん」

 優一は背中から冷や汗を流しながら適当に頷く。

あの子達、飛び出してこないだろうな?

と、優一はかなり心配になっていた。

「じゃ、いっしょにテスト勉強始めよう」

「わっ、分かった」

 優一が椅子に座ると、

「優一くん、もう少し詰めてね」

 椅子の僅かなスペースに、実帆も座ってこようとして来た。

「あの、実帆ちゃん。そんなに引っ付かなくても」

「でも、落ちそうだし。じゃあベッドの上でやろう」

 実帆はそう言うと、優一の腕をぐいっと引っ張った。

「わわわ」

 優一はベッドの上に座らされる。

「優一くんのベッド、ふかふかー♪ 私、今夜は優一くんと同じベッドで寝るね」

 実帆はうつ伏せなって足をパタパタさせながら言う。

「ダッ、ダメだよ」

 優一は嫌がる素振りを見せた。

「あーん、お願ぁ~い」

「でもぉ」

「優一ぃ、実帆ちゃん。お夕飯が出来たわよーっ」

 気まずい雰囲気を打ち消すかのように、一階から母に叫ばれた。

 こうして二人はキッチンへ。

「今夜は実帆ちゃんの大好物よ」

 母は機嫌良さそうに伝える。晩御飯のメインメニューはハンバーグステーキだった。

「わぁっ。とっても美味しそう♪ ありがとうございます、おば様。私、貧血で倒れて以来、緑黄色野菜を日々たくさん補おうと心がけてるんです。ハンバーグは最適ですね」

 実帆は満面の笑みを浮かべる。

「優一も未だけっこう好き嫌いが激しいのよ、ミカンとか」

「だって酸っぱいし」

「優一くん、ビタミンCが不足して壊血病になっちゃうよ」

「俺、柑橘系やいちごは絶対好きになれないな」

 優一は苦笑いで主張し、椅子に座った。

「実帆ちゃんはここに座りなさい」

 母は微笑みながら、優一の向かい側の椅子を差した。

「はい、失礼します」

 実帆は嬉しそうにその場所に座る。

 そこ、母さんの席なんだけどな。

 優一はちょっぴり気まずく感じるも、ともあれ食事開始。母は普段は誰も使ってない予備の椅子に座った。

 十五分ほどのち、三人が食事を終えようとしたところ、

「ただいまー」

 父が帰って来た。まもなくキッチンにやってくる。

「おじゃましてます。おじ様」

「やあ実帆ちゃん、お久し振りだね。ますますかわいらしくなって。優一の嫁さんに最適だな」

「おじ様ったら」

 実帆は頬をほんのり赤らめた。

「何言うんだよ、父さんは」

 優一は当然のように迷惑がる。

「ハハハ」

 父は上機嫌で笑いながら、スーツから普段着に着替えるためリビングへ。

「ふふふ、優一も照れてるわよ。実帆ちゃん、お風呂ももう沸いとるから、このあとどうぞ」

 母は笑顔で伝える。

「ありがとうございます。でも、優一くん先にどうぞ。私、夕飯のお片づけを手伝うから」

「あら悪いわね、実帆ちゃん」

「いえいえ」

「じゃあ、俺、先に入るね」

 優一は夕食を平らげるとすぐに椅子から立ち上がり、風呂場へと向かっていった。

風呂椅子に腰掛け、髪の毛をこすっている最中、

「やっほー、ユウイチラコイド!」

 全裸の照水裸が湯船からバシャーッと飛び出して来た。

「あの、照水裸ちゃん。俺の入浴中に入り込んでくるのはやめようね」

 優一は優しく注意する。こういうことが度々あり、優一はもはや驚く様子は無かった。

「生ミホルマリン、本当にかわいいね。生殖器と内臓のみならず細胞レベルまで観察したいくらいだぜ。ねえユウイチラコイド、今夜はミホルマリンとベッドの上で交尾的なことするんでしょ?」

「……何言ってるんだよ。すっ、するわけないだろ、そんなこと」

 にやにや顔で質問してくる照水裸。優一は焦り顔で即否定した。

「ユウイチラコイド、つれないなぁ。普通ヒトのオスにとってのメスの幼馴染っていうのは、お互い仲良いのは幼少期くらいのもので、思春期を迎える頃には敬遠疎遠されるのが普通なのだ。ユウイチラコイドは三次元世界の住人のくせにラブコメマンガやエロゲー、ラノベの設定みたいに恵まれてるんだから、ミホルマリンを大切にしてあげなきゃダメだぜ」

「大切にするってそういうことじゃないだろ」

 照水裸の力説に、優一が迷惑顔で反論していたその時、

「おじゃまするね、優一くん」

 浴室扉がガラガラッと開かれた。

「うわぁっ!」

「ひゃぅっ!!」

 優一と照水裸はびくーっと反応する。実帆が入って来たのだ。

「あれ? 女の子……」

 実帆は照水裸の方に目を向けた。

「やっべ」

 照水裸はこう呟くと、一瞬で姿を消した。

「ねえ、優一くん。さっき素っ裸で紫髪の女の子がいなかった?」

 実帆はきょとんした表情で尋ねてくる。

「きっ、きっ、きっ、気のせい、気のせいだよ」

 優一が慌てて説明すると、

「……そうだよね? まあ、いいや。優一くん。お背中流すよ」

 実帆はあっという間に普段の表情へと戻った。何事も無かったかのように優一に接する。

「あっ、あの、実帆ちゃん。せめて服を……」

 優一は実帆から目を逸らそうとする。

 実帆はバスタオルを一枚、肩の辺りから膝の辺りにかけて巻いただけの姿だったのだ。

「昔はよくいっしょに入ってたんだし、そんなに照れなくても。私、タオルでしっかり隠してるじゃない。優一くんだって前隠してるでしょ。いっしょにプールに入ってるようなものだよ」

 実帆は優一の下半身をちらっと見て、にこやかな表情で主張した。

「そういう問題じゃないって」

 それでも優一は居た堪れなく感じていた。目のやり場にも非常に困ってしまう。

      

「どうしよう。ミホルマリンに微小時間だけど姿見られちゃったぜ」

 優一の部屋に戻った照水裸は苦笑いで四人に報告した。

「Oh my god!」 

「照水裸お姉ちゃん、間に合わなかったんだね」

 モニカと根位比愛はハハッと笑う。

「その後は、何事も無かったかのように普通に接してるけど」

 真桜里はモニターに二人の映像を映した。

「幸いなことに実帆さんは、お部屋の様子を見る限りメルヘンチックなお方でしょうから、わらわ達の姿を見られても全く問題ないかもです」

 弥生は冷静に分析する。

「それじゃあさ……」

 照水裸はあることを提案した。

 それから少し時間が経過した浴室内。

「優一くん、三学期の体育の持久走、男子は五キロも走らなきゃいけないのは大変だよね。やっていけそう?」

 実帆は湯船に体育座りをしてくつろぎながら、嬉しそうに話しかけてくる。

「まあなんとか。じゃあ、俺、もう出るね」

 すぐ向かいにいた優一はそう言うとすばやい動作で湯船から飛び出し、浴室から脱衣所へ。

「優一くん、もう出るの? 早過ぎだよ」

 実帆は困惑顔で注意した。

 優一は照水裸が姿を消してからすぐに逃げ出そうとしたのだが、実帆に捕まえられ、背中を洗われさらに湯船にも力ずくで入れられてしまったのだ。彼は嬉しいという気持ち以上に恥ずかしいという気持ちの方が遥かに凌駕していた。

「あら優一、十分くらいで出てくるなんて烏の行水ね」

 優一は籠に置かれてあった実帆の白系統の下着類には全く気にも留めずパジャマに着替え、リビングへやって来ると、母から微笑み顔で言われる。

「だって母さん、実帆ちゃんが……」

「優一ったら、小学四年生頃まではよくいっしょに入ってたくせに」

 かなり気まずそうな優一を眺め、母はくすくすと笑う。

「大昔の話だろ」

 優一は当然のように不愉快になった。

「実帆ちゃんが昔みたいにいっしょに入りたいって言ってたから、入ったらって言ったのよ。そしたら実帆ちゃん嬉しそうに走っていって」

「母さん、その時引き止めてくれよぅ」

「どうして? べつにええやない。幼馴染同士なんだし」

 優一と母とでそんな会話をしていた時、

「お風呂、とっても気持ち良かったです♪」

 実帆も上がってリビングへやって来た。

「俺はとても疲れたよ」

 優一はげんなりとした表情で言う。

「それじゃ優一くん、お部屋に戻ってテスト勉強の続きやろう」

「うっ、うん」

 優一が前、実帆が後ろを歩いて二階へ上がり、

「ユウイチラコイド」

「うわぉ!」

 部屋に入った瞬間、優一は思わず仰け反った。

 照水裸だけでなく五人全員、テキストから飛び出していたのだ。

「ちょっ、ちょっと、あっ、あの」

「あらま、女の子がいっぱいいるね」

 慌てる優一をよそに、実帆は素の表情で的確に突っ込んだ。

「いとうつくしきかたちなる実帆さん、初めまして。わらわは、優一さんに国語を教えている新玉弥生です」

「あたし、数学担当の四分一根位比愛だよ」

「アイアム栗須モニカでーす。ユウイチくんにEnglishをレクチャーしてるよ」

「毛利・エカチェリーナ・真桜里よ。世界史と現代社会を担当してるわ」

「理科担当の金星照水裸なのだ」

 教材キャラ達は陽気な声で、実帆にごく普通に自己紹介した。

「あっ、あっ、あっ、あの……」

 優一はかなり焦る。

「はじめまして、私、里井実帆です」

 実帆は爽やか笑顔でそう言って、ぺこんと頭を下げた。

「優一くんの家庭教師さん?」

 続いて優一の方を向き、興味深そうに尋ねてくる。

「まっ、まあ、そんな、感じ」

 優一は焦り顔で説明した。

「アタシ達は、この教材の中から出て来たのだ」

 照水裸はあのテキスト五冊をぴっと指差す。

「そうなんですかぁ。すごいですねぇ!」

 すると実帆は目をきらきら輝かせ、五人のいる方へぴょこぴょこ歩み寄る。

「みっ、実帆ちゃん、この子達のこと、不思議に、思わないの?」

 優一は驚き顔で問いかけた。

「さすがにちょっとびっくりはしたよ。でも、飛び出す絵本の進化版だって考えれば、そんなに不思議には思わなかったよ」

 実帆はとても嬉しそうに言う。

「そっ、そう?」 

 優一はかなりホッとした。

「照水裸さん、実帆さんにあのことを謝っておきなさい」

 弥生は困惑顔で命令する。

「うっ、うん」

「えっ!? 照水裸ちゃん私に何か悪いことしたっけ?」

 実帆はきょとんとなった。

「アタシ、ミホルマリンちのお部屋に無断で忍び込んで、下着を何枚か盗みましたのだ。ごめんなさい」

 照水裸は土下座姿勢で謝罪の言葉を述べた。

「なぁんだ。そんなことか。いいの、いいの、私、全然気にしてないよ」

 実帆は爽やかな表情で言う。

「ありがとうございます。ミホルマリン」

 実帆の寛容さに、照水裸は再度深々と頭を下げ感謝の意を表した。

「今夜はみんなでいっしょにテスト勉強しよう。七人でやるとすごく楽しそう」

 実帆は嬉しそうに提案する。

「OK.たまには他の科目もラーニングしてみたいからね」

「もちろんいいよ。あたしもいろんな科目勉強して、もっともっと賢くなりたいから」

「わらわも勿論参加致します。数学と理科の苦手意識をほんの少しでも無くしたいですし」

「アタシもいっしょに頑張るぜ。ユウイチラコイドとミホルマリンだけにたくさんの科目を学ばせるのは不公平だからな」

「数彦君も専門バカにならないように幅広い教養を身につけた方が良いとおっしゃられていたので、わたくしも参加します」

 教材キャラ達は快く了承してくれた。

 こうして七人で副教科を除く五教科九科目の重要項目をそれぞれ二〇分から三〇分ほど軽く勉強していき、あっという間にまもなく日付が変わる頃になった。

「優一お兄ちゃん、実帆お姉ちゃん、おやすみなさーい。いろんな教科が学べて知識も増えて楽しかったよ」

「おやすみ、ユウイチラコイド、ミホルマリン。二人で太陽の中心のように熱い夜を楽しんでね」

「おやすみなさいです」

「グッナイ! See you again,ミホちゃん」

「優一君、実帆ちゃん。おやすみ」

 教材キャラ達は就寝前の挨拶をして、テキストに飛び込んでいく。

「おやすみーっ。出会えて嬉しかったよ。優一くん、とっても素敵な家庭教師さん達だね」

 実帆は全く不思議がることなくその様子を眺めていた。

「あの、実帆ちゃん。あの子達の存在は、他のみんなには絶対ナイショにしてね」

「もちろんだよ。二人だけの秘密にしようね」

 実帆がこう言ってくれて、優一はホッとする。

「あの、実帆ちゃん、もう一つお願いがあるんだけど、俺と同じ布団で寝るのは、やめて欲しいなぁ」

「それは嫌だよ。私、優一くんと同じお布団で寝るぅ!」

 この要求は、実帆は受け入れてくれなかった。優一は当然のように困惑してしまう。

「じゃあ俺は、床で」

「ダメだよ。そんな所で寝たら絶対風邪引いちゃうよ。いっしょに寝るのは私と優一くんだけじゃないよ。この子もいっしょだよ」

 実帆はそう伝えると、

「じゃーん、これ見て。優一くんにこの間取ってもらったナマちゃん。川の字に寝よう」

 トートバッグからそれを取り出し、敷き布団の上に置く。

「それも、持って来てたんだね」

 優一は苦笑いを浮かべながらも、無いよりはマシかなっと思った。

「優一くんも早く寝よう。夜更かしは体に毒だよ」

実帆はおかまいなく、いつも優一が使っている冬蒲団に潜り込む。

「わっ、分かった」

 優一はそれからすぐに電気を消して、ゆっくりとした動作で慎重に同じお布団に潜り込んだ。

「おやすみ優一くん」

「……おやすみ」

 そんな会話を交わしてから二分も経たないうちに、実帆の寝息が聞こえて来た。

「……眠れない」

 優一は極度の緊張で目が冴えてしまっていた。

 それから三〇分くらい経っても、状況は変わらず。

 間にあのナマケモノのぬいぐるみがあったため、体が引っ付き合うことは避ける事が出来たのだが、それでもやはり気になってしまう。

「ユウイチラコイド、今、ミホルマリンと交尾する絶好のチャンスだぜ」

「うわっ!」

 照水裸が突然目の前に現れ、優一はびくーっと反応した。

「ミホルマリンの寝顔、とってもかわいいでしょ?」

「たっ、確かにかわいいけど」

 優一は実帆の寝顔をちらっと覗いてしまった。

「まず手始めに服を捲りあげて、ブラジャー外しておっぱいじかに触っちゃえ」

「そんなこと、出来るわけないだろ」

「ユウイチラコイド、草食動物みたいだな。そんなんじゃ子孫残せないぜ」

「照水裸ちゃん!」

「あいたぁ!」

 突然、真桜里に背後から頭を叩かれた。

「ごめんね優一君。照水裸ちゃんがご迷惑かけて。すぐに引き戻すから」

「あーん、マオリソソーム。もう少しだけぇ」

「ダメよ、優一君困ってるでしょ」

「やっ、やめてぇぇぇ」

 真桜里は嫌がる照水裸を、自分のものと同じ社会科のテキストに押し込めた。

「それじゃ、おやすみ優一君。照水裸ちゃんのことならもう心配ないわ。自分用のテキスト以外からは、自ら脱出も侵入も出来ないからね」

 真桜里はにこにこしながらこう告げて、社会科のテキストに飛び込む。

「あっ、ど、どうも」

そんな仕様もあったのか。よかった。

 優一はこれで一安心する。

 布団に潜り込もうとしたら、

「あの、優一君」

「うわっ!」

 再び真桜里が飛び出して来た。優一は少しだけ驚く。

「今日、というかもう昨日だけど、実帆ちゃんがいたから体罰は控えたけど、また今日から復活するからね♪」

 真桜里はウィンクして、再度テキストに飛び込んだ。

「……やっぱり」

 優一は苦笑いする。彼は再び布団に潜り込んだが、やはり実帆がすぐ隣で眠っていることもあって、なかなか寝付けなかったのであった。

          ☆

 朝、七時四〇分頃。

実帆ちゃん、いないな。

 優一が目を覚ました頃には、すでに実帆の姿は無かった。優一はいつも通り制服に着替え、一階ダイニングへと向かっていく。

「おはよう」

「おはよう優一くん」

「おはよう優一、今朝の朝食、実帆ちゃんも手伝ってくれたわよ」

「そうなんだ」

実帆もすでに制服に着替え終えていた。制服は持って来ていなかったので、一旦家に戻ったらしい。

「私は卵焼きを作ったよ。食べてみて」

「美味そうだ」

 優一は椅子に座ると、最初に卵焼きに箸をつけた。

「けっこう、甘いね。俺の好みだよ」

 いつもの塩味とは違い、お砂糖いっぱいだった。

「ありがとう。嬉しいな♪」

実帆は満面の笑みを浮かべる。実帆は優一と同様、甘党なのだ。


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