フラグが立っているようです。死亡フラグ以外を望みます
視界いっぱいに広がる緑。木々の枝の間から漏れる陽の光。鳥たちのさえずりはまるで音楽のよう。
・・・・こんな状況でなければ、素直に森林浴を楽しめるんですけどねえ。
死刑台に向かっている囚人のような心境で進む私とは反対に、先生は私の前をあろうことか鼻歌を歌いながら歩いています。そのうちスキップでもし出すんじゃないでしょうか、この人。さっきからずっとこの調子なので、彼女がなぜこんなにも上機嫌なのかを理解するのはとっくに諦めました。世の中には考えれば考えるほど疲れることってやっぱりあるのです。そういう時は思考を放棄するのが賢明だと前世で学びました。
そしてまた、状況によってはそれがとても愚かなことだということも。
流石に、自分の人生左右するような事を見て見ぬ振りなんて、それこそ馬鹿のすることです。
さっきから結構時間が経っているのに、練習のレの字も先生の口から出ていないのですし、上級魔術である空間移動魔術で、先生が私を連れて飛んで来た場所なので、具体的にこの森が王国のどこらへんにあるかは分かりません。それを聞いても、なんだか意味深に微笑まれるだけ。
何が言いたいかというと、怪しすぎるのです。
「あの、先生?」
「どうかされました?ユーリ様?」
「さっきからずっと歩いてばかりですけど・・・その、練習はいつ始めるんですの?」
「ああ、ごめんなさいユーリ様、すっかり忘れていましたわ」
「え」
思わず間抜けな声が出ました。
「まあ、せっかくお屋敷の外に出たのですし、もうちょっとお散歩を楽しみましょう?ユーリ様」
うふふ、と上品に笑う先生に私の顔面筋はこれでもかと引きつります。
これって嫌がらせなんでしょうか。
嫌われているのは自覚してましたけれども、相当ですよね、だとしたら。
・・・・もしかしたら、あれですか?
今回の練習は私に対して何かダメージを与えるための口実ですか?
「あの先生?」
「どうしました?」
「練習内容はどのようなものですの?」
不安になって尋ねてみると
「秘密です」
ふふふ、と先生はいたずらっぽく私にウィンクをしました。ウィンクって凡人がやると見てられない位痛いですけど、先生がやるととてもしっくりきます。そういう表情も普段なら、例え先生の猫が見え隠れしていてもまだ可愛いなあって思える余裕があるのですが、今は恐怖です。
私は体がだんだん冷えて行くのを感じました。
何のフラグが立っているかは知りませんが、確実に何かありますよね、これ。
え、まさか
死亡フラグじゃないよね・・・・?
違うよね・・・・?
そんな殺されるほど憎まれることをしたことはない!
・・・・はず。
ここで言い切れないのが悲しいかな、私クオリティーです。
ああ気が重いー、っと内心溜息を吐きまくりながら先生の後について行きます。
すると、先生はある程度歩いたところで突然立ち止まりました。
それを見て私も止まると、先生はこちらを振り向き、にこり、笑みを落とします。
「じゃあ、ユーリ様、移動ますわよ」
「え?どこ----」
どこに、と私が言い終わる前に、体が引っ張られるような、ここに来た時と同じ感覚がして。
気づけば私は先生の隣で、鮮やかなツリーハウスの前に立っていたのでした。
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ぴくり、張った結界が少し歪んだのを感じ取って、男は愉悦の笑みを零した。
「シエル、もうすぐお客さんが来るよ。楽しみだねえ」
そう呟きながら、膝の上に乗っている黒猫を撫でる。
シエル、と呼ばれたその猫は男に撫でられてゴロゴロと機嫌が良さそうに喉を鳴らした。
それを聞いて、男はなおも笑みを深くする。
「久しぶりのお客さんだから、ちゃんと《おもてなし》しなくちゃねえ」
猫がニャア、と答えるように鳴いた。
進むほどに疑心暗鬼に陥って行くユーリさん 笑
次回は新キャラ登場です
※訂正 フローネル先生はテレポーション魔法の呪文を唱えていません。間違って唱えていることになってましたので、すでに読んでしまった皆様申し訳ありません(;^ω^)