想定外です。イロイロ
「先生、今日もよろしくお願いしますわ。」
「こちらこそ、じゃあこの前教えた魔法の復習でもしましょうか」
先生に促されて、昨日習った結界を貼りにかかります。青系魔法の基礎中の基礎ですね。とは言っても、結界の強さは魔導師の実力の鏡です。強い魔導師ほど結界は硬くなり、色も空色から青、群青色、黒、という順に濃くなります。ただ色が濃くなるとともに視界が遮られるのが難点ですが。まあ、結界の外にいる人間からも中にいる人間の様子は見え辛くなるので急所を狙われる危険性は減るし、どっこいどっこいという感じですねー・・・・・じゃなくて。
色で強さがわかる分、込める魔力量を間違うと・・・・バレます。ちなみに、普段の夜中練習の際に貼るものは黒色です。その方が闇に紛れるいう打算的な理由もありますが、ぶっちゃけ魔力の調整なしに結界貼ると自動的に黒くなっちゃうんですよね。
はあ、と心の中でため息をついて頭を切り替えます。集中しなければ。魔力量の調整は結構微妙で難しいのです。でもまあ、ちゃんと昨日の夜、空色の結界を作る練習をしたから大丈夫・・・・・なはず。
目をつぶり呪文を唱えます。うっかり無詠唱発動なんて愚かな失敗はしません。
「我に守護を」
シュ、と空気を切るような音がしたとともに目を開けます。自分の四方が青空と同じ色に囲まれているのを確認して胸を撫で下ろします。ひとまず成功。
「やっぱり、ユーリ様は覚えが早いわねえ。」
「いえ、先生の教えが分かりやすいためですわ。」
「いいえー、だって私、呪文の発音しか教えていませんもの。発動練習はいつも自己練で良いとおっしゃるし、本当にユーリ様って手がかからない生徒ねえ。」
ふふふ、と私に向かって可愛らしい笑みを浮かべるフローネル先生。見た目がお姫様のように可憐な方なので、一瞬お花畑がその背中に見えましたが、その目の奥は笑っていません。ブリザードです。
怖いですよね、猫かぶり女って。さっきのセリフも一見、なんでもないように聞こえますが、彼女の本音を付け加えるとこうです。
『発動練習はいつも自己練でいいとおっしゃるし(お前の手を借りるまでもないってかこの野郎)、本当にユーリ様って手のかからない生徒ねえ。(私のいる意味不明なんですけど)』
・・・・まあ、結構失礼なことしている自覚があるので先生を責める気にはならないんですが。だって呪文教えるだけで発動練習に付き合わなくていいって、あんたには始めから期待してないって言っているのと同じです。呪文の発音教えるだけなら魔法、じゃなくて国語の授業ですものね。魔導師としての矜恃を傷付けられたとして、先生が怒るのも当然です。
でもなあ・・・・流石に毎日この視線に晒されるのは、応えるんですよねえ。
「ふふふ、どうかしました?ユーリ様?」
「いえ、なんでも、ははは」
「ふふふ」
先生、声の可憐さと瞳の怖さが見事に反比例しすぎです。
・・・・マジ怖いわ。ガクブル(泣)。
しかも、なんか
「ふふふふ」
「あ、あの、先生?」
今日、先生、目がいつになくギラギラしているのですけれども。
何かやらかしたのかしら、私。
怯える私に、先生はなおも優しそうな、それでいて背筋の凍る微笑を私に投げます。
そして、さも、なんでもないように爆弾を投下しました。
「あのね、実は今日ユーリ様に実戦練習をしてもらおうと思って。」
「はあ!?」
「あら、ダメでしたか?」
思わず叫んだ私に、先生はおっとりと手を頬に添えて困ったように首を傾けます。
ダメに決まってるやないけ!ボケ!
・・・・っと、本当の所なら言ってやりたいんですけど、あくまで私は公爵令嬢です。そんな乱暴な言葉を使う訳にいきません。ですからなんとか冷静にお断りの言葉を述べました。ああ、身分制度が恨めしい。
「でも先生、私まだ実力不足ですわ」
「大丈夫ですよ。それに、物は試しですよ、ユーリ様。私が勿論ユーリ様を危険な目には合わせませんから、安心して下さいな」
「でも・・・」
さらに言い募ろうとする私に先生の目が怪訝に細められます。
「あら、それとも何か特別な理由がおありで?」
「いえ、それは」
「では、良いのですね。じゃあ早速参りましょうか」
「・・・・・」
なんでこんなことになるんだよおおおおおおおおお!!!
・・・(三点リーダー)が多い気がするのは私だけでしょうか
フローネル先生がとんでもない悪女に笑