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お勉強は戦です

ノーラに付き添われて、家庭教師のフローネル先生の待つ中庭に向かいます。ノーラ、そんな眼光鋭く私を睨まなくても私は逃げませんよ・・・・たぶん。


フローネル先生は魔導師の中では珍しい女性です。なぜかは分かりませんが、女性は男性と比べて魔力量が極端に少ないという傾向があり、普通、魔導師といえば男性です。ですから、当初私の家庭教師を務める女性魔導師を探すのには大変苦労したそうです。大抵の貴族子女が6歳で魔導の指導を受け始めるところ、私は師事する先生が八つになっても見つかりませんでした。それもこれも例の人達(お母様とかお兄様とかお父様とか)のせいです。


兄曰く『ユーリは可愛すぎるからね、野郎なんかに襲われちゃあ大変だ☆』

我が兄ながら馬鹿だと思いました。


まあそれでも、私には二年の遅れなど大したものではありませんでした。


フローネル先生は単に私の覚えが早いため、とおっしゃっていますが、そういうことじゃないんです。書庫で読み漁った本の中には当然魔法に関するものも混ざっていますから、その際に新しい知識として学んだ呪文をこっそり夜中に中庭に抜け出して実践してみたり。そういうことを繰り返すうちに、元々先生に教えてもらうはずだった基礎魔法は、先生が私の家庭教師として雇われる前にほぼ全て独学でマスターしてしまったのです。今では基礎魔法は無詠唱で、その応用に当たる中級魔法も大抵はこなせるようになってしまいました。


中級魔法は12歳になってから通う魔法学校で学ぶものなので、本来なら私のような年齢の子供にできるものではありません。練習するにも危険度が高く、障害物のない広大な土地が必要です。ただその土地の問題も、空間全体に結界を貼ってその中で練習すれば、周囲の建物を傷つけず、この家の中庭でも練習可能だということに気付きあっさりと解決しました。


つまり、です。実際のところフローネル先生に学ぶことは何もないのです。


ではなぜ正直にそれを白状しないのか。簡単です。


そんなことしたら王家に目をつけられてしまうやないか!!!


失礼。取り乱しました。先に言いました通り、王国は白系魔導師を喉から手が出るほど欲しています。そして、その素質がある者には早々に目をつけ、はやから王家付きにしようと企みます。確かに、王家付きになれば地位も報酬も十分すぎるほど与えられるでしょう。でも、です。・・・・・私別にどっちにも困ってないんです。だってすでに公爵令嬢ですもの。将来的に嫁いでも同じ貴族か王族の方へ、という可能性が限りなく高いので生活には困らないはず。


だから、王家付きの魔導師になっても、ねえ?

戦争が起こった時には駆り出されるし、魔族の討伐にも向かわなければいけないし。王族の人々とは頻繁に顔を合わせなければならないし。式典にも絶対出席しなければいけないし。・・・・・魅力が一つもない。面倒です。面倒、果てし無く面倒。


私が自分の魔力量の大きさに気づいたのは、7歳の時。習得した基礎魔法のだいたい半分を無詠唱で行えるようになった頃です。ある日の夕食の席、お兄様がいつもの二割増し笑顔で私を迎えこう言ったのです。


「ねえユーリ、今日僕やっと学校で魔法の無詠唱発動に成功したんだ」

「そうですか、おめでとうございます。それでそれはなんの魔法ですの?」


何気無く聞いた私の問いに返ってきたのは、基礎魔法の中でも結構初めの方に私が無詠唱発動を習得した呪文。当然固まりました。え?


「・・・・・お兄様、無詠唱発動って難しいのですか?」

「もちろんだよ!無詠唱魔法は魔力の消費も激しいし、相当な集中力がいるからとっても疲れるんだ!僕も一回やっただけで立ってられないほどだったよ。基礎魔法の呪文でも、全てを無詠唱で行える魔導師なんてなかなかいないだろうねー、僕も頑張らなくちゃ!」

「そ、そうですの。応援してますわ・・・・ははは、はは」


キラキラした13歳の少年らしい笑みを浮かべるお兄様と、その隣で遠い目をする私。


チート。その意味を真に理解した瞬間でした。


その後、何度魔法に関する書物を読むのをやめようとしたか分かりません。でもできませんでした。だって面白いんですもの。内容が他の本に比べて。読んで読んでと本が訴えてくるのです。無理やりやめると禁断症状が出ました。(・・・・どこの麻薬だよ)しかも、学んだことは試したくなるのが人間の性です。かくして、魔法の練習も止められず、現在に至りましたとさ、めでたしめでたし・・・・・じゃナイです。本当。



本を読むのを止めることはできません。魔法の練習も止められません。ではどうするか。考えに考えた結果、私はある策を思いつきました。誰にもばれなければいいのです。普段家にいる際に魔法を使う機会は無きに等しいので、そのことについて心配はいりません。問題は家庭教師の指導時。授業で魔法を使う際うっかり気を抜いて実力を先生に悟られてしまうと、すぐにでも魔法学校に入れられるでしょう。12歳に達していないだとか、そんなものは関係ないのです。公爵家ですから。王家にも顔が効きます。というか発覚すれば、このようにチートな私を王家の方々が見逃すはずがありません。強制的にでも魔法学校入学決定です。


それだけは阻止しなければ!


魔導師としての栄華なんて望んでいませんし、私は平穏な日常を送りたいだけなのです。誰かと結婚して子供を産み育てて。陳腐で結構!前世ではそりゃあ人より裕福な生活を夢見て勉強も、仕事も頑張りましたよ?出世欲も多少なりともありました。でもですね、あれだけ頑張って最後が『事故死』ですもの。だからこっちの世界では高望みはやめます。平穏に暮らせればそれでいいのです。


ここまで聞いて、でも12になれば魔法学校に入らなければならないのでは?と思った方。鋭いです。


魔法学校は確かに12歳になると入学するのが可能になりますが、何も義務ってわけではないのです。貴族のお坊っちゃま達を含めよっぽどのことがない限り男子は12歳になればほとんどが魔法学校に入学するので、義務化されているように見えますが、女子に至ってはその限りではありません。女子は既述の通り、男子に比べ魔力量が少ないので魔法学校に入る際には、入学試験が課されます。その入学試験もなかなか厳しいようで。トチれば入学は不可です。でもそれは裏を返せば、入学しないで済める手立てがあるということです。


入学試験自体は、公爵令嬢という立場にある者として形だけでも受けなければならないものですが、落ちても当たり前。受かれば泊がつくといった体なので、結果が家格に影響することはないでしょう。フローネル先生を雇っているのも、魔法学校入学、というよりは淑女の一般素養として、という感じです。


つまり、先生に実力を悟られなければ、入学試験を故意に失敗することで、魔法学校入学は十分防げるのです。


だから毎日のフローネル先生の授業は戦なのです。


戦うのよ、ユーリ。

入学阻止(ミッションコンプリート)を目指して。














全体的にユーリの自慢になりました笑

*ちょびっとですが本文修正しました。今後の話に影響するので。

すでにお読み頂いた方々、申し訳ありません。

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