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こんぺいとう  作者: 大平麻由理
第一章 めばえ
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7.煎餅(せんべい) その1

 クラス分けの発表があり、夢美と見事に引き離されてしまったことを知る。

 それも一組と四組。体育の授業すら別々になる。

 案の定、夢美が泣きまねをしながら近寄ってきた。


「うえーん! ひいらと離れ離れになっちゃったね。だってさっきのお願いの方法、効き目絶大って本に書いてあったんだよ? なのにひどくない? 」

「そ、そうだね」

 この場合、取りあえず話を合わせておくのが得策だ。

「ね、ひいらもそう思うでしょ? あんなに一生懸命お願いしたのに、もう何も信じられないよ。あたし、ひいらに毎日手紙書くから……。ひいらも書いてね。絶対だよ」

「わかった、そうする」

「ああ……。でも、でも、ホントに最悪っ! 」 


 夢美は新しい上靴を履いた足で、床をドンドンと踏み鳴らした。


「何が最悪なの? 」


 口をへの字に曲げて、精一杯不機嫌な顔をする夢美に訊いてみた。


「だって川田と同じクラスなんだよ! あーーん、またもや恋のライバルと同じクラスになっちゃった。いやになっちゃう」

「そっか、よりによって川田さんか……。でも、放課後はわたしと一緒に帰れるし、今までどおり、塾のない日はうちに来て一緒に勉強すればいいし。そうすれば中二の時と何も変わらないと思うんだけど」


 鼻息の荒い夢美をなだめるため、あれこれ思いつくままに言ってみるけれど、彼女の眉は八の字に下がったまま一向に好転する兆しは見えない。


「そうだよね。ひいらの言うとおりだと思う。それはわかってるんだけど……。でも、でも、やっぱこのクラス分け、納得いかない! ひいらと同じクラスがよかったのに! 」


 夢美のカールした毛先が、突如湧き上がる怒りに合わせてぴこんぴこんと揺れる。


「夢ちゃん、落ち着いて! たった一年だよ。一年我慢すればここを卒業して、高校生になるんだし。だからね、お願い。そんなに怒んないで、いつもの夢ちゃんに戻って! 」

「う、うん。わかってる、わかってるって。文句言っても仕方ないよね。どうにもならないってわかってても、この気持が収まらなくて……。ひいら、あたしのこと、こんなにも心配してくれてありがと。ひいらはいつだって優しいんだね」

「そ、そんなこと、ないけど。夢ちゃんの方が、わたしなんかよりずっと優しいし……」


 胸がちくりと痛んだ。

 さっき、同じクラスになるためのおまじないをする彼女を疎ましく思ったことが悔やまれる。


「でもいいなあ、ひいらは一組で。堂野くんも同じクラスでしょ? ひいらにとってはどうでもいい相手かもしれないけど、もしもあたしが一組なら、今ごろ学校中を飛び跳ねてるよ。嬉しくて今夜は寝れないって言いながらね。せめてこの最後の三年だけでも、彼と同じクラスになりたかった……」

「夢ちゃん。出来ることならわたしとクラスを変わってあげたいよ。でも、そんな勝手なこと、出来ないしね」


 これは本心だった。

 別に遥と同じクラスにならなくても、わたしの場合、家に帰ればいつでも彼に会えるという特権がある。

 こんなにも遥と同じクラスになりたがっている夢美の望みを叶えてあげられない自分が、もどかしい。


「ひいらはホントに優しいね。あたし、ひいらのためならなんでもする。だから、ひいらも何か困ったことがあったらあたしに言ってね。力になるからね」

「ありがと、夢ちゃん。その時は夢ちゃんに助けてもらうから。そうだ! いいこと思いついた。休み時間は一組に遊びにくればいいんじゃない? そうすれば堂野にも会えるし、わたしも夢ちゃんとおしゃべりできるし。それでもって、わたしも四組に遊びに行くよ」


 堂野くんのことが好き……と春休みにこっそり教えてくれた夢美だけど、もう遥のモテっぷりに慣れっこになってしまっていたわたしは、そのことに関して別段驚きもしなかった。

 文化祭以降、遥が告白されたのは五人。

 夢美みたいに想いを寄せてるだけのあこがれ組を入れると、その数は何人になるのやら。

 他にも男子はいっぱいいるのに、どうしてみんな遥なんだろ。

 フツフツと理不尽な怒りがこみ上げてくる。


 だがしかし。わたしもそのうちの一人なのだから、人のことをとやかく言える立場ではないというのも、よくわかっている。

 わかっているのだけど、自分以外の人が遥を見ているのが、なぜだか許せないのだ。


 遥はおもしろくてひょうきんなくせに、勉強もできるという器用な奴だったりする。

 ところがスポーツ万能とは言い難いところが、逆に人間味を感じて親しみやすく思える要因なのだろうと思う。

 西洋のおとぎ話に出てくる王子様のように完璧ではないけれど、二年生の後半になって、やっと部活のバスケでレギュラーの座をゲットしたと言って喜んでいた彼の得意満面な笑顔が、今もわたしの網膜にはっきりと焼き付いている。

 背の足りない分、日々の努力と持ち前の俊敏さで勝ち取ったポジションだと、自慢げにおばあちゃんに語っていた。


 野球やサッカーも小さい頃から人並みにやっていたけど、残念ながらどれもモノにならなかった。

 落ち着きのなさが災いしたのか、せっかくの俊足を活かせず、補欠の座席をいつも暖めているばかりだったのだ。

 くすぶっていたあの頃が嘘のように、最近の遥の活躍には目覚しいものがある。


 バスケの春の中学校地区大会では、念願の優勝杯を手にして県大会まで出場した。

 夢美に誘われて、本人に内緒で地区大会の応援に行き、その勇姿に再び惚れ直したのは言うまでもない。



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