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こんぺいとう  作者: 大平麻由理
第二章 きぼう
41/70

41.あきらめないから! その1

 駅が見えたとたん突風が吹いて、制服のプリーツスカートが砂埃と共に舞い上がった。

 裾を押さえて、道の途中で立ち止まる。

 すると、その先には……。

 白石史絵が、グリーン系のチェックのスカートにポロシャツ、紺のハイソックスというさわやか女子高生スタイルで、風に乱れた髪を手で押さえながら立っていた。

 また待ち伏せだろうか。

 彼女を見たとたんさっきまであれだけ熱を持っていたわたしの頬は、まるで巨大冷凍庫に放り込まれたかのように、いっきに血の気が無くなり、思わず身震いしてしまうほど身体が冷え切ってしまった。

 遥といえば、昨日と同じように一人改札に駆け込んで行く。

 今朝ほど遥と入れ替わりたいと思った日はない。

 今日は彼女に本当のことを告げようと思ってる。

 遥はわたしカレなのだと……。

 面倒なことは、さっさと済ませた方がいい。

 彼女にこれ以上期待を持たせるのはよくないからだ。


「ひいら、おはよう! 堂野さんったら、また行っちゃったわね。ねえ。ちゃんと私の名前、彼の前で何度も呼んでくれた? ちっとも効果がないみたいじゃない」

「う、うん。実は、そのことなんだけど……。今日、学校が終わったらフミちゃんとどこかで会えないかな? 」

「どこかで? いったい何なの? 」


 あ、あれ? わたし、結構深刻な顔してそう言ったはずなんだけど。

 白石さんは、何を勘違いしたのか、瞳を輝かせて話に食らい付いてきてしまった。


「い、いや。そうじゃなくて。そ、その……。言っておかなきゃならない大事な話があるんだ、フミちゃんに」

「大事な話? もしかして堂野さんのこと? なら決まりね。ひいらの家に行かせて。それなら、オッケーよ。ふふふっ。ひいらと親友になれてホント良かった。彼とクラスが離れちゃったから、なんとしてでも、御近付きになっておかないとね」


 白石さんの瞳がキラキラと輝きを増す。

 これはマズイ。どうしよう。完全に勘違いしている。

 ただし、わたしの家なら、話がややこしくなった時、遥に助けてもらうことも出来る。

 幸い母は、畑仕事か綾子おばさんのお見舞いに行ってるだろうから、もし彼女と言い合いになったとしても咎められる心配はない。

 よし! そうと決まればいざ出陣だ! 

 今日こそきちんと決着をつけるつもりだ。 

 わたしは急に全身に勇気がみなぎり、武者震いをして決戦に挑もうと身構えた。


「ねえねえ、ひいら? 私のこの服、変じゃない? あなたの家に行く前に着替えた方がいいかな? 髪だって、巻きなおした方がいい? だって、堂野さんに会うかもしれないでしょ? ああ。これぞ夢にまで見たあこがれの女子高生ライフだわ」


 こんなにハイテンションな白石史絵を見たの、初めてだ。

 今日の午後に起こることを思えばちょっとかわいそうになる。

 でも同情は禁物だ。ここは初志貫徹あるのみ。

 傷口は浅い内に処置しないと大変な事になる。

 ちっともわたしの本心など理解してくれそうにない彼女に若干いら立ちながらも、恋をする乙女は誰でも一途になるものなんだななどと、感慨深くなったりもした。

 それにしても遥って、本当に罪作りな男だよ。全く……。

 

 心地よい風が吹きぬける四月の昼下がり、午後の授業を終えたわたしと白石史絵は連れ立って坂の上のわが家を目指した。

 道端にひっそりと咲く空色のオオイヌノフグリも、赤紫の小さな花をかわいく揺らすホトケノザも、ただいつものようにそこで、静かに肩を寄せ合っている。

 これから起こるであろう、同じ人物を愛する二人の行く末を暗示させるような不安など微塵も感じさせること無く、空色と赤紫の小さな花弁がそよそよと風になびいていた……。


 カラスノエンドウが群をなして絡み合う一角を過ぎると、遥の家のとんがり屋根が見えてくる。

 庭先のビオラがまるで何百人ものこどもの笑顔のようにそろってこっちを向いて、その上を何も知らない無数のモンシロチョウがひらひらと舞っていた。


「はあーーっ。結構、きついわね。ひいらは毎日ここの坂を上り下りしてるの? 」


 肩で息をしながら白石史絵は、西に傾き始めた太陽の光を左頬に受け、眩しそうに目を細める。


「そうだよ。今はまだいいけど、夏はもっと大変なんだ」


 遥の家を過ぎて、家庭菜園のある畑のところでおばあちゃんに呼び止められた。


「柊、おかえり。おや、お友達かい? 」


 夏野菜の苗を植える準備に忙しいおばあちゃんは、日中は畑に出ていることが多い。


「おばあちゃん、ただいま! 高校の友達の白石史絵さんだよ。母さんは? いる? 」

「いいや。病院からまだ戻ってないみたいだけど。遥は、遅くなるのかい? 」

「ちょっとだけね。部活の体験入部だって」


 不思議そうな顔をしてわたしとおばあちゃんの会話を聞いていた白石史絵が、誰? と小さく訊ねる。


「おばあちゃん。堂野の」


 それを聞いたとたん白石史絵は満面の笑みを浮かべて、こんにちは! とおばあちゃんに向っておもいっきり愛想よくあいさつをした。


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