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こんぺいとう  作者: 大平麻由理
第一章 めばえ
33/70

33.栗の木 その2

「何途中で黙ってるんだよ。その相手ってのが、いったい誰だっていうんだ? 」

「そ、それは……」

「ったく、はっきり言えよ。それともあれか? 柊が困るような相手ってことだとしたら……。うーーん、誰だ。もしかして大河内? 大河内なのか? おい、白状しろよ。そうなんだろ? 」


 遥が鼻息も荒くまたもや目の前に迫ってくる。

 どうしてここで大河内の名前が出てくるのだろう。

 あれから彼とは何もしゃべってないし、もし夢美が大河内を好きならば、とっくの昔に応援している。


「ち、が、い、ま、すっ! そんなわけないでしょ。もし夢ちゃんが大河内君が好きなら、こんなに悩まないよ。それに言っとくけど、わたしが大河内君と仲良くするのを邪魔するのは遥、あんたなんだからね! これ以上、進展のしようがないっていうの! 」

「あ、あれは邪魔とかじゃなくて、柊のためを思って、その……なんだな? そうそう、柊に特定の相手が出来ると不便だから……あ、いや……」


 いつも雄弁な遥がしどろもどろになってる。……なんだかおかしいよ。

 それにしてもわたしのためを思ってって、どうしてそうなるんだろう。

 大河内って、そんなに悪い人だったっけ? 

 彼は人望もあるし、人気者で優しいイメージしかない。

 その証拠に生徒会長をきちんと務め上げたし、先生からの信頼も厚い。

 遥の言い分は到底納得できるものではない。


「わたしに特定の相手が出来ると不便? それってどういう意味? 言葉通りだとすれば、わたしは遥のために、一生特定の人を作れないってことになるよね? 恋人もいないまま寂しい学生時代を過ごせっていうの? 」

「い、いや、そうじゃなくて」

「ねえ遥。そういうのってなんかおかしくない? わたしみたいな地味な人間はこの先誰からも相手にされない可能性だってあるわけだし、おまけに数少ない出会いを前みたいに阻止されて、未来永劫、ずーーっと一人ぼっちで寂しく生きていかなくちゃならないってことだよね? 」


 そうだそうだ。だからと言って大河内と恋人同士になりたいなどとは全く思わないけれど、遥とは今以上の関係を望めないのなら、一生誰とも付き合うことは許されないことになる。

 こんな理不尽なことがあってもいいのだろうか。


「何もそんな大げさな意味で言ったんじゃないよ。柊に本当に好きな人ができたら、それはそれできっと応援するから。俺はいつだって柊の味方だ。なっ? ……だけど大河内はだめだ! あいつだけは絶対に許さないっ! 」


 そっか。本当に好きな人ができたら応援してくれるんだ。

 それはそれでうれしいような寂しいような複雑な気持ちになる。

 やっぱり遥にだけは応援されたくないというのが本心だ。

 こんなことならずっと邪魔してくれた方が百倍もましだということに今さらながら気づく。


 それにしても大河内だけは、何があってもだめなんだ。

 ここまで否定するとなると、何か彼に対するトラウマでもあるのかもしれないなどと詮索してしまうではないか。

 勉強もモテ具合も微妙に大河内に負けているのが、遥の闘争心に火をつけているのかもしれない。

 ここはちょっとなだめてあげなきゃね。


「遥、それなら安心して。実はわたし、その、あの……。す、好きな人いるから。だから、大河内君には何があってもなびかないよ。大河内君には友だち以上の気持ちは持てない。どう? これなら文句ないでしょ? 」

「そうか、なら安心だな……って、おい! おまえ好きな人いるのか? そんなの聞いてないぞ。誰だ、誰なんだっ! 」


 これって、もしかして新たな火種を掘り起こしてしまったのだろうか。

 なんだかすごい剣幕でまくしたててくる。

 結局遥は、わたしの恋を応援する気なんてさらさらないんだ。

 単なる独占欲の(かたまり)だ。


「柊、誰なんだ? なあ、教えてくれよ。なあ。俺とおまえの仲だろ? 大昔に言ったじゃないか。二人に隠し事はなしだって」


 確かに言ったけど。あれは本当に大昔のことで、自分だけおやつをもらっても必ずお互いに分けるとか、おばあちゃんに叱られる時は抜け駆けしないで一緒に、だとか。

 それと今回のこの話は全く別物だと思うのですが……。


「じゃあ、俺も教えるからさあ。ねえ、ひいらぎちゃん、お、し、え、て! 」


 そんな、似合わない乙女チックな上目遣いをされても、遥には言いたくない。

 こればっかりは言えない。言えるわけがない。


「わたしはね、遥の好きな人なんて聞きたくもないし、だからわたしも教えない。いい? わかった? 」

「わからん! 」

「遥のわからずや。もうっ、なんでこんな話になるんだろ。だから、今話してるのはそんなことじゃないでしょ? 夢ちゃんと藤村のことだったはず。ほんとに、遥はのんきなんだから……。なんで夢ちゃんは、こんな人がいいのかなあ。はあ……っ……」


 ため息と共に、ぼそっと話してしまってから気付いた。

 わたし、たった今、とんでもないこと言わなかっただろうか、と。

 言ったかな。言ったかも。

 いや、言ってしまった。

 

 後の祭りとは、まさしくこの瞬間を指す言葉なんだと、自分の失敗を機に学ぶことになってしまった。


 


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