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こんぺいとう  作者: 大平麻由理
第一章 めばえ
29/70

29.そこそこかわいい その2

 でも……。それと同時に、さっきの大河内の真剣な眼差しを思い出してもいた。


「で、でもね。さっきの大河内君、いつもの大河内君じゃなかった。遥が言ったみたいに、ちょっとはそんなこともありかな、なんて思った。ほんとに、ちょっとだけだから。でもあの大河内君だよ? モテてモテてモテまくりの彼が、わたしなんかに興味持つのかな? 自慢じゃないけどわたし、今まで一度だって、誰からも告白なんてされたことないし、美人でもないし、愛想もそんなに良くないし……」

「確かにそうだよな」


 そんなあ。なんだかショック。

 わかっていても面と向かってそうだと言われると、乙女心がチクリと痛む。

 わたしはますますヒドイ顔になるのは承知の上で、ぶうっと頬を膨らませた。

 ささやかな遥への反抗だ。


「あはははは……! そんなに拗ねるなよ。柊のいいところは俺が一番良く知ってるから、それでいいだろ? 」


 遥もわたしの目の高さに合わせるように、背中を丸めてこたつの上に直接頭を乗せている。

 すると突然左斜め前にいる彼の手が、わたしの目の前に伸びてきて……。

 頭を撫でてくれた。よしよしって、小さい子をなだめるように、何度も往復する。

 随分久しぶりに遥のぬくもりを髪越しに感じる。

 さっき手首をつかまれた時は痛かっただけだけど、今は違う。

 彼の手は、思いのほか優しく温かかった。

 う、うわっ。どうしよう。恥ずかしくて、心臓が爆発しそうになる。

 遥、お願いです。もう、それくらいでやめて下さい。

 これ以上は、とても耐えられそうにありませんから……。


 わたしは遥の手が離れたと同時に、むくっと上半身を起こすと、多分真っ赤になってるだろう頬を隠すようにして両手で頬杖をつき、さりげなく質問を始める。


「ねえねえ遥。わたしのいいところってどんなところ? 教えてよ」


 気になる。遥が誰よりも良く知ってくれているいいところって、何だろう。

 遥がそんな風に思っていてくれただなんて、嬉しすぎる。


「そうだなあ。友達思いだろ? それに力持ち。ピアノうまいし、よく食う。そこそこ勉強できて、そこそこかわいいところかな? 」


 力持ちって、それ褒めてないですから。よく食べるのは認めます。

 で……。そこそこかわいいというのは、評価してもいいのでしょうか?


「そうだ、柊。誰にも告白されたことないって言ってるけど、かなり損してるよなあ。多分……」

「なんで? わたしの性格が悪いの? それとも顔のせい?」


 性格は直すように努力するけど、顔だけはどうにもならない。

 損な外見を克服する方法は、かなり高度な技を必要とするのだろうか。


「ぶはははは……! 」


 突然、遥が大声で笑い出す。

 何も、そんなに笑わなくても……。早く損な理由を教えて欲しい。

 別に誰からも告白されなくても何も困らないし、今のままで十分満足な中学生活なんだけど。


「俺がいるから、誰も何も言ってこないんじゃないかな? 」


 ああ、そういうことね……って、それはつまり、遥が強力なガードになっていて、誰も寄って来ないということなのね。

 わかるような、わからないような、複雑な気分だ。


「俺に言ってくる女子も、必ず柊ことを訊くぞ。そりゃあ、俺たち、恋人同士でもなんでもないけど、見た目付き合ってるみたいに見えるらしいからな……」


 そうなの? わたしたちが、付き合ってるように見えるだなんて、嬉しい誤算だ。


「なあ、柊。いっそのこと俺と付き合ってみる? どう? ひいらぎちゃん……」


 は、遥……。そんなにじっとわたしのこと見ないで。

 もしかして、本気なの? それとも……。


「じょ、じょ、冗談でしょ? 」


 この状況が信じられるはずもなく。

 遥の様子をそれとなく窺い見る。

 わたしだけを映すその瞳は、とても嘘を言っているようには思えない。

 けれど、そんな唐突に、それも一生の一大事をこんなに簡単に言ってのけるなんて。

 信じろという方が無理な話だ。

 世の中のカップルはみんなこんな感じで付き合い始めるのだろうか。

 なんか違うような気もするけれど……。

 付き合うとかそんなことよりも、遥の本当の気持ちが知りたい。

 わたしのこと、どう思ってる? 

 少しは期待してもいいのかな? だとしたら……。


 その時、遥の目がキラリと光ったのを見逃さなかった。

 わたしがオロオロしているのを楽しんでいる目だ。


「うそだよーーん。おまえ、本気にしたろ? まあ、もしまた大河内に迫られたら、俺と付き合ってるとでも言って断ってくれていいから。それに俺達が付き合うったって、これ以上どうしようもないしな。だろ? 」

「ま、まあね」


 アブナイ、アブナイ。まんまと遥の口車に乗せられるところでした。

 でも……。

 なんで大河内に迫られたら断らないとダメなの?

 わたし、大河内が嫌いだなんて言ってないし、彼との今後をどうしたらいいって遥に相談したわけでもない。


 でもね、わたしが好きな人は遥だけだから、たとえ大河内が何か言ってきても返事は決まっているんだけどね。

 遥ったら、少しはわたしのことも、気にかけてくれているのかな。

 なんだかんだ言っても、いつもそばに居て困ったことがあったら駆けつけてくれるのは、目の前の遥なんだから。

 当分はこのままでいいよね。

 今のままの関係がちょうど心地いいんだもん。


 遥へのこの想いは、今はまだ、わたしの胸の中にそっとしまっておこう。

 うん。そうしよう。

 彼と一緒に過ごせるこの時間をこれからも大切にして行こうと思った。

 


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