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こんぺいとう  作者: 大平麻由理
第一章 めばえ
27/70

27.柊、危機一髪! その3

「ふふふ、びっくりした? あのね、わたしんちの蔵城家と隣の堂野家は親戚同士なのよ。だから、気楽にいろんな物を貸し借りするんだ」

「し、親戚? 」

「そう」


 ほら。大河内の顔に赤みが差してきた。彼も納得したのだろう。

 なーんだ、そうなのか、そうかそうかと何度も頷いて、しまいには、あははと笑い出す。


「蔵城は、まだピアノを習ってるの? 」

「うん。今回の伴奏を最後に辞めようと思ってるけどね」

「そうか。受験だもんな」

「うん。ちょっとは勉強しないとね。大河内君は? まだ習ってるの? 」

「僕ももうやってないよ。六年生の終わりに辞めたんだ」

「そっか」


 彼は今はもうピアノのレッスンには行っていないけれど、好きな曲を弾いて勉強の合間の気分転換をしているそうだ。

 はやりのポップスなんかも、ピアノ用スコアを買ってきて、弾き語りを楽しんだりもしてるらしい。

 それって超レアな情報かも。

 大河内の歌声ってどんな感じなのだろう。

 ちょっと聴いてみたい気もする。


 彼の好きなアーティストや最近話題の映画の話で盛り上がっていると、気がつけばもう時計の針は六時を指していた。

 た、大変だ。

 指揮の話なんて、これっぽっちもしてないよ。

 去年、彼と同じクラスだった時の楽しいやり取りが再現されて浮かれていたわたしは、今日大河内がここにいる理由など、すっかり忘れてしまっていたのだ。

 焦っているわたしのことなどおかまいなしに、彼は棚にあったCDを手にする。

 これ僕も持ってるよと、どこまでもマイペースな大河内大輔にあきれながらも、彼が持っているCDを見て、ある記憶がよみがえった。


「あっ、それ堂野のだ……。返すの忘れてた。気に入ってるからもらっとこかな? 」


 まさかあのCDがそこにあったとは……。

 随分迷子になったままだった遥のCDが、突如大河内の手の中に姿を現す。

 以前、あんなに探しても見つからなかったのにね。


「ははは……! 全く、蔵城らしいよ。でもさすが親戚だよな。堂野と君とは音楽の趣味も似てるんだね。君たち、いとこ同士? 」

「ええっ? ちがうよ。いろいろややこしいんだけど、結局のところ堂野とは血の繋がりはないんだ。親戚なのに、変わってるでしょ? 」


 そう言いながらも、再度この運命にこっそり感謝しているわたしがいる。

 だって……。それなら、将来もしも、もしもだよ。

 遥と恋人同士になったりしても、誰にも遠慮はいらないし、咎められないよね? 

 えへへへへ。

 にやついているわたしをよそに、部屋の半分は、いつしかどんよりと鉛色の空気に包まれ始めていた。


「あいつとは、血が……。繋がってないの? そ、そうなんだ……」


 再び凍りついたような表情になった大河内は、わたしを冷ややかな視線で凝視している。

 お、大河内君、いったいどうしたんですか? 

 わたし、また何か変なこと、言いましたか?


「一度、君に訊きたかったのだけど……。蔵城は、誰か付き合ってる人とかいるの? 」

「へっ? つ、付き合ってる人……ですか? 」


 わたしは呆気に取られて大河内のいつ見てもきれいな顔を覗き込む。

 だって、付き合ってる人だよ? そんなもの、いるわけないじゃない。

 見れば分かるでしょ。

 それに、なんで大河内がそんなことを訊く必要があるの?


「そう。そんな人がいるのかなと思って……。で、もし。蔵城にそんな人がいないのなら」


 大河内がじりじりと近寄ってくる。

 ちょ、ちょっと、待ってよ。


「も、もし、わたしに、そんな人が……いないのなら? 」


 あまりにも真剣な大河内の瞳に吸い込まれそうになりながらも、その場から逃れたい一心で、ゆっくりと後ずさりを始めたその時だった。

 急に部屋の襖戸が開く音がして後を振り返ると、ついさっきまで思い浮かべてにやにやしていた、血のつながらない親戚がそこに姿を現したのだ。


「大河内、悪いけど。こいつ付き合ってる奴、いるから……。柊、おばあちゃんが呼んでる。もたもたしてないで早く来い! 」


 わたしと大河内の間に入って来た遥が、怖い顔をして突如まくし立てる。


「そ、そんな急に! わ、わかったから。今、行くから! 」


 遥はそこにいる大河内を、さっさと帰れと言わんばかりに睨みつける。

 大河内は不服そうな表情を浮かべながらも、遥に何も言い返さなかった。

 ただ、わたしの方をちらっとだけ見て、黙って部屋を出て行った。

 大河内の姿が部屋から消えたのを見届けるや否や、遥の手がわたしの手首を掴み、強引にひっぱられる。


 それにしても、どうしてこのタイミングで遥がやって来たのだろう。

 それに今、こいつ付き合ってる人がいるって、大河内に向かって言わなかったっけ? 


 このわたしが、誰かと付き合っているってことだよね。

 もちろん、そんなのは口からでまかせだってわかってるけど、腑に落ちない……。

 窮地に追いやられたわたしを、遥が機転を利かせて助けてくれたことには違いない。

 と言うことは……。


 も、もしかしてわたし。大河内に迫られていたのかな? 

 信じられないけど、そういうことなのかもしれない。 

 

 まさか……。このわたしが、あの大河内に?

 わたしの心臓はありえないほどドキドキと鳴り始め、遥についていくのが精一杯だった。



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