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こんぺいとう  作者: 大平麻由理
第一章 めばえ
25/70

25.柊、危機一髪! その1

 明けて翌日、練習の成果が出たのか、指揮がうまく出来るようになった藤村は、各クラスの指揮者の集まりで成果を披露したところ、音楽の先生に褒められたと言って気をよくしている。

 その時、かの大河内大輔君に、どうしてそんなに急にうまくなったのかと訊ねられたらしい。

 彼もまた、二組の指揮担当者なのだ。

 そこで藤村は何を血迷ったのか、蔵城は教え方がうまいから、おまえも習ってみればいいとついつい言ってしまったなどとのたまう。

 藤村、それは違う。絶対に違う!

 遥の手助けがあったからうまくいっただけで、わたしの教え方なんてちっとも役に立ってないのに。

 あのまま遥が来なければ、今ごろ藤村は指揮を辞めていたかもしれない。

 それくらい、遥の功績は大きかったはずだ。

 なのに、どうしてわたしに? 

 遥に習った方がよっぽど成果が出そうだ。

 多分、藤村は気を利かせたつもりなのだろう。

 わたしが大河内を好きだと言ったことがあるから、彼なりに応援してくれているのだ。

 ああ、嘘なんて吐くものじゃない。

 これは天罰として受け止めなくてはならないのだろうか。


 藤村の話しを聞いたわたしがあまりにも不機嫌になったものだから、彼はホントに深い意味はなく、つい口がすべってしまっただけだよと言い訳に徹する。

 せっかくわたしのために一肌脱いだ気持ちでいた藤村にとって、この展開は予想外のものだったようだ。

 ああ、藤村君、わたしのために大河内君を誘ってくれてありがとう……と感謝されると思っていたのかもしれない。

 そしてもうひとつ、堂野には内緒にしておいてくれ、と涙目で懇願された。

 もちろんそんなことまで、いちいち遥に言うわけもなく。

 それでなくても今のわたしは分が悪い立場なのに、遥に大河内のことを誤解されたら身もふたもない。

 ここは隠密にことを運ばないと、取り返しのつかないことになる……。


 それにしても、どうして藤村が遥に気を遣っているのだろう。

 遥に知られたら、都合の悪いことでもあるのだろうか……。

 わたしは考えぬいた結果、ある回答を導き出した。

 そうだった。

 今回の合唱はあくまでもクラス対抗のコンクールなので、わたしたち一組の手の内を、ライバルである二組に見せてしまうのは、マズイってことだ。 

 つまり、わたしが大河内に指揮を教えたというのがみんなにバレたら、遥は委員長として、クラスのみんなに顔向けが出来ない。そういうことなんだ。

 大河内がわたしの指導のおかげで力をつけて、結果、二組が優勝なんてことになったら、わたしも藤村も、みんなから裏切り者に認定されること間違いなしだ。

 ここは遥はもちろん、クラスのみんなにも大河内のことがバレないように気をつけようと思った。



 放課後わたしは、校舎一階ロビーの黒板式掲示板に、委員会の連絡事項を書き込んでいた。

 今日に限って、書く内容が盛りだくさんだ。

 色も変えて、イラストも書き添えて……。

 まだまだ終わりそうにない。


 すると、帰り支度を整えた大河内がとびきりの笑顔と共に今日はよろしくと告げに来た。

 わたしは辺りに人がいないかどうかきょろきょろと確かめて、力なく笑い、こちらこそよろしくとぎこちなく微笑み返す。

 一緒にいるところは当然のこと、帰るところまで誰かに見られでもしたら、それはこの世の終わりを意味するからだ。

 学校で一番人気を誇るこの元生徒会長と肩を並べて道を歩こうものなら、全生徒からブーイングの嵐を受けるのは間違いない。

 サラサラとした長めの前髪を少し後ろに流し、彫りの深い目元が時折ドキっとするくらい大人っぽい。

 メガネの奥にきらめく真っ直ぐな瞳だけが、彼が中学生であることを物語っている。

 去年までは、そんな大河内の飛びぬけて整った容貌に全く気付きもしなかったのに、遥のことが好きだと自覚してから、大河内の美男子ぶりもようやくそこそこ理解できるようになってきた。

 みんなが騒ぐ理由がようやくわかるようになった自分が少し誇らしい。

 確かに背も高くて頼れる感じの大河内だが、二番目に好きと言っても、藤村と横並びくらいの好きさレベルだ。

 遥のことだと一日中でも思いを巡らせていられるけど、大河内のことは五分もあればすべてこと足りる。

 いや、もしかしたら一分もあれば十分かも……。


 生徒に見られないようにするため、住宅街のコンビニ前に三十分後に待ち合わせてわたしの家に行こうと提案した。

 けれども彼は、一度家に帰って着替えてから直接うちに来ると言う。

 変だ。彼はわたしの家の場所など知らないはずなのに、どうしてそんなことを言うのだろう。

 大丈夫かなと首をかしげていると、堂野の家を知っているので蔵城の家もわかると再びにっこりと微笑んだ。

 おおおっ! 必殺スウィートスマイルの連打だ。

 あまりにも彼の笑顔がまぶし過ぎて、息を呑んで眺めているうちに、どうして遥の家を知っているのか訊ねることもできないまま、あっという間にわたしの元から去って行った。

 二人は部活動もちがうし、同じクラスになったこともないはずだ。

 小学校も違ったので遥との接点は皆無のはず。なのになぜ遥の家を知っているのだろう。

 ますます合点がいかないが、とにかく掲示板の仕事をさっさと終えて、早く家に帰ろうとチョークを握る手に力を込めた。


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