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こんぺいとう  作者: 大平麻由理
第一章 めばえ
24/70

24.マエストロの宣言 その2

「……ったく、のん気に寝てるんじゃねえよ。人が訊いてるのによ」

「つ、つい、うっかりと……」

「なあ柊、なんでいつもそんなに眠いんだよ。夜、ちゃんと寝ろよ。いいか。今度こそしっかりと聞け」

「わ、わかりました。ごめん、遥、藤村……」


 両手を合せて拝むようにして謝りながら、上目遣いで遥を見上げる。


「あのさあ……。俺、前から気になってたんだけど。そこのお二人さん、最近なんかコソコソしてないか? 俺、のけ者にされてる気分なんだけどなあ」


 遥ったら突然何を言い出すのかと思ったら、そんなことなんだ。

 ならば答えは簡単だ。


「別に、何もコソコソなんてしてませんよ。今日だって藤村がうちに来るよって、昼休みに遥に教えたじゃない」


 藤村もコクコクと頷いて、なんで? というように不思議そうに遥を見ている。


「そんなんじゃなくて、なんかこう……。内緒話をしているような、なんというか……」

「内緒話? 」

「そうだ。まさかとは思うけど、おまえたち、実は付き合ってるってことは……」


 なんでそうなるのよ。

 なんてったって藤村は、遥の親友でしょ? 

 なのにこっそりわたしと付き合ってるなんてこと、ありえないし。


「堂野、いくらなんでもそれは話が飛躍しすぎだろうが。おまえ、俺の好きな奴が誰かって知ってるだろ? 俺にだって好みってものがあるし、蔵城はちっちぇえ頃から知ってて、そんな対象になるわけないし。それに、おまえの蔵城取ってどうするの? 」


 そうそう! 藤村ナイス! ……って今、なんて言った? 

 ええ、ええ。そうでしょうとも。藤村君、わたしがあんたの好みじゃなくて悪かったわねえ。

 それに小さな頃から知ってたら対象にならないって、理由になってないし。

 だって夢美のことだって同じくらい小さな頃から知ってるくせに。

 彼女みたいにかわいくなくて、ごめんね……じゃなくて……。


 おまえの蔵城って言わなかったっけ? 

 それってわたしのことだよね。

 わたしは遥のモノになってるのですか? い、いつの間に?

 わたしがキョトンとしていると、バツの悪そうな顔をした遥が、余計なこと言うなと藤村の頭をポカッと殴っていた。

 頭を掻きながら、スマンと謝る藤村は、心もちニヤニヤしたままだ。


「堂野、わかったよ。そんなに、怒るなよ。俺はただ、その……。夢美のことを、蔵城にいろいろ教えてもらってただけだから。何も隠しちゃいないってば。そうだ! 俺さあ……。文化祭が終わったら、彼女に告白するつもりなんだ。なので、二人とも協力よろしく! 」


 突如、頬を紅潮させた藤村がとんでもないことを宣言する。

 こ、こ、告白? 遥が顔を引きつらせて、黙り込んでしまった。

 藤村くん、あんた衝撃的すぎますから。

 そんな大事なこと、こんなところで堂々と言っちゃっていいのですか?


「早くしないと、誰かに取られてしまうからな。だって彼女、かわいいだろ? 」


 ますます顔を赤くした藤村が、ガラにもなく照れてモジモジしながらそう言った。

 確かに、夢美はかわいい。

 わたしと違ってかなりかわいい。

 だからって、遥まで一緒になって深く頷いてて大丈夫なのだろうか。

 ボヤボヤしてたら藤村に先を越されちゃうよ。

 遥も夢美が好きなんだよね。

 だったら、今ここではっきりと言わないとだめだよ。


 わたしはまだ、遥に本心を確かめられないでいる。

 もし遥が本当に夢美を好きだとしたら……。

 わたしは遥も夢美も。大事な人を二人とも同時に失くしてしまうことにもなりかねない。


「それに蔵城の様子だと、夢美の奴、別に好きな人が居るみたいな気もするし。彼女が行動起こす前に、俺、手を打つから」


 ふ、藤村……。おとこらしいぞ! 

 遥が変な気を起こす前に、さっさと夢美を落とすんだ! 

 生まれて初めて、この昔馴染みの藤村が真の男に見えた瞬間だった。


 でもね、夢美の想い人は、今、藤村の隣でお菓子を口いっぱいほお張っている、遥なんだからね。

 どうかお願い。

 わたしのためにも夢美の心をがっちりつかんでよね。

 ね、藤村君。


 もし親友であるならば、友人の恋を応援するのが友情の証でもあるんだけど、遥だけはどうしても、何があっても彼女には渡せない。

 夢ちゃん、ごめんね。


 とうとう、わたしと遥が二人でタッグを組んで、夢美との仲を取り持つため、藤村を全面的にサポートすることになった。

 でも、このことが夢美に知れたら、彼女との友情も終わってしまう。

 だってわたしは、彼女がどれだけ遥を好きかってことをわかっている。

 なのに、好きでもない藤村をくっつけようと後押しするだなんて……。

 夢美はわたしを困らせまいと気を遣っているのか、まだ一度も遥との仲を取り持って欲しいと言ったことがないのだ。

 もしかしたら夢美は、わたしの本当の気持ちに気付いているのかもしれない。

 最近特にそう思うようになってきた。

 なのに彼女の本心を知りながら、全く違う男を押し付けようとしているわたしは、卑劣極まりない最低の人間なのかも……しれない。

 ああ、どうすればいいのだろう。


 その夜、苦しそうな顔をした夢美の姿が何度も脳裏をかすめて、なかなか寝付けなかった。

 彼女を裏切るような気がして、心がしくしくと痛んだ。



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