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こんぺいとう  作者: 大平麻由理
第一章 めばえ
19/70

19.テレビごっこ その2

「ちょっと、遥、遥ってば。背が伸びたんじゃない? 」

「急に何言い出すんだよ、うるせえやつだな……。いつと比べて伸びたって言えばいいんだ? 」

「いつって……。この前。そう四月の測定のあと、167センチって言ってなかった? 」

「随分前の話だなあ。夏休み前に170越して、今は多分175に迫る勢いで伸びてるはずだけど……」

「ええっ? 」


 わたしとしたことが、今の今まで遥の背がそんなに伸びていることに全く気がつかなかったのだ。


「もしかして柊。俺の身長、まだ167だと思ってたのか? がっはははははっ! 先生にもみんなにも、すれ違うたびに伸びたなって言われてるの、知らないってか? ほんっと、おまえってやつは……。毎日、どこ見て暮らしてるんだよ。俺って、かわいそう。おまえ鈍すぎ……」


 遥がさも残念そうに、大げさに首を振る。

 どこ見てって、もちろん、遥ばかり見て暮らしていたはずなんだけど。


「ちょっとちょっと、こっちに来て」


 わたしは廊下にある姿見のところまで遥をひっぱってきた。

 横に並んで鏡をみると、あきらかに十センチ近く差がある。


「ほんとだあ……。遥、大きくなったねえ」


 鏡の中の遥をしみじみ眺めて、わたしは大胆にも遥の腕に自分の腕を絡めてカップルのように腕を組んでみた。


「うわあーっ。釣り合ってる。ねえねえ、似合うよね? わたしたちって、結構絵になると思わない? 」


 目の前にいる二人は、誰がどう見てもきっとお似合いの二人。

 今だけのかりそめの姿であったとしても、こうやって並んで立っているのが死ぬほど嬉しくて、絡めた腕に力を入れてしまう。

 ひとりでににやけてしまうのを止められないまま、隣にいる本物の遥を見上げたその瞬間、彼の左手が、パコンとわたしの頭を直撃した。


 調子こいてるんじゃねえっ! とお笑い芸人さながらの突込みが、私を襲う。

 イタタタ……とわたしが大げさ目に頭をさすっている間に、遥が腕をスルリと振りほどくと、あっという間にそこから逃げるようにして、さっきと同じようにテレビの前に座る。


「柊っ! 俺は、まだまだデカくなる予定だからな。そうだ! 180越したら、腕組んで、町中を一緒に歩いてやる。みんながうらやましがるぞ! 」


 う、うそ……。ホントにそんな日が来るのかな? 

 胸の辺りがキュッと締め付けられるような、せつない気持ちになる。

 でも、嬉しがってるなんて思われたくない。

 あくまでも遥は、わたしの本当の気持なんて知らないんだから。

 冗談で言ってるだけなんだとわかっているから……。


「何、その高慢な態度。言っとくけど、遥がみんなからうらやましがられるんだからね。高嶺の花の、このひいらぎちゃんが、背が高くなったご褒美に遥とデートしてあげるんだから! 」


 さりげなくデートという言葉を会話に織り交ぜながら、わざと上から目線で答えてみた。

 その瞬間、遥の眉がピクッと上がったのを見逃さなかった。

 そりゃあわたしは高嶺の花でもましてや草でもありませんから。

 わたしと歩いたって、誰もうらやましがったりしないのはとっくに理解している。


 でもこうやってののしり合っていると、自然に本音が言えたりする。

 遥は冗談だと思ってるかもしれないけど、わたしは結構本気なのだ。

 でもね、もしみんなみたいに、マジで遥に告白とかしたらどうなると思う? 

 うまくいく可能性はゼロだし、その後も延々と親戚付き合いを続けていかなくてはならないから、気まずいことこの上ない。

 親戚なんかじゃなくて、もう少し離れたところに住んでいるただのクラスメイトだったら、告白してたのかな……。


 でも、やっぱり恥ずかしい。

 そんなこと、できるわけないじゃない。

 ついさっきまで親戚のメリットで浮かれてたけど、今はそれがネックになって落ち込んでいる。

 結局どっちみち、遥には振り回される運命なんだね。


「おい、そんなとこに立ってないで。早くこっちに来て、俺様の力作を見るっ! 」


 遥が自分の横のフローリングの床をポンポンと叩きながら座れと言う。

 わたしは言われたとおりに、彼の隣に膝を抱えて座った。

 遥自慢の自作ビデオは、お世辞にも見やすい画像とはいえなかったけど、やたらわたしが登場してたのには、何か意味があるんですか? 

 撮るなら前もって言ってくれればいいのに。

 髪とかもきちんとセットして、お気に入りのスカートはいて。

 かわいいポーズくらい、取ったのにな。

 それに、あんなに大口開けて、お寿司を食べたりもしないよ。

 わたしって、もう少しかわいいと思うんだけど、どれもこれも変な顔ばっか。

 嫌な感じ。

 思わず画面から目をそむけてしまう。


 こんな出演者で撮影の仕事をしたって、視聴率はボロボロに決まってるよ。

 辞めるなら今のうちだ。

 わたしは遥に、おもいっきり文句を言ってやった。


「あ……。そんなことは、別にいいんだ。人の動きや背景のはまり具合をチェックしてる段階だからね。ははは、柊の顔がぶさいくとか、かわいいとかは、どうだっていいから」


 ひどい、いくらなんでもひどすぎる。

 もう二度とこいつのカメラの前に立つものか!


 わたしは決意も新たに、いまいましい、けれどもやっぱり愛しい遥の顔を、ふくれっ面で睨み返してやった。



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